21:誰もいない教室、放課後のカーテンの裏で。
「ほら、ここなら誰にも見られないし、恥ずかしくないでしょ?」
まだ温かい夕焼けが差し込む教室。もっと細かく言えば、窓とカーテンに挟まれた場所で彼女は言った。
「恥ずかしくない、ね。人に見られる心配は無いけど、今度はサヤが近すぎて恥ずかしいかな」
「ワガママだね。私と一緒にいることくらいは我慢してよ」
別に恥ずかしいだけで、嫌と言ってはいない。
けどそれを言ったらもっとスキンシップが激しくなるのは目に見えている。だからあえて口にはしない。
「ていうか、わざわざ放課後に別の場所で残らせてまで何がしたいの?」
「何って、今この瞬間をしたかっただけ」
「今この瞬間って……。ただ教室で話してるだけだろ」
「うん。それがしたかったんだよ。カズが教室で目立ちたくなーいなんて言うから、わざわざこうして環境を作ったんだから」
教室で話したい、そのために
まぁ、確かにそんな時間まで残ってるような生徒はいないだろう。でもそんなにこんなことしたかったのか? 言ってくれれば教室でも話すのに……って、サヤがそんなことするわけないか。なんだかんだ言って、コイツが俺の嫌がるようなことはしないし。
――俺の提案の穴を突いて自分の願望も叶えるけどな、今みたいにな。
「それに、放課後の教室で二人っきりなんて、青春っぽくていいでしょ?」
「これで何個目だそれ。一年の冬あたりからやってるよな」
「今回で十四回目で、あれから半年くらいかな。いやー、長いものだね」
「……そうだな」
サヤに話しかけられてから一年と三ヶ月? ︎︎くらいだから、ホントに長い付き合いになったものだとは思う。
︎︎二年生になってから別のクラスになったのにまだ関係が続いてるんだから、うっかり勘違いも出そうなもんだ。
「また、変なこと考えてる?」
「変な事じゃない。ごく普通で一般的な思考だ」
「ふーん、ならいいけど。てっきり私と今日まで話してることが意外だな、的なこと考えてるんだと思ったんだけど」
「俺、口に出してたか?」
「出してなくてもわかるよ。カズはわかりやすいからね」
「そんなこと初めて言われたけど」
︎︎どちらかと言えば俺は表情にも出にくい方だと思ってたけど、そうじゃないみたいだな。別に隠してるわけじゃないからいいけど。
「あ、もう下校時間だね」
「気付くの早いな。放送が鳴る前からわかるのか」
「ノイズっぽい音が先に入るんだよ。ちょっと古いよね、この学校」
そう言われると確かにそうかもしれない。特に気にするほどのことでもないから気付けなかった。
いや、むしろサヤの観察力の賜物かもしれない。決して、俺が物事に対して無関心すぎるだけとか、そんなことはない……はずだ。
「それじゃ、帰るか。先生に小言を言われるのも嫌だしな」
「あ、待って。もう一つ、やりたいことがあるの」
壁に寄り掛かっていた体を戻すと、サヤに制服の袖をツンっと摘ままれる。
なんだ、とサヤのほうに顔を向けるよりも先に――、
「…………は?」
「……ふふっ、今日だけで二つも青春っぽいことできたね」
「いや、おま、何を……」
「じゃーね! カズは後からゆっくり帰ってね!」
待て、の言葉すら言わさず、カーテンの中から風のように去っていく。
少しして力が抜けるようにまた壁にもたれかかって、いや、そのまま座り込むようにずるずると腰を落とした。
頬に感じた微かな感触がまだ残ってる。
「……あぁ、くそっ」
また、俺は
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