37:とある女性の(非)日常

 君達は番組でヒーローを見た事があるだろうか。人間の為に戦うスーパーヒーローを。

 

 現代社会日常で起こる非日常の中、多くの苦難を乗り越えて人を救う姿を見て一度はこう思うだろう。


 会いたい。


 私もそう思っていた。

 小さい頃にヒーローが大好きになって、社会人になっても好きなままで。

 でもヒーローは空想だから、日常で生きる私が非日常で生きるヒーローに会えないと思っていた。


 





『今回も見事な勝利! ヴィルスレッドとヴァルクブルーは怪人を撃破し世界の平和を守ったのです!』

『この僕がいる限り。悪を自由にはさせない!!』


「キャー!! ヴィルスレッド様ー!!!」


 電気もついていない真っ暗な部屋(防音対策済み)の中、テレビの前でペンライトを掲げながら叫ぶ22歳女性


 西暦2036年。

 現実世界にヒーローがやってきた。





「はぁ……またオールしちゃった」


 24時間ヒーロー鑑賞会を終えた私は、いつの間にか登っていた太陽の下を歩いていた。非日常的存在がやって来ても、サラリーマンの日常は変わらない。


(でも二日徹夜はダメだな。まじねみーって痛!?)


 人混みの中歩くが、会社に着く前からヘトヘトである。だからこそ前から来る人に気付けなかった。

 赤髪の短髪で凛々しい顔付きに180センチ代の男の人が肩を当てながら通り過ぎていったのだ。

 ポトンっと物を落としながら。


(カッコよじゃなくて。これ財布だよね……大事なモンじゃん、渡さないと!)


 振り返れば人混みの奥で路地裏に踏み入れるイケメン男性が。見失うものかと人の流れに逆らいながら歩き、路地裏へと入った。





 が、彼はいない。

 見えるのは薄暗くて細い道だけ。

 どうやら見失ってしまったらしい。


(……気味悪い。戻るか)


 その瞬間。


「あぁ〜〜? さっきまでアイツがいたはずなんだが?」


 人ならざる者が踏み入った。

 出口の光を遮るように、片腕が歪に膨らみ手が一メートルの爪に変化している化け物が後ろに立っていた。


「あ、人間? ……殺すか」

 

 血の匂いを撒き散らしながら。


「いっ!?」


 気が付けば爪が肩を貫通している。

 瞬きの間で攻撃されていた。


「目撃者は死、あるのみ」


 私が見える景色には限界まで開いた怪人の目しかない。真っ黒だ。非日常が日常を壊そうとしている。平凡な日々を粉々にしようと来ている。


 殺される。


「さっきはごめん。急いでて気付かなかったんだ」


 そう思った瞬間に私の肩を貫通していた爪は粉となって散り、誰かが私の背中を優しく支えてくれた。


「でも大丈夫。君のおかげで問題なく済みそうだ」

「お、お前レッ──」

「君はもうおしまい」


 持っていたナニカ紅き剣を横に振るう。それだけで怪人は最後まで話せないまま、塵になってこの世を去った。

 けれど私は爪を刺された影響でバランスを崩したまま。このままだと傷ついた背中から倒れる羽目になるが。


「おっと」

「へ」


 地面に当たる直前、男が優しく受け止めてくれた。お姫様抱っこのように。赤い瞳で私が見える景色全てを覆って。


「怪我は……しているね。ごめん。僕が遅れたばかりに」

「いえ、ありがとうございますってあれ、痛みが?」


 気が付けば肩にあった穴が塞がっている。時でも戻ったように傷が治っていた。それに驚いていると男はいたずらっ子のように笑っている。


「財布のお礼。だけどこれ僕との秘密だよ?」

「ひゃ、ひゃい」

「約束だからね?」


 そう言えば男は静かに姿を消した。

 残ったのは──


(……登場の仕方カッコ良すぎない?)


 心臓がドキドキ言っている私だけ。


















「遅いレッド。どこで油売っていたんだ?」

「ごめんブルーちゃん。ちょっと人助けを……」

「お前……女を引っ掛けたな?」

「まさか、僕はだよ? そんな訳ないさ」

「……これひっかけたな」

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