第1話ー8 そして俺は冒険者になる


 男の意識が無くなると共に、俺の視界も戻って来た。


「おえっ……凄い気分悪い。内蔵とかないのに」

 

『……』

 

「ニーア?」

 

『なんでしょうか?』

 

「いや……なんでもない」

 

  俺は遺体を鎧内から取り出すと、丁寧に地面へと降ろす。こいつ等は恐らく金の為、フードの男に言われるがまま犯罪に手を染めていたのだろう。こんな結末を迎えて正直同情もしないが……それでも嫌な気分だ。


 ジェイドとアムルに今観たモノを伝えた。

 

「――あー。もしかしてウロボロス教団の連中が絡んでるのか」

「ウロボロス教団?」


 もちろん俺は知らないので、素直に首を傾げる。


「この国ではディアト教が国教と定められています。信仰の自由はある程度認められていますが、ウロボロス教団はその、魔王信仰をしています」

「当然、邪教認定されて定期的に掃除されてるんだが……近年は大人しかったんだけどな」

「でも流石にそのまま報告は出来ないよな」

「そのままはな。まぁこういう証拠品もあるし、上にはそれとなく報告しとくよ」

 

 ジェイドは懐から幻影魔法に使われていた装飾ナイフを取り出す。

 

「……アムル?」

 

 アムルは無言でしゃがみ、両手を胸の前で組み祈りを捧げた。

 

「ディアト様、どうかこの人達を、せめて安らかに眠らせてあげて下さい……」

 

 ジェイドは若干釈然としない顔をしつつもアムルに習う。俺もそれに習った。


 気付けば……夜も更けていた。

 

 

 

 ――――――――――――


 

 

「はい。身元保証人はジェイド=カーティス様ですね……承りました。これでヒビキ様は冒険者として登録しました。おめでとうございます。これからのご活躍にご期待しています」

 

 ザ・役所って感じのお姉さんに微笑まれテキトウに返事を返し――俺は晴れて冒険者になったのだ。

 

 こうやって冒険者協会に登録申請をするのだが、さすがに異国の身元の怪しい人間は登録さえできないのでジェイドに頼んで保証人になって貰った。

 まぁこの前の事件で手伝ったんだからその報酬みたいなもんだ。

 

「やっぱギルドに登録してクエストこなしてランク上げる感じなのか?」

「はい。登録するのは国立ギルドか、認可を受けた民間ギルドどちらでも構いません。登録しないでフリーでやってらっしゃる方も居ますが、最初はやはりどこかへ所属した方がいいですよ」

 

 その他簡単な説明を受け、俺は冒険者協会を後にした。

 季節的には春なんだろうか。陽気な日差しが気持いい。

 

「これからどうするかなー」

「あっ、ヨーイチさん!」

 

 声がする方を向けば、上品なデザインの白いワンピースのような格好をしたアムルが馬車の中から手を振っていた。

 

「よぉアムル。これからどっか行くのか?」

「うん……王都の美術館で働けることになって。お祖父ちゃんの美術品で無事だったモノはそこで展示されるの」

 

 あの後。

 盗まれた美術品の内、完全に紛失していたのは3点であることが分かった。

 初代勇者の人物画、初代勇者の銀の彫像――そして初代勇者が着ていたとされる鎧。

 

(まぁ最後のは俺なんだが)

 

「ジェイドさんにもさっきお見送りして貰ったの」

 

 嬉しそうに色とりどりの花束を見せてくれる。見たこともない花だが、お金が掛かってそうだ。

 それだけでジェイドがどれだけアムルの事を気にかけてるのか分かる気がする。

 

「ジェイドさんとお姉さんのステラさんとは子供の頃からよく一緒に遊んでて……この街にもそんな思い出がたくさんあって……」

「……」

 

 俺も元の世界からこっちに来て早7年になるが、向こうの世界に居た家族や、会社の同僚達は元気にしているのだろうか。

 

 懐かしくもあり、寂しくもある。

 しかし俺も新しい世界で生きていく覚悟が、その少女の今にも泣きだしそうな――それでいて強い瞳を前に決まったのかもしれない。

 

「俺も頑張るから、アムルも頑張ろうな!」

「――はいっ!」


 街から去っていく馬車を見送り、俺は意気揚々と両手を上げて叫ぶのであった。

 

「やるぞ!!」

 

『魔力残量が低下しています。省エネモードに移行します』

 

「え、ちょっと待っ」

 

 俺はそのまま、ジェイドが迎えに来てくれるまで、ちょっとした通りの名物になっていたのだった。



 第2話に続く

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