22:運命の出会いに、脈絡なんてなかった。

 僕こと佐柳さなぎ麗羽れあにとって、運命の出会いなんて無縁のものだと思っていた。だって、そんなキラキラした毎日なんて送ってないし、なんなら友達もほとんどいない……俗にいう陰キャで、クラスカーストも下の下、虐められることすらない空気みたいな僕だったから。


 だから、クラスの女の子たちに「佐柳さんも一緒にどう?」なんて遊びに誘われたとき、まず思ったのは『何かやった!?』だった。何かやって、目でも付けられたのって……本気でそう思ってしまった。

 だから唯一の趣味友達でなんでも相談できる同級生の高城たかじょうくんにどうしようか訊いてみたら、返ってきた返事は「いいんじゃないの」というもの。

『佐柳って普段ほんと人と関わんないし。クラスの子と交流するのも大事だし? 別に気になんてしないし……いいんじゃないの。それよか、今度のリリイベの帰りにちょっと、……』

 ……なんだよ、それ。

 知ってるんだよ、たまに変な目でチラチラ僕のこと見てるの。そのくせにほんとに困ってるの、伝わらないわけ?


 なんだかいつも以上にそっけない口調でパソコンに向かったまま、早口でそう言った高城くんのことがあったからというわけではない。そういうわけじゃないけど、クラスの子たちとの約束の当日は、もてる知識を総動員して特別おしゃれをして行った。もう別人に見えてしまうくらい、とびきり。

 その行き先で出会ったのが、毬葉まりは夏樹なつきさんだった。


「佐柳さんっていうんだ、よろしくね」

 連れ出された先がどういうところなのか、僕には全然わからなかった。クラスのみんなが集まるのかと思ったら実際は僕を入れて4人かその辺りだったし、夏樹さんたち男性陣も同じくらい。なんか合コンみたいな雰囲気で始まった集まりは終始賑やかで、その輪に僕もいるというのがなんとなく信じられなくて。

 慣れない雰囲気か、慣れない人か。それとも慣れない料理か。そのどれなのかはわからないし、その全部かも知れない。なんだか酔ったみたいになって、息苦しくなって。


「っと、大丈夫?」

 トイレに行くと言ってテラスみたいなところに行ったとき、よろけそうになったのを支えてくれた夏樹さんが、すごく安心できる雰囲気で。

「ちょっとみんなうるさ過ぎるよね。俺もこういうとこあんまり得意じゃなくてさ、ちょうど離れる機会探してたんだ」

 きっと違う。この人はこういう場に慣れてる人だし、皆の輪あっちにいた方が楽しいに違いない。でも、本当に僕を気遣ってくれるような態度に、気付いたら頭と心がいっぱいになっていた。


 ちょっと顔を見るのも、難しいくらい。

 酔ったみたいに頭がふわふわして、足下も雲みたいにふわふわして、他の人たちの声とか、車が通る音とか店内のちょっと大人っぽいBGMとか、そういうものが全部遠くなったような気がして。


 僕こと佐柳麗羽にとって、運命の出会いなんて無縁のものだと思っていた。でも、それってこんな急に来るものなんだって、こんなに他のことがどうでもよくなるんだって……本気でびっくりした。

 前に恋愛優先で創作趣味をやめた友達にいろいろ言ったけど、もうあの子のこと何も言えないかも。

「ねぇ、麗羽ちゃん」

 あ、名前で呼ばれた。

 急だなと思ったけど、鼓動に上書きされて。


「今度ふたりで会おうよ。この日とかどうかな?」

 そう言って指し示された日にちは、ちょうど今度高城くんと行く予定だった、推しのリリイベが開かれる日で。

 どうしようか、なんて一瞬だけ思って。


 気にしないって、言ってたもんね。

 交流も大事って、言ってたもんね。

 じゃあ、いいよね。


 答えなんて決まってたのにどうしてか心のなかで謝ってから、僕は妙に鈍い光を放って見える夏樹さんの瞳をまっすぐ見つめて、小さく頷いた。

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