第2話ー3 初クエスト開始
「ではステラ、ジェイド、ヨーイチ。頼んだぞ」
「了解」「はーい」「分かりました」
まだ日が出ていない時間帯の朝方、ギルド裏手から馬車に乗って出発する俺達。
ここから西の街へ続く街道があるのだが、危険な森や山近くは迂回して敷設されている。
昔はその山を通るのが唯一の道で、街までほぼ一直線で行けるので時間は大幅に短縮できるらしい。
「ただ当然整備もされてないし、魔物の出現もたまに報告されてるらしいし、よくそんな所通ったなあのおっさん」
「護衛にお抱えの冒険者を使っていたらしいのだが、いずれも青銅3級。その魔物は話に聞く限り、2級討伐対象だろう」
「4歩行のイノシシのような見た目で、馬車くらいの大きさ――それ絶対キラーボアじゃん。めっちゃ凶暴でめっちゃ動き回るし剣も歯が立たないくらい硬いし……」
馬の手綱を引きながらブツブツ言ってるジェイドはさておき。
荷台に座っているのはステラと俺だが、さすがに会話無しは応えるので適当に話題を振ってみる。
「そういえばステラさんとジェイドって姉弟なんだっけ」
「あぁ、しかし一時的とはいえパーティの仲間なんだ。ステラでいいぞ」
「ステラは冒険者になって長いのか?」
「……11歳の誕生日にギルドへ登録したな。今年で6年目になる」
「そんな小さい頃から!? ……割と普通のことなのか?」
「いいやそんな事はない。15歳になる前から冒険者になろうとする者は珍しいだろうな――しかし君はそんなことも知らなかったのか? 外国から来たと聞いてはいたが」
ギクッ――。
「それに気にはなっていたが……新人なのにフルプレートメイルとは気合が入っているな。しかもどこかで見たことあるデザインだ」
ギクギクッ!
「――そうだ、アムルの実家の美術館に飾られていた鎧。アレによく似ている」
ギクギクギクッ!
「ね、姉さん! そうだ。アムルちゃん王都の美術館に就職したんだけど聞いた?」
御者台に居たジェイドが思わず口を挟んでくる。
「ん? もちろん。事件のこともな――すまないなジェイド。丁度私は依頼でダンジョンに潜っていたから、聞いたのは出てからなんだ」
「それはしょうがないよ。アムルちゃん、姉さんにもよろしくってさ」
「あぁ。また王都へ行く時は顔を出してみよう」
なんとか追求されずに済みそうだ。
そんな世間話をしながら旧街道の入り口、その近場にある村へとやってきた。
街道沿いにはこうした旅人や冒険者が休めるような宿場町みたいな村が点在する。
ここにはドルドのお抱えの冒険者が荷物の監視と、俺達を案内する為に駐在しているらしい。
待ち合わせ場所の宿屋の前に行くと、そこには細身の長身で中年の男が待っていた。基本的な革と鉄の胸当て、そして右腰には剣の鞘がぶら下がっている。
「アンタらがドルドさんの依頼した冒険者か。よろしくな」
「これが依頼証明書だ、よろしく」
互いに軽く右手で握手をする2人。
「……案内する」
男がジェイドの隣に座り、道を支持する。
街道から少し離れた森から入り、さらにどんどん奥へと入っていく。
整備されていない路面はガタガタになっており、馬車もそれなりに揺れる。生身なら腰が痛くなりそうだ。
「――やはり妙だな」
ステラの独り言が聞こえたのは俺だけだろう。
その意味を訪ねようとした時、ジェイドの叫び声が響く。
「敵襲だ!」
「!」
その叫びと共に、前方から土煙が見えた――。
旧街道の正面から何かが走ってくる。
それは鹿の群れように見えた。だが問題はそこではなく、その鹿に見覚えのある魔物が乗っていたのだ。
「ゴブリンだ!」
斧や槍で武装したゴブリンがこちらへ向かってきている。先頭に1匹、やや後ろに2匹ずつ並んで計4匹だ。
すぐに馬車を止め、ステラは荷台からすぐに飛び出した。
遅れて俺も外へ出るが、それをステラが静止する。
「ヨーイチとジェイドは馬車を守れ。奴等は私が相手する」
そう言うと同時に剣を構え、一瞬で敵の目の前まで跳躍した。
「ぎゃ!?」
「ふんっ」
そのまま左下から斜め右へ斬り上げ先頭の鹿とゴブリンの身体ごと切断する。
さらに回転を加えて左右のゴブリンもまとめて斬ってしまう。
「ぎゃッ!」
やや後方へ居た為に攻撃から逃れていたゴブリン2匹は仲間が斬られたことを察知し、直様攻撃に転じる。
鹿上からステラに槍を突き刺すも、彼女は真上に跳躍し、付近の木を足場にさらに跳躍。即座にゴブリンの首を落とし、返す剣で残るゴブリンの身体を両断した。
本当に、一瞬とも言えるほど短い時間の出来事だった。
ちなみにその間の俺とジェイドは、ゴブリンが居なくなり暴走した鹿が馬車に衝突するのを防いでいた。守れってそういう事か。
お抱えの冒険者は隅っこの岩陰に隠れていた。この野郎。
「……よし終わったな。死骸はテキトーに片付けろ。先を急ぐぞ」
(この野郎が!)
◇◆◇◆◇◆◇
「やはり……妙だな」
「ステラ、さっきから何を考え込んでるんだ」
ステラはチラッと馬車の御者席を伺い、馬車の最後方を指差す。
俺もそれに従い最後方へ移動する。
「この依頼、妙な点が多いと思ってな」
「妙? ……例えば?」
「まずあの男の装備。剣をどちらの腰に付けているか分かるか」
「……右だったような」
「そうだ。だが握手をした感触だと掌のタコが付いていた。つまり奴は右利きということになる」
「ふむ」
剣を抜くなら左に付けてないと抜き難い。
「わざわざ岩陰に隠れてこちらの様子を伺っていたのも気になるが、それよりさらに不審な点がある」
「不審?」
「ドルド氏は急にクズ鉱石が必要になったと言ってたが、それなら何故在庫から出さなかった。あるいは、何故鉱山の町で加工所を設けてないのか――と、気にして見れば色々出てくる」
商人であれば商品の在庫は常に余裕を持つだろうし、そもそも馬車で運べる量を考えたらもっと近場で加工所を造っていれば手間も掛からない、か。
「着いたぞ」
男がこちらへ呼び掛ける。
馬車から降りるとそこは森の出口だった。後は山の崖沿いに道が続いている。
「この先に行った所で荷物の積んでいた馬車の残骸があるはずだ――こっちに来い」
すぐ近くの低い崖からロープが降りている。馬車は行けないので邪魔にならない所で停めておき、俺達はロープで上に登って行く。
そこには粗末なテントが建てられていた。
「ここから荷物の場所を監視している。おい、ギルドの奴らが来たぞ」
しかし男の呼び掛けにテント内から声は無かった。
「――いねぇぞ」
俺も後に続いてテントの中を見たが、いくつかの麻袋などの荷物は置きっぱなしのままである。荒らされたような形跡は無いが……。
「……崖下だ!」
ジェイドが指差すと、階段になっている崖の下に何か鎧のような物が見える。まさから落ちたのか?
「おいおい、面倒事は嫌になるぜ」
仕方なく全員で崖下に降りて見ると――そこで全員が絶句した。
冒険者は確かに居たが、上半身が無かったのである。
何かに食い千切られたような下半身が、そこには倒れていた。
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