31:いま思えばこれが僕のプロポーズだったのかもしれない……
勉強がまったく捗らない。
机の前に座っても全然集中できそうにない。
京介はぷるぷると肩を震わせながら、たまらずその元凶に向かって声をあげた。
「あかりさん。気が散るのでもう帰ってくれませんか!?」
「えー。やだ!」
あかりはコントローラーを握りしめ食い入るように画面を見ている。
弾幕シューティグのゲームに熱中しているようだ。
「勉強の邪魔です。そもそもなんであかりさんがここにいるんですか」
「だって京くんのことが好きなんだもーん」
「す、好きって……もちろんライクですよね?」
「もちろんラブですとも!」
高校生のあかりが小学生の京介に恋をしているだなんて、馬鹿げているにもほどがある。
「駄目ですよそういうのは。あかりさんは綺麗でスタイルもよくて頭もいいんですから、同年代の彼氏を作ってください」
「同年代に京くんほど魅力的な人はいないのよー」
「そ、そんな事言うとあかりさんのことを侮蔑した目で見つめて『この変態ショタコン!』って呼びますよ」
「あ、それいいかも……」
「……」
何を言っても無駄だこの人には……。
ふと、京介はあかりが熱心にプレイしているゲーム画面を覗いてみた。
「さっきから死んでばかりじゃないですか。それ、楽しいんですか?」
「べ、別に……」
言ってるそばから敵の攻撃に被弾する。たった十秒すらまともにプレイが出来ず、あかりは不満そうだった。
「また死んだ。もうやめたらどうです?」
「やだ」
「どうして? こんなに下手なのに」
「だって願掛けしたから……」
「願掛けって?」
不思議なことを言う。
願掛けってどういう意味だろう?
あかりはごにょごにょと口ごもりながら、
「このゲームをクリアできたら……ゴニョゴニョ……できるって」
「え? 聞こえないです」
「このゲームをクリアできたら、きっと京くんと結婚できるようになるって願掛けをしたの!」
「あーー……」
京介には覚えがあった。
同じクラスの友達が「この石ころを家まで蹴り続けることが出来たら明日にはきっといいことがある!」みたいなことをやっていた。
これはきっとそれと同レベルのおまじないなのだろう。
「あかりさん。あなたは小学生ですか。僕でもそんなくだらないことはしませんよ!? ゲームをクリアしたら結婚できるって……」
「も、もちろん京くんが高校卒業するまでは待つよ!?」
「そういう問題じゃありません!」
京介は根負けしたようにがっくりと肩を落とす。
「ったく。僕が高校卒業する頃って、あかりさんはいったい何歳ですか……二十五、六、七?」
「こらこら、そこは掘り下げないで」
「もう……」
と言って京介はあかりの隣に座って、おもむろにゲームのコントローラーに手を伸ばした。
「あれ、京くん?」
「手伝いますよ。このゲーム、実は協力プレイが出来るんです」
「え?」
「あかりさん一人じゃ永遠にクリアできそうにないから」
京介の言葉にあかりの表情がぱっと明るくなる。
「え、それってもしかして……共同作業!?」
「ち、違います! 勘違いしないでください。僕はただ一刻も早く勉強がしたいだけ。あかりさんがこれをクリアしないとここを出ていかないと言うから仕方なく!」
そして京介はゲーム画面に視線を向ける。
その表情は真剣そのものだった。
「いいですか? あかりさんは自分が無事でいることだけに集中してください。敵は全部僕が倒しますから」
「うん」
「僕を信じて。あなたはただ黙って後ろについて来るだけでいい」
「うんうん!」
「じゃあ行きますよ。絶対にクリアしてやりましょう」
「うんっ!」
その後、ゲームはすぐにクリアできた。
そしてあかりは嬉しそうに京介の家から追い出されたのだった。
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