第2話 ギルド登録は大変だ

第2話ー1 ギルドに登録しよう

「でっかいなぁ――」

 

 俺は今、この街で2番目に立派な建物の前にいる。

 ちなみに1番目は教会だ。通りかかった人に聞く所によると、アレはディアト教のコーディア支部らしい。

 コーディアというのはこの街の名前。このシンディア大陸南部にある中では1番大きい街らしい。

 

「まぁRPGロールプレイングの基本は街の人からの聞き込みだよな」

「にゃー」

「おっとしまった……ありがとうなー」

「にゃーん」

 

 人気の無い路地まで移動し、そっと鎧の留め具を外し、中から猫を出してやる。

 

「いやー助かったよ」

「にゃっ」

 

 それは返事を返してくれたのか、薄い茶色の野良猫は鳴き声と共にどこかへ行ってしまった。

 どうやらこの世界の生物はみんな魔力を持っているらしく、偶然通りかかったジェイドにテキトーに入れられた野良猫から魔力供給できるとは思わなかった。

 

「ギルドに顔を出すって言ってたから多分ここだよな」

 

 立派な木造の建物は年季の入った見た目をしている。3階建てで、1階は丸々冒険者達の酒場になっているようだ。

 入口の横に【開業50年周年! ギルド&酒場「王の爪」ただいま営業中】と描かれた看板が立て掛けてある。

 

「よし、入ってみるか」


  ◇◆◇◆◇◆◇


 

「いらっしゃいませー。掲示板なら右手奥、注文は左手奥になります」

「おぉ」

 

 中は人、人、人――とにかく多くの冒険者で賑わっていた。

 冒険者の中には背の低い髭面の親父(ドワーフか?)、耳長の美形の女性(エルフだ)、なかには全身が毛で覆われている獣人っぽいのもいる。とにかく多種多様の冒険者達が酒を飲んだり、掲示板の前で依頼を探したりしている。

 

「――ここから俺の冒険者生活が始まるんだな」

 

  掲示板の横にいくつか受付カウンターのようなものが見えるので、まずはそこで聞いてみる。

 

「すいません、ここで冒険者の登録をしたくて……あ、申し遅れました。私、冒険者協会で登録した新人でして」

 

 サラリーマン時代を思い出させる、奥ゆかしい物言いで低姿勢な性分はここでも変わらないのは少し悲しかった。

 受付嬢さんは少し困った顔をしながらこう言った。 


「申し訳ございません。ただいま新人冒険者さんの登録はしていないんですよ」



 第2話、完。



 

 などと呆けて場合ではなかった。

 

「最近は特に依頼も多くて、それに合わせて冒険者になる新人さんも多く……だけどトラブルも増えちゃって。しばらく新人さんは取らないことになったんです」

「あ、はい。そですか」

「ウチはフリー冒険者方向けの依頼の募集もしてますから、まずはそちらをご覧になって下さい」

「……えっ、登録とか無くても受けられるんですか!?」

 

「フリーの方は依頼登録料として銀貨15枚を払って頂ければ。依頼完了報告の時に、手数料の銀貨3枚を差し引いて報酬と合わせてお返ししています」

 

「……あ、分かりました」

 

 

 俺はお金をほぼ、持っていない。

 

 一応ジェイドからこの前の報酬の一部を渡されたのだが、形はどうあれ鎧を無断で拝借してしまった負い目もあり、王都へ旅立つアムルにせめてもの手向け代わりに渡してしまったのだ。

 故に、手元のお金は銀貨5枚。

 

 (……詰んだ?)

 

「おいおい、どーしたんだニーチャン。ヒック……途方に暮れちゃって」

 

 後ろから声を掛けてきたのは近くのテーブルで飲んだくれていた、おっさんグループの1人だった。特に鎧などは付けていないが、腰には使い古した鞘がぶら下がっている。

 怪しいっちゃ怪しいが、四の五の言ってる場合ではなかった。

 

「いやー。新人は今登録できないって言われちゃって」

「あー。この前から加入した新人が箸にも棒にもならないってギルマスがボヤいてたなぁ――ヒック」

「アイガーさん、飲み過ぎですよ」

「大丈夫大丈夫。オレ達は青銅級のベテラン冒険者だぜ」

「おいアイガー! そりゃ関係ないだろ!」

「うるせー! ベテランはな、酒にも強くならないと務まらないんだぜ!」

 

 冒険者のランクに関しては協会で聞いた。国によって冒険者ギルドというのはランクの呼び名が違うらしい。

 この国では「銅」「鉄」「青銅」「銀」「金」「白銀」――という感じで金属の名前が使われている。

 外の国ではこの下に、例えば青銅なら「青銅3級」と名乗るのが決まりらしい。この下の数字が世界共通ランクになる。


「へぇー、じゃあ今までどんな依頼受けてきたんですか?」

「お? オレらの武勇伝聞きたいか?」

 

 おっさんの話を聞いて、俺は1つの作戦を閃いた。

 

「聞かせて下さい。あ、おねーさん、この人達にこのお酒1杯ずつ!」

「ニーチャン話が分かるなぁ。よしっ――アレは1年前の冬だったっけな」

「アレってなんだよ。つーかそれなら半年前のアレの方が凄かったろ!」

「アレがアレじゃ分かんねーだろ!」

 

 この人達は正規のギルドメンバーであることに間違いはない。受付嬢さんの胸元に爪を基調としたデザインのバッジを付けていて、この人達も胸元か腕に同じバッジを付けている。

 これがメンバーであることの証なのだろう。

 フリーの冒険者が新しく依頼を受けるには登録料がいる。しかし、メンバーのパーティーに一時的にでも入れて貰えたら、登録料無しで報酬の1部が分け前として貰えるはずだ。

 もちろん新人故に安いだろうけど、大手のギルドともなればその辺りの支払いでゴネる心配は多分無いはず。

 

(この俺の作戦は完璧だ。後はイレギュラーさえなければ――)

 


 なんてフラグを立てるんじゃなかった。

 

 このおっさん達は確かに正規のギルドメンバーには違いなかった――ほぼ引退してることを除けば。

 

「その、このギルドでは2ヶ月に1度依頼をこなしていれば除籍は免れます。さらに冒険者は過酷な面もありますので……あのぐらいのお歳になると簡単な依頼を受けつつ、酒場で飲んだくれる方も居まして……実績と腕は確かなんですよ、アイガーさん達」

 

 と、横で受付嬢さんが丁寧に説明してくれた。

 

「ニーチャンありがとなー!」

「何か困ったことがあったら、このオルガ様とアイガーとマッシをよろしくな!」

「このままネーチャンの店行くかー!」

「「おぉー!」」

 

 

 手元には銀1枚と銅2枚――。

 

 (やっぱ詰んだ……)

 

 途方に暮れてひとまず壁際で体育座りをしていると、見覚えのある赤髪の青年が受付にやってきた。

 

「うわぁぁん、ラーナちゃぁぁん。聞いてくれよぉぉ」

「あらジェイドさん、こんにちは――聞きましたよ。この前の強盗事件の早期解決の功績で、銀2級に昇級したんですよね!」

「そぉぉなんだよぉぉ。絶対あのバカマスター、昇級祝いとか言ってめっちゃ厳しい依頼投げてくるんだぜー。行きたくねぇぇぇ」

「頑張って下さいね」

「ラーナちゃんの胸元で慰め――ぐぇ」

 

 カウンターに登ろうとしてる所を顔面グーパンチで撃退されているのは見知った奴だった。

 

「ジェイド! 良い所に居た! ていうかお前、そんなキャラだったか?」

「――あー、ヨーイチか……ヨーイチ! 良い所に居た!」

 

 逆さまに倒れた状態から即座に俺の足元に纏わりついて来た。

 

「頼むよヨーイチぃ……オレと一緒にクソマスターの所に行ってくれよぉ。夕方に呼び出しされてんだよぉぉ」

「へばり付いて来るなよ! というかあのキリッとしたキャラはマジでどこいったよ!」

「お姉さんやアムルちゃんとあと、街の女の子達の前以外だと大体こんなんです……」

「こんなんか……」

 

 とても残念な情報を聞いてしまった。

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