27:いつもクールな寒川さんのヒミツは、笑顔がブスなこと。

 半数近くが帰るか部活で、人のまばらな放課後の教室。


 それでも、残った奴らにとって彼女の言葉は衝撃的だったのだろう。ザワッという皆の声をり合わせた大きなノイズが教室内に響いた。


「……祖母井そぼい君、一緒に帰ろ」

「へっ!? 俺?」

「うん、早くいこ」

「あ、うん……」


 俺達が教室を出る際、後ろから「なんでショボイと寒川さむかわさんが……!?」と言う声が聞こえてきた。


 まあそうだよなあ。クラス1……いや多分学年イチの美少女の寒川そあらさんと、陰でショボイと呼ばれてる俺だもんな。無理もない。


 寒川さんにも聞こえてそうだったけど、彼女はサッサと先に行ってしまう。てか早い早い。めっちゃ早足。元々のクールな雰囲気もあり、このままだと俺は置いていかれそうで、慌ててバタバタと追いかける。


 と、ぴたりと彼女が止まり、こちらを振り返った。


「……あ、先に行きすぎた?」

「ううん!!」

「ごめん。楽しみすぎて……早く帰りたかったの」

「へ!?」


 さらさらの前髪の下から、大きな目で上目遣い気味に見てくる寒川さんが綺麗で可愛くて。俺の心臓がバクバクと高鳴り、言葉を切れ切れにしか紡げなくなる。


「楽、しみ、すぎて?」

「え」


 今度はきょとんとした彼女。うっ、その顔も可愛いです!!


「あれ、スマホ見てない?」

「え、え!?」


 スマホなんてマメに見ないよ。俺に連絡してくる奴なんて家族と、中学時代の友達しかいないボッチだぞ! 急いでスマホを取り出し、新着を示すアイコンをタップして確認すると寒川さんからのメッセージが表示された。


高天ヶ原たかまがはらズの新ネタ動画! 後で一緒に見よ』


 その下には動画サイトのURL。ああ、そういうことか。


 納得したようながっかりしたような。そりゃそうだよなぁ。俺と彼女を繋ぐものはそれしかないんだから。




 高天ヶ原ズは高間田たかまだ菅原すがはらの二人組のお笑い芸人。マイナーだけど俺は彼らを天才だと思ってる。だが周りにその話をしても「誰それ?」としか言われない。くっそー、今売れてるディックドッカーとかより何倍も面白いのに!!


 偶然、寒川さんも高天ヶ原ズのファンと知った時は驚いた。というか彼女のイメージに合わなすぎて、お笑いとか見るんだ!? ってビックリした。寒川さんは人前で絶対に笑わないクール美少女だったから。




 学校から離れた小さな公園のベンチで、俺達は並んで座っていた。ち、近い……寒川さんがぴったり横にいる。なんかいい匂いがするんですけどぉ!!


「祖母井君、そんな離れたら画面見えないでしょ?」

「だだ大丈夫! 俺意外と視力いいから!」


 何故かひとつのスマホで一緒に動画を観ることになったのだ。正確にははわかる。それぞれのスマホで見たら同じタイミングで笑えないし、通信料ギガも勿体無いし。でも俺の心臓がもたなそうなんだが!?


 ……とか思ってたけど、いざ動画が始まったら問題なかった。寒川さんよりも画面の中の二人のネタ、完璧な間の取り方や表情に引き込まれたのだ。やっぱり高天ヶ原ズは天才だ。


「ぶはっ」

「ウフフフ」

「あー、やっぱり面白ぇ……ぶほっ!?」


 うっかり寒川さんの方を見て吹き出す俺。普段は笑わない彼女の顔がめちゃくちゃ面白いから。


「ご、ごめん」


 寒川さんは笑うと凄くブスになる。菅原がギャグでやる顔に激似だから、最初はワザとやってるのかと思った。けど無意識でそうなるから人前では絶対に笑わないらしい。


「ううんいいよ、祖母井君になら笑われても」

「え」

「私、君となら笑えるの」


 彼女の髪が風にふわりと揺れる。俺の心臓がまた高鳴った。彼女の大きな丸い目が三日月型に細められて……


「ぶほっ」


 やっぱり俺は笑ってしまう。




 半年後、寒川さんが俺の彼女になるなんてこの時は考えもしなかった。

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