第8話

エブリスタ海岸沿いに建つ瀟洒なホテルで結婚式と披露宴が行われることになった。

「ウェディングドレスを着るのこれで二回目でしょ?一回目のときのこと何も思い出せないから、だから……」

「無理して思い出すことはないよ」

航大さんが肩をぽんぽんと優しく撫でてくれた。

「もしかして緊張してる?」

「だっていつもは新郎新婦に寄り添い結婚式と披露宴をプロデュースする生徒たちを見守る側だったのが、まさか自分たちの結婚式を生徒たちにプロデュースしてもらう側になるとは思ってもみなかったから」

航大さんが額の汗をハンカチで拭った。

「そろそろ式がはじまります」

女子生徒が呼びに来た。その子の顔を見た瞬間、えっ?と思わず声をあげてしまった。

「どうしたの?」

「どこかで会ったような気がして……航大さん彼女の名前は?」

茉白ましろさんだよ。名字は確か……」

「大金です。ハンちゃんひどい。忘れるなんて」

「あ、そうだ。大金さんだ。大金茉白さんだ。度忘れしてごめんなさい」

大金……?一瞬聞き間違えじゃないかそう思った。たまたま偶然名字が同じだけ。エブリスタウンにいる訳ないもの。そう自分を納得させた。でも茉白さんと二人きりになると、

「私の母の旧姓はあなたと同じ木幡です。こんな偶然あるんですか?あなたは一体誰なんですか?」

「ごめんなさい。私には昔の記憶がないんです。だから何も思い出すことが出来ないんです」

「それどういうことですか?ドレスの試着のときに撮影した木幡さんの写真を見た両親がまるで幽霊でも見たかのように信じられないと驚いていました。両親とはどういう関係なんですか?答えてください」

矢継ぎ早に質問攻めにされた。

「大金さん、寧音さんは嘘をついていません。記憶を失っているのも本当です」

海人くんが険しい表情で控室に入ってきた。

「披露宴が終わったらあなたにすべてを話そうと思っていたんです。式の開始時間を遅らせる訳にはいかないから手短に話します。寧音さんはあなたのお父さん、大金隼士さんの元妻だった人です。2005年10月9日、1ヶ月前から行方不明だった当時3歳だった長男の海人くんの遺体が北泉海岸で発見された。その時のショックで3日後にお腹の子を流産し離婚したんです」

「ちょっと待って」

大金さんの声が震えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る