死にたい僕と死ねない理由
ヘイ
第1話 生きる理由との再会
僕は来るとこまで来た。
多分、ここ辺りが限界だ。
元々、僕の生き方は他人本意だったんだ。それが五年も保たせたんだ。意義を失った時点で価値がない。
「いつだって終わらせれたんだよ」
僕がその気なら。
「……ここで」
必要ない事を続けても意味がない。僕はとっくに終わらせ方を知ってる。
五年間、何故か僕は無意味に走り続けて。目的を失った場所に留まり続けて、今更漸く終わりにする事にして。崖の上に立ってる。
「…………はぁ」
ここは森だ。誰にも見られてない筈だ。
覚悟を決めて、踏み出そうとして。
「────ストーーーーップ!!」
女性の叫び声と共に、僕の体が崖から離れる様に後向きに倒れる。
「な、何すんだ! てか誰だ!」
見られてた。
「ダメだよ、
しかも僕の事を知ってる。
「菅生くん、今死のうとしてたよね!」
声が耳元で響く。
僕はその声を、覚えてる。
「お前、何なんだよ……!」
僕が歩き続けた目的の人間の声だ。
「忘れたの?」
「違う」
お前は、僕にとって生きる理由だった。それは憧れだとか、好きだとか。そんな綺麗な理由じゃなく。
僕と言う人間が、彼女に勝る事で僕が生まれてきた事に価値があると。そう証明できると思っていたから。
「……テレビ、観てたよ。凄いじゃん」
僕に組みついたまま、話し始める。
「何で死のうとしてんの。これからじゃないの。連ドラの主役決まったよね。CMにもバンバン出てるじゃん」
「……もう良いんだよ」
そう言うんじゃないんだよ。
僕がこの世界に踏み込んだのは、金欲しさだとかチヤホヤされたいだとかじゃなくて。もっと最低な理由だ。
「てか、いつまで抱きついてんだよ、
「覚えてるじゃん!」
「……早く離れろ、死なないから」
今は。
「ん」
綺羅が離れて、僕に手を伸ばす。黒髪をポニーテールに纏めた闊達そうな美少女。印象は昔っから変わらない。誰からも愛されてそうな恵まれた女だ。
僕はその手を取らずに立ち上がる。
土埃を払って、綺羅を見つめる。
「……いや帰れよ」
「はぁー? そしたらどうせ死のうとすんでしょ」
何で分かるんだよ。
「ほら、一緒に行くよ」
手を掴まれた。
「……三嶋綺羅、何で芸能界辞めた」
「何でも良いでしょ」
「良くない」
「……菅生くんには関係ないよ」
「だったら僕が死のうとするのに、お前も関係ないだろ」
「それは大アリ!」
いきなり声を荒げて振り返った。
「今度の連ドラの主役、菅生くんだから楽しみにしてたのに! それなのに自殺とか! 原作も好きで全巻持ってんのにさー!」
「僕が主役で、何でお前が嬉しいんだよ」
「私、菅生くんの事好きなんだよ」
「……何言ってんの?」
「あ、ファンとして! ファンとしてに決まってんじゃん!」
肘鉄を入れてくる。
「痛い、痛いっての」
「顔面良いし」
森を抜けて暫く、三嶋綺羅にカフェに連れ込まれる。
「それで何で死のうとしてたの?」
「お前……自分が芸能界辞めた理由は関係ないとか言っておきながらそれかよ」
呆れて溜息が漏れた。
「そ、それはそれ。これはこれ」
何だそれは。
「それより、菅生くんは何で死のうとしたの?」
「……別に。ただ何となくだよ」
僕は真面目に答えるつもりはない。
「そうだな。お前が辞めた理由話したら、僕も教えてやる」
「……別に菅生くんが死ななきゃ良いし、知る必要はないかな」
「どんだけ言いたくないんだよ。僕の方が気になってきたんだけど」
「へー、じゃあそれ聞くまで死ねないね」
何なんだ、それは。
「別にどうしても知りたい訳じゃ……」
とか言いながら、僕は気になってる。
だって、三嶋綺羅が僕の生きる理由になっていたから。彼女が姿を消した理由を僕は知りたいと思っている。
「本当に?」
目が合った。
見透かされてるのかもしれない。僕の嘘くらい、天才子役と持て囃された彼女には。
「ドラマ撮影、クランクアップするまで生きてたら恥ずかしいけど教えてあげる」
「何だ、その条件」
「菅生くんには必要でしょ?」
どうにも、僕は自分の生存理由とした彼女の気持ちが気になって気になって、まだ死ぬ訳にはいかなくなった。
死にたい僕と死ねない理由 ヘイ @Hei767
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