13:“ふたくちめ”を食べさせて
シオリは、目の前に差し出された匙を凝視していた。
茶色の瞳に映る、絶妙に掬われたパフェの具。角切りスポンジに、ソースの掛かったアイスクリーム。そのてっぺんにはカットフルーツも付いている。
今まで
「どうしたのシオリ、食べないの?」
その様子に心底不思議そうに尋ねたテノの、怪訝な表情に。
(食べたいにきまってるが!)
心の中で叫びながら、シオリは口を噤んだ。それもこれも、目の前で
『わ、初めまして! ぼくテノディテス、テノと呼んで!』
歳の近いお隣の家の男の子、テノのお蔭で馴染んでいった。
灰髪と黒色の瞳がミステリアスに見えるものの、快活なテノ。角も尻尾も翼も持たない彼は、シオリにとって見慣れた
しかし、誤算が
『ミズリー、最近気が付いたんだけど』
『なあに? 面白い話をしてくれるのよね』
『テノとのご飯だとさ、毎回ふたくちめを匙ごと取られて。代わりにひとくちくれるんだよね』
それは部屋でごろにゃんと寛ぐ猫獣人のミズリーとの会話に端を発する。自身の茶髪を櫛で梳きながら待つ返答。長い沈黙の後、シオリの方へと向き直った彼女は真剣な顔をして告げた。
『まさかあなた。あいつを
『えっ違うの?』
『このアホシオリ! あいつは無翼種の鳥獣人よ!!』
発覚したのは、テノが
『つまりは――』
「おーい、シオリ? 意識飛ばさないで」
「……飛んでない」
「いや飛ばしてたじゃん。アイスクリーム溶けちゃうんだけど」
むうと口を尖らせれば、精悍さのある顔が幼さを帯びる。じいと眺めていれば、急にあ、と口を半開きにする。それに思わず釣られて。
「あ? っむぐ」
「どう、美味し? シオリの好きな味だと思うけど」
開いた口へ突っ込まれたパフェは、どうしようもなく美味しい。満足そうに表情を綻ばせた彼にしぶしぶ頷けば、ぱあっと笑みを溢れさせる。
「よかったー。ね、シオリのもひとくち頂戴」
「やだ」
「えー、なんで? 今日は僕が先にあげたのに」
「だって。……テノは鳥獣人でしょ」
――鳥獣人の習性、求愛給餌。それはシオリがアルテニマで学んだ、獣人特有の求愛行動であった。
「あ、バレた?」
「おい確信犯かよ~」
「ま、ミズリーあたりに言われたんでしょ」
動じることなく続けるテノに、思わずシオリが尻込みをしたところで。
「ね。俺はシオリからひとくち、貰いたいんだけど」
じっと見つめる黒い瞳に、惹きつけられたように目が離せなくなる。
「それとも。君から
「〜〜っ」
告げられた言葉に思わず視線を逸らせば、匙に映る歪んだ自分は頬を染めていた。
目を背けるように手を動かす。ひとくち分だけ欠けたアイスクリームが溶け始める中、それをシオリは
「あ」
「あ? うぐっ」
オウム返しに開いた口へ、意趣返しに突っ込む。
「ふたくちめでいいなら、あげるけど」
初めて自らの意思で差し出した匙。それにテノは目を見開いてから。
「じゃ、
あまい甘い熱を持った微笑を、シオリに向けたのだった。
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