第2話ー4 VS星命の獣<マナビースト>


 無残な姿になった冒険者の死体を発見した俺達だったが――。


「貴様、1つだけ答えろ」

「な、ななにをだよ」

 

 即座に懐のナイフを取り出し男の首筋に当てるステラ。

 

「あの積み荷の、本当の中身だ」

「中身って、クズの魔鉱石だろ!?」

「最初は魔鉱石のピンハネをしていると思っていた。クズ鉱石をカモフラージュにしてな」

 

 採掘量が国に決められていると言っても、広大な鉱山の作業場に対して全てを監視することは不可能だ。

 国には必要量だけ納め、裏ではドルドのような闇商品を取り扱う商人が高く買い取ってるのだ。鉱夫達からも金が多く入れば文句は出ないという事か。


『警告します』

 

(うわっびっくりした)


 ニーアからの突然の警報。

 

『周囲に急激な魔力――マナの上昇を検知しました。すぐに退避することを勧めます』

 

 その警報を聞き、ふと気付いた事がある。

 さっきまで聞こえていた小鳥のさえずりや、昆虫の鳴き声さえ――消えている。


「だが、それも違うようだ――この纏わりつくような殺気。間違いない、星命の獣マナビーストだ」

「なんなんだよそれ!」

「ともかくここだと戦えない。開けた場所に移動する、走れ!」

 

 ステラはナイフを仕舞うと、即座に崖から飛び降りる。ジェイドと俺、そして男もそれに習う。

 

「マナビーストってなんだよステラ!」

「詳しく説明している暇は無い! とにかくヤバい強さの魔物だ!」

 

 急いでいるのは分かるが、全く分からない説明だ。


『代わりに私が説明しましょう』

 

(お願いします)

 

『マナと呼ばれる魔力は大きく分けて2つあります。生物の持つマナ、星が持つマナ』

 

 星のマナは血液のように地表の中を循環しているが、偶発的に地上へ噴き出すことがあるという。

 それが鉱山に流れ込めば鉱石に、樹木に流れ込めば果実に、高濃度のマナが凝縮され封じ込まれる。


『それが星命の卵マナストーンと呼ばれる存在です』

 

 説明してくれている間も、俺達の後ろから迫ってくる異様な気配はそこにあり続けた。

 

『星命の卵は非常に不安定な存在です。例えば、これを人間や魔物が誤って飲み込んでしまうと膨大な星のマナに耐え切れず――暴走してしまう。それが星命の獣マナビーストの正体です』

 

(なんかヤバイのかそれ!)

 

星命の獣マナビーストは常に生物のマナに飢えています。基本的には手当り次第に食べようとして来ますが、特に人間の持つマナが好物のようです』

 

(だから追って来てんのか!)

 

『さらに特徴として、食べた生物の姿と能力を取り込んでしまうことが挙げられます』

 

(それが1番ヤバいじゃん!!)

 

「ここだ!」

 

 都合良く、周囲360度開けた地形の平地を見つけれた。

 ぬめった殺気は相変わらず森の奥から漏れ出してくる。

 

「う、うぅ……うわぁぁああッ!」

 

 黙って着いてきた男だったが、この殺気に当てられてか恐怖のあまり反対方向へ飛び出した。

 

「待――」

 

 ステラの静止も間に合わず、男は森の中へ逃げて行った。

 

 ――そして。

 

「ぎゃあああぁぁぁ――」

 

 男の悲鳴が森中に響き渡り、静寂が訪れた頃――それは現れた。

 

「来たか」

  

 男の逃げた方向から、巨大な白い身体がゆっくりと……こちらへ歩いてきた。


 周囲の木々と同じくらいの背丈、真っ白な毛並み。顔はイノシシの顔だが、違うのは濁った赤い2つの瞳。口元と白い身体は血で染まっている。

 さらに特徴的なのは大きな剣を持っていることだ。そんなのどこにあったんだろうか。

 

「その辺の岩や――もしかしたらクズ鉱石もコイツが回収したのかもしれん。それらを利用して冒険者の記憶から剣を作り出したのだろう。星命の獣マナビーストならそのぐらいの芸当は出来る」

「……なんでもアリかよ」

「姉さん、どうする」


 ステラは即、叫んだ。


「――防御だ!」

 

「るうぉぉぉおおおおおおッッ!!」

 

 ビーストは突如、魔力を乗せた咆哮をこちらへ浴びせて来た。

 

『生物の肉体の動きを鈍化される効果があります。しかし魔力を放出し高密度を維持しながら纏わせることで回避できます』

 

「――ッ!!」

 

 咆哮と共にビーストは一気に距離を詰めつつ、大剣を振り下ろして来た。

 攻撃は誰にも当たらなかったが、そのまま大地が砕けるほどの威力だ。

 全員バラバラに散開し、ステラが正面。ジェイドと俺が左右に位置取る。

 

「ジェイド、ヨーイチ。頼んだぞ」

 

 ステラはそう言うと、剣を両手で構える。剣を覆う魔力が紅く輝き、それは炎のようだった。

 

「紅炎、」

 

 脚に貯めた魔力を一気に放出し、ビーストの懐まで跳躍する。

 即座にその攻撃へ反応したビーストは大剣をステラの脳天目掛けて振り下ろす。

 それと同時にジェイドと俺はビーストへ向かって走り出す。

 

「一閃!」

 

 ステラの声に呼応するかのように剣がさらに燃え上がった。紅い孤を描き、大剣を砕きビーストの両手を斬り落とす。



 実は逃げている最中、ステラと簡単に作戦を立てていた。

 このマナビーストとやらは必ずコアが存在し、そのコアから供給されたマナでどんな傷も一瞬で治るという。

 だからステラが正面から戦い、その隙を俺らで突くというものだった。


 作戦通り両手を斬り落とすが猶予は殆ど無い――。

 ジェイドの魔力を帯びた突きが心臓コアのある部分を狙う。

 俺の魔力を纏った拳も同様だ。


「たぁぁッ!」

「はぁぁッ!」

 

 だが俺達の攻撃が当たるかと思った瞬間、俺は見た。

 このビーストは――わらったのだ。

 

「ぶるぉぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 ビーストは口から紫色のガスを大量に放出。

 さらにその白い背中から、新たに腕が4本生えたのだ。

 ジェイドと俺の一撃はその腕に阻まれ、残る腕で吹き飛ばれた。

 

「ぐぁっ!?」

「くっ!」

 

 正面に居たステラはガスを全身に浴びてしまい、さらに再生した腕で腹を殴られてしまう。

 

「がッ!?」

 

 全員が離れてしまった所に畳み掛けるように、すぐ様ビーストは口を大きく開いた。

 

「るうぉぉぉおおおおおおおおおッ!!」

 

 再び咆哮。

 吹き飛ばれたジェイドは身動きが殆ど取れていない。ステラは――咄嗟に防御したようだ。剣を突き立てながら、よろめきながら立ち上がる。

 

「く、そ……」

 

 その間に俺も体勢を立て直したが、ビーストの様子がおかしい。

 

「るぉ、ぉぉ、おああ」

 

 小刻みに震えながら、6本の腕を大きく広げる。

 すると紅い瞳が、6つに増えた。

 さらに地面に散らばった大剣の破片を拾い集め、それらは6本の手の中で、6本のショートソードへと変貌した。

 

「ぶほっ、ぶほっほっほっ」

 

 もうイノシシ男というより蜘蛛男という見た目だ。

 

『解析しました。あの紫のガスは強い酸性と毒性を持ちます。本来なら魔力で防御していれば防げますが、さらに魔力を食う性質を持っているようです』

 

「マナビースト特有の技能って訳か」

 

『恐らくインフェルノスパイダーと呼ばれる魔物を取り込んでいたようです。ただし、この付近は生息区域から外れています』

 

「――ステラ!」

 

 俺は即座に跳躍し、ステラを覆うように立ち塞がる。

 間一髪間に合ったが、背中へは無数の斬撃が当たる音が響く。

 

「に、逃げ、ろ――な、んとかして……食い止める」

 

 先程のガスを吸い込んだのだろうか。喉が焼けたのか声は殆ど掠れ、喉元が紫に変色している。

 顔など露出していた部分は火傷みたいになっている。

 

「……ステラ、頼みがある」

「なん、だ?」

「俺を着てくれ」

 

「――は?」

 

 キョトンとした顔で、ステラはこちらを見ていた。



  ◇◆◇◆◇◆◇



『搭乗者を確認――ステラ=カーティスを登録します。骨折などの肉体の損傷および解毒を同時進行で開始します。一時的に痛覚を遮断します』

 

『鎧の再稼働を行います。操作権限は――』

 

「ステラだ」

 

 身体を動かす感覚が無くなるが、意識はハッキリしている。

 ステラの肢体に繋がったケーブルから彼女の魔力が全身に巡る。


 そして、変化は鎧にも起きていた。


 白い装甲が、金の装飾に沿うように赤に染まっていき――装甲は桜色に変化したのだ。

 

「るぉ?」

 

 突如起こった変化に、ビーストも思わず攻撃の手を止めた。

 

『ステラ――後は頼んだ!』

「あぁ!」


 ステラは、立ち上がった――。


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