第2話-2 真紅との出会い
ここはギルドの3階の1番奥の部屋。
他の部屋と同じく質素な木製のドアだが、プレートには『ヨド』とだけ書いてあった。
コンコン――と2回、ドアをノックするジェイド。
「銀2級、ジェイド=カーティス入ります」
「入れ」
ドア越しでも分かるくらい威圧感のある、そしてダンディな低い声が漏れる。
「失礼します」
「し、失礼します……」
この部屋はギルドマスターの執務室なのだろう。ドアを開くと、両隣に本棚や観葉植物の鉢、よく分からないが高そうな置物もある。壁にはシンディア大陸と書かれた大きな地図――なんだか昔、社長室に入った時の事を思い出すかのような部屋だ。
その奥に高価そうなテーブルと椅子に座る、見た目は50代くらい。髪やヒゲに白髪が混じり、老けて見えるが屈強な身体とその威圧感のある眼差しに、思わず俺も緊張してしまう。
「よく来てくれた……隣の鎧の奴がそうなのか?」
「はい。彼を今回の依頼の協力者として雇いました。まだ新人ではありますが、腕はオレが保証します」
「依頼内容を伏せたまま協力者探せて悪かったな。依頼者からの要望で極秘裏に進めたかったんだ」
「ギルドマスター、ドルド様がお見えになりました」
ドアを開けて入ってきたのは金髪碧眼耳長……つまりエルフだ。秘書っぽい格好と眼鏡がよく似合うクールな美人さんである。
「あぁ、応接室に通してくれ」
「分かりました」
◇◆◇◆◇◆◇
「いやはやヨド殿、今回は依頼受けて下さって本当に感謝してますよぉ」
悪趣味かつ高価な衣装を着た小太りの商人と言うしかない見た目の男が、椅子に座りニコニコと手揉みをしている。
動く度に体中の宝石の付いたアクセサリーがジャラジャラいってる。
「国の御用達商人であるドルドさんの頼みですからね。正規の手順だと少し時間が掛かるので、今回は特別に私の推薦する冒険者にやらせることにしました」
ギルドマスターの後ろで立ち、挨拶をする俺達。
「銀2級冒険者のジェイドと申します」
「部下の響陽一と申します」
「おぉっ。ヨド殿の御推薦の冒険者とは! いやぁこれは安心できますよぉ」
「えぇ。さらに今回はウチのエースにも手伝って貰う事になりました。そろそろ外から帰って来るかと思いますが……」
「エース! もしかして真紅の?」
と、そこでノックの後に、応接室のドアが勢い良く開く。
「ギルドマスター、遅れて申し訳ありません。ステラ=カーティス、ただいま到着しました」
それは上等な糸のような繊細さとは裏腹に紅く長い髪。目鼻立ちもスッキリとした美人の女性だった。歳は10代と20代の間くらいだろうか。
格好こそ酒場にいた男の冒険者と同じような無骨で地味な出で立ちだが、どこか凜とした――例えるなら女騎士という印象だ。
「お、おぉ。貴女がステラ殿ですか! お噂はよく――真紅の閃光の通り名は、王都にも届いていますよ! いやぁ噂なんかより、やはり実物は美しいですな!」
「貴方は?」
「これは失礼しました。私は今回の依頼をお願いした、商人をやっておりますドルドと申します。以後、お見知りおきを……」
と言いながらステラの手を握るセクハラ親父っぷりを披露するドルド。
こっちからは見えないがニヤニヤした気持ち悪い笑みでも浮かべてるのだろうか――ふと隣を見ると何故かジェイドと、さらにギルドマスターまでもが片手で頭を抱えている。
「ドルド様――」
「しかし本当にお美しいですな。もしステラ殿がよろしければ、この後お食事でもどうですかな」
そう言いながら今度は隣に回り、肩と腰に手を回す。
「ドルド様――」
ステラはにっこりと微笑んだ。
どこかで聞いたことがある。笑顔とは本来、敵を威嚇する為のモノだと――。
「は――へぶしっ!?」
ドルドの頰を平手――ではなくグーで思いっきり殴り飛ばすステラ。ドルドの身体が空中で5回転くらいして地面に1回バウンドしてから倒れた。
「ごふぅっ!!」
一瞬だけの静寂。
「ステラ! だから毎回言ってるだろうが! ちょっと触られたくらいで依頼人を殴り飛ばすな!」
まさかの常習犯。
「すいませんギルドマスター……さっきまでオークの群れを狩ってたので、つい間違えましたって言い訳で納得して下さい」
真顔で飛び出てくる言い訳。
「できるか!!」
「じゃあ今月はセクハラオーク撲滅強化月間なのでやりましたって事で」
「さ、さすが噂通りの強さ……あ、脚も美しい――ごふるッ」
この期に及んでステラの足を触りに行ったドルドはステラの反対側の脚の蹴りにやられて仰け反った。
(いやタフ過ぎるだろこのセクハラ親父)
「姉さんストップ! さすがに死ぬって!!」
「……ちょっと下から回復術師呼んで来てくれ」
◇◆◇◆◇◆◇
「なんだか記憶が曖昧で……どこまで話しましたっけ?」
回復術師によって傷の手当と、記憶操作魔法によって仕切り直しとなった。
ドルド本人は居眠りをしていたことになっているが、ふとしたきっかけで記憶は戻るので余計な刺激は与えないようにと厳命があった。主にステラに対してだが。
「今回の依頼の詳細をお願いします」
「お、おぉそうでした。ここから西にある鉱山地帯にあるシーオクの町はご存知かと思いますが――」
ドルドが語るには、その鉱山から採掘される魔鉱石は本来採掘できる量が決まっており、それを国が厳重に管理している。国に一旦納められた鉱石はそこから各街の商人ギルドなどへ卸されるらしい。
しかしそこにドルドは目を付けた。納品される魔鉱石は選別された状態が良いモノばかりなので、品質の劣る鉱石は本来ならば廃棄されるか町の鍛冶屋に卸される。
それを買い取り、一部は加工などを行い売るという。国を通さないので値段がそこまで高くなくても良く、これがよく売れるらしい。
「ただ今回のクズ鉱石は急ぎで欲しい事情がありまして……旧街道を通ってしておりましたら、モンスターに襲われまして――運んでいた業者は無事でしたが、馬車を壊され荷物がそのままになってしまいまして……」
「なるほど。ではその荷物を回収する為の護衛、ということですか」
「はいぃ」
「分かりました。では具体的な話を詰めましょうか」
そこから先は退屈な話だったが、俺達は終わるまで待機しているのであった。
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