第5話

こんな偶然があるのだろうか。男性は莉子さんのお兄さんだった。

「見ての通りうだつのあがらない格好よくもないただの五十二歳のおっさんですけど、友だちになってくれますか?」

「はい、私でよければ喜んで」

ガチガチに緊張した面持ちで左手を差し出された。手がぶるぶると震えていた。そんなに緊張されたら私まで緊張するのに。航大さんってほんとうに面白い人だ。私は笑顔でその手を握り返した。

「駅前にある国際ビジネス専門学校で、結婚に縁遠いのになぜかウェディング学科の教員をしているんだ」

「仕方ないだろ?気づいたら四十歳を越えていたんだ。婚期を逃したおっさんなんて誰も見向きもしてくれないよ」

「航大さん、寧音さんとLINEのアドレスを交換したら?」

「LINEのアドレス交換?どうやるの?」

「SNSのアカウント持っていたよね?」

「何アカウントって?」

「じゃさぁメルアドならわかるでしょう?」

「メルアド?ちょっと待って。一つずつ言って貰わないと。それに僕老眼だから」

「そうだ。すっかり忘れていた。機械音痴だったんだ」

海人くんがやれやれとため息をつきながら額に手を置いた。

「海さんスマホを借りてもいいですか?」

海人くんに携帯を渡すと航大さんの携帯番号を登録してくれた。

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