第1話ー7 強盗はそれを見た


「惨いですね――仲間割れでしょうか?」

「いや。これは獣型の魔物か――」

 

 五体満足に残っている方が珍しいレベルの惨殺っぷりだ。

 ジェイドの言う通り、確かに遺体の身体には爪で切り裂かれたと思われる傷が多数残っている。腕や脚なんかも食い千切られたようだ。

 

「ひぇ。こ、ここって街はずれの遺跡跡ですよね。そんな凶悪な魔物が出るなんて聞いてないですよ!」

「落ち着けって。多分これは――さっきオレ達が戦ったシャドーウルフの仕業だ。それも召喚されて使役された、な」

「そ、そうなんですか?」

「野良の魔物がこんな食い方するかよ。臓物も食い荒らされてないし……犯人が雑に隠滅工作したんだろ」

「なるほど……」

 

 兵士とジェイドが会話するのを後ろで待機する俺とアムル(中にいることは兵士には内緒だ)

 ちなみにニーアデスに頼んで視覚情報をカットして貰っているが、会話で察しているだろう。

 

「こんな結果になるとはな」

「おいヨーイチ。ひとまず兵士達に応援呼んで貰うから、しばらくここに待機な」

「げぇ、化けて出そうだな」

「化けてくれた方がいいよ。そしたらここで何があったか分かるし――結局犯人の目的とか分からず仕舞いか。後でどやされそうだ」

 

『周囲の魔力反応、ナシ――魂の存在、確認できません』

 

(魂の存在とかも感知できんの?)

 

『魂にはマナと呼ばれる魔力が含まれるのでそれを感知することができます。しかし、人が死ねば魂が解放され周囲に漂うはずですが、その反応が一切ありません』

 

(即成仏しちゃったってことか?)

 

『不明です。しかし人為的な要素が深く関わっていると思われます』

 

(うーん、もう魂とか無いなあ調べることもできないか)

 

『いいえ。魂はなくとも、そこに肉体はあります』

 

(ん?)


 ニーアデスがしてきた提案を、そのままジェイド達に伝える。

 正直気乗りがしない。

 

「お前、本気でそれやるの?」

「俺だって嫌だよ!」

「すいませんヨーイチさん。私からもお願いします。どうしてお爺ちゃんは死なないといけなかったのか……犯人はどうして美術品を狙ったのか知りたいです」

「……頑張ります」

 

 アムルに外へ出て貰い、1番無傷そうな遺体を探し出す。

 それは奇しくも、あの時マーキングを付けた親分と呼ばれた男だった。

 身体から大量の血が流れ出て、既に死後硬直も始まっていたが無理矢理、俺の”鎧内”へ押し込んだ。

 

「うぇ……感触が最悪だ」

 

『搭乗を確認しました。これより脳へ侵入。記憶の解析を行います』

 

 ニーアデスには祝福ギフトを目覚めさせる以外にもいくつか機能がある。それはかつて魔力の枯渇に伴い、意図的に封印された。

 それが俺という存在。そしてアムルからの魔力供給によって1つ解放されたのだ。

 乗っている人間の記憶の解析を行い、俺の知識へと加えることができるらしい。

 

『解析終了。視覚へ映像を出します』


  ◇◆◇◆◇◆◇


 その男は元々鉱夫だった。

 しかし鉱山に魔物が住み着くようになり、ギルドへ討伐依頼を行っても魔物に返り討ちにされてしまう。

 度重なる依頼に膨れ上がる依頼料。

 ついに国が動いたかと思えば鉱山は危険区域として封鎖されてしまった。

 伝手のある所へ仲間達は移住していくが、そこも全員受け入れることは出来ない。

 途方に暮れていた所に、フードに包まれた男は現れた。

 

  ◇◆◇◆◇◆◇

 

 「お、アンタ。あの鎧が動くなんて聞いてないぞ!」

 「……依頼の品より多いですね」

 

  フードの中がよく見えないが、声は若い男のようだ。

 

 「へへへっ、アンタには迷惑掛けないよ。中身見てくれ、いらないのは俺達が頂くからよ」

 「……困った人達ですね」

 

  ざくっ――その音に男が見下ろすと、胸元に何かの装飾が入った剣が刺さっていた。

 

 「あっ? あぁ?」

 「親分!?」

 「時期に国の兵達がここへやってくるでしょう。申し訳ありませんが、貴方達は――」

 

  フードの男が何か仕草を行うと同時に、足元の影からシャドーウルフ達が飛び出した。

 

 「ここで終わりです」

 「うわぁぁぁああ!?」

 「や、止めてく――ぎゃああッ」

 

  ある者は喉笛を髪切られ、ある者はその鋭い爪に切り裂かれ――幾ばくの時間もなく、全員血溜まりに沈むのであった。

 

 「ど、どうして……」

 「さて。貴方達の穢れた魂は、僕達がきっと救ってみせますのでご安心下さい」

 

  虚ろう意識の中、フードの男が両手を上げる。それと同時に胸元にあった蛇の装飾のアクセサリーが男の目に入り――そこで意識が途絶えた。

 

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