12:女の子って大変ね ~恋愛ごっこの延長戦~

「みーちゃんの好きな子はユウキ君。ユウキ君と仲いいのは、みーちゃんだけだし。いつもお手々繋いでお家に帰るんだからぴったしじゃない」


 絵本のお姫様みたいに、ふわふわきらきらしたクラスメイト、ジュリちゃんの言いつけ。


 あたしの好きな人はユウキ君。


 突然のことに取り巻きのみんな(あたしもその一人)は驚いていたけど、あたしはそういうもんだと、飲み込んだ。


 あんなのは嫌だって言えないし、言っちゃいけない。


 仕方ない。


 女の子って大変。


 あたしとユウキ君は通学路が一緒。子どもだけで歩くのは危ないからって、パパとママの言いつけで一緒に帰ってる。


 あたしよりもちっちゃい子が一年生になった。だけど、近所の子は入学してないからまだあと一年はユウキ君と二人で帰る。


「ふーん。で、みーちゃんは僕のことが好きってことになったんだ」


 通学路は車がいっぱい。人もいっぱい。ユウキ君とお手々を繋いで歩いていると、大人たちがニコニコしながら通り過ぎてく。あたし達を嫌ってる大人なんてみたことない。パパとママは心配し過ぎ。


「あたしはユウキ君みたいに思われたくない」


「……僕ってどう思われてんの?」


 ユウキ君はあたしを歩道側に立たせる。あたしの左手はユウキ君の右手に収まる。


「サッカーも野球もしない。皆がドッジボールで遊んでるのに、図書室でずっと漫画読んでる。運動苦手なんでしょ? カッコ悪いところみせたくないんだ。ダサいメガネだからクラスで浮いてる。好きな男の子の話になったときにユウキ君の名前でてこないもん」


 あたしはポンポンと答えた。

 

 ユウキ君は何が面白いのか、笑ってる。


「散々だ。そんな微妙な男の子が好きだって。みーちゃんはどんな気分になった?」


 ユウキ君はいつもこんな風に質問ばかりする。


「嫌な気持ち」


「そんな、嫌な気持ちにしてくる人と仲良くしたいのか……女の子は大変だ。なら、ちょっとお手伝いしてみようか」


 女の子は大変だ。この言葉もユウキ君から教えてもらった。


 多分、これがきっかけだと思う。

 

 ユウキ君は「図書室の漫画を全部読み終えたから」と言って、野球もサッカーもしてみせた。


 案外上手くてみんなを驚かせた。


 それはあたしだけじゃなくて、ジュリちゃんもそうだったみたいで。


 とどめは水泳の授業でメガネをつけてないユウキ君をお気に召したらしい。


「みーちゃん。やっぱり、この前の話は無しで。ユウキ君はワタシの好きな人になっちゃったから。みーちゃんの好きな子は他の子にしようね。新しい人考えたげる」


 お姫様みたいに、なんでも通ると信じてない声。


「だめ。ユウキ君はもうあたしの」


 こんなの恋愛ごっこだし、うんって言えばいいのに。

 

 どうしてか。あたしはむきになった。


 言い返されると思ってなかったのか。

 

 ジュリちゃんは、顔をフニャフニャにして、涙目になる。


 あーあ。泣き顔も可愛いんだから、すごい。


 泣かれるとあたしも気まずい。そんな彼女に寄ってくる男子がいた。

 

 ほら、来た。ユウキ君だ。


 ダサい眼鏡の奥にあるお目々が、あたしを見てる。


「みーちゃん。泣かしたの?」


「ジュリちゃんが泣いたの」


 あたしは悪くないもん。


「なら、慰めないと。みーちゃんのパパとママがするみたいになだめなよ」


「ユウキ君がすればいいじゃん」


「それすると、ジュリちゃんはもっと僕のことが好きになっちゃうよ」


 ジュリちゃんはユウキ君の言葉がとどめだった。もっと大声で泣く。


 さすがにあたしはかわいそうに思って、ジュリちゃんをなだめた。


 パパとママがあたしにするみたいに。これだから、女の子って大変。


 あと、ユウキ君には前みたいになってもらうようにお願いしよう。ジュリちゃんみたいなのが増えたら。嫌だからね。女の子って大変。

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