第20話

図書館7、

 

 動いているスウの姿を、何度も何度も眺めた。

 防犯カメラは、図書館の玄関口の上方から、下向きに通路側をとらえていた。

 図書館に入館してくるスウは、心持ちうつむきかげんで、せかせかと歩いている。カメラが旧式なのか、他の理由があるのかわからないが、画像は不鮮明で、そのうえ角度もよくない。彼女の顔は、はっきりと映っていない。

 それでもその映像は、ぼくにとっては、何よりの恩寵に思えた。もう一度、スウに出会えた。

 渡された記録チップの映像データは閲覧専用で、コピーすることはできなかった。あるいは、情報技術に詳しい人間なら、容易に複製が可能なのかもしれない。だが、あいにくとぼくは、まったくのポンコツだ。

 そこで、ひどく不恰好な方法をとるしかなかった。映像を再生しているモニタを、端末のカメラ機能で撮影したのだ。不鮮明な映像が、さらにボケた画像になった。 

 だけどもこれは、ぼくにとってただひとつの宝物になるだろう。そんな確信があった。

 

 エントランス・ホールに着いたのは、昼の十二時を十五分ほど回ったときだった。昨夜、映像データを繰り返し眺めたせいで、寝過ごしてしまった。入館する際に、玄関口の右上に自然と目がいった。今まで、気にもとめていなかった小型のカメラが、確かにそこにあった。

 あれが、スウの存在をとらえていたのだ。

 ぼくが汗をかきかきベンチに腰かけるやいなや、

「彼女の原稿は、持って来たかい?」

 と、すぐそばで声がかかって、思わず飛びあがりそうになった。腰かけたまま、グルリと後ろを向くと、いつのまにか、まったく気配を感じさせずに、人影が出現していた。

「頬っぺた」

「え?」

「米つぶ」

 あわてて拭う。出がけに近所の屋台で皮蛋ピータン魚球つみれの入った広東粥を掻きこんできたのだ。

 ばつがわるくなったので、逆に質問した。 

「えっと、お母さまでいらっしゃいますよね?」

 人影は、昨夜会ったコシロ・ウオタロウの母君だった。失礼にもかかわらずあえて尋ねたのは、昨日のような和装ではなかったからだ。黒一色のシンプルなシャツワンピース姿だ。足元は動きやすそうなスリッポンで、つばの広い黒のハットを目深に被っている。特段、奇異な格好ではないのに、魔女のようにも、あるいは魔女見習いのようにも見え、年齢不詳な雰囲気になっていた。

「オウジは外に出ないから、仕方なくね。あたしゃ、あの子を外に出したいんだけどね! 飛んだ見込み違いさ!」

 ぶっきらぼうな答えが、返ってきた。だけど気になるワードが飛び込んできたぼくは、それどころじゃなかった。

「オ、王子?」

 それがウオタロウ・コシロのことを指していると気づいたので、思わず頓狂な声が出たのだ。『鏡の国のアリス』に、王子様なんて出てきたろうか、と瞬時に頭を廻らせてしまったのは、昨日、コシロを見て卵男ハンプティ・ダンプティを思い浮かべたからだろう。

 ぼくの妙な表情に気づいた母君は、空中に指で漢字を書いて、訂正した。

 〈楝〉という字に〈司〉をつけて、〈楝司おうじ〉と読ませるらしい。

「〈おうち〉という花があってね。栴檀せんだんの木の花、といったほうが通りがいいかしらねぇ。初夏に、細い枝に淡い青紫色の花をたくさんつける。あたしがつけたんだよ。なかなか良い名前でしょ? 花言葉は〈意見の相違〉」

 それより、と母君は、ぼくをうながした。

「原稿は?」

 言われて、慌ててバックパックをさぐって、ビニル袋に入れたそれを渡した。初めて見つけたノートに加えて、スウがこれまでに発表した作品のプリントアウトも、念のため添付しておいた。〈関係ないデータなんてない〉とコシロが言っていたからである。

「あなたと彼女の私物は?」

 品物は、スウが使っていた香水の瓶と歯ブラシで、コシロの指示通りファスナー付きのビニル袋に入れてある。

 母君が合図すると、ひょろりとした体型の中年男性が、どこからともなくぼくの前に現れた。

「こちらは、〈極東科学捜査研究所〉のオトボネさん。オウジの紹介で、来てもらったんだ」

 母君が男性に、原稿と品物を渡す。

 紹介された男性は、ペコリと頭を下げてから、小さな銀色のアタッシュケースを開けてビニル袋をしまい、代わりに、さまざまな道具を取り出し始めた。

 オトボネ氏はまず、オフィス用品で見かけるクリップボードのようなものを寄越してきた。ボードには、薄く罫線が引かれた用紙が固定されている。ぼくは指示されるがまま、その紙(たぶん専用の用紙)に、右手の五本指を押しつけた。右手が終わると、左手も同じように済ませる。これで、ぼくの両手の指紋の採取が終了した。

 それからオトボネ氏は、小さな木のヘラのようなもので、ぼくの爪の間の汚れを優しくかきだした。

 次は、口だった。ぼくはまたも言われるがままに、歯医者でするように口を大きく開けた。オトボネ氏が、綿棒を使って口の内側をこすり取る。細胞を採取するためだという。

 最後にオトボネ氏は、ぼくの頭から髪の毛を数本、抜き取って、ビニル袋に収めた。

 こうして、さまざまな部分のDNA資料が採取された。一式をそろえるのは、ぼくが渡したスウの私物から、ぼく由来のものを確実に除外するためらしい。

 オトボネ氏が、すべての品をアタッシュケースにしまい、母君に頭を下げて、エントランスから渦巻町へと出ていった。さっそく帰って、分析してくれるのだろう。

 それを見送ると母君は、

「じゃあ、私たちも、さっそく行こう」

 と、歩き出した。ぼくは慌てて、ベンチから腰を上げる。追いすがりながら、訊ねた。

「行くって、どこに?」

 母君が、簡潔に答えた。

「まずは、ローレル夫人に」


 実際は、ローレル夫人に会うまでが遠かった。物理的にではなく、階級的にとでも言おうか。とても、同じ〈町〉に住んでいるとは思えないほどだ。夫人は、〈上町アップ・タウン〉の住人だった。

 図書館を出て、中通りメインストリートを横断する。町の外縁方面を目指す。

 〈うずまきパーク〉に至る手前、〈右京区〉を構成する外壁の一部に、目立たない小さな電停のプラットホームがある。停留場といっても、建物と建物のあいだに挟まれたこぜまい路地に、島状になった横長の段があるだけだ。雨が降るわけでもないため屋根もない。プラットホームの端に、人の背丈ほどの自動券売機が立っているのが、場違いな案山子みたいだ。

 しばらくそこで待っていると、のんびりとしたベル音がして、〈市電〉がやって来た。

 〈ジッグラト構造〉の螺旋状床版スラブを、外縁部をぐるりと周りながら登っていく〈市電〉は、誰の発案かしれないが、丸っこいレトロな外観の小さな車輌だった。ループしながら上昇する無人運転の路面電車トラムとでもいえばいいだろうか。

 プラットホームの自動券売機で、ふたり分の乗車券を買って母君に渡す。乗り込むと、また、穏やかなベルが鳴り、〈市電〉はゆっくりと進み出した。

 一両編成のこぢんまりとした車輌は、木製の座席が対面式に並んでいる。母君はその硬いベンチに腰かけ、外の景色に目をやる。ぼくもそれに倣った。

 ほどなく軌道は、分厚い外壁の内側に潜り込んだ。

 基本的に、〈市電〉の眺望は良くない。鉄筋や、コンクリートの壁など、ごちゃごちゃと建て込んだ建物の裏側が見えるだけだ。それにゴムタイヤなので、振動や騒音は少ないが、そのぶん情緒に乏しい、とは母君の弁だ。

 市政初期に、実用本位の作業員用移動手段として造られた交通機関で、今となっては、物好きなお年寄りが足として重宝しているくらいだ。町の人間が他の階層に移動する際は、電動三輪車で中通りメインストリートを走る場合が多い。急いでいるときは、町のあちこちにある公共のエレベーターやエスカレーター、動く歩道ムービング・ウォークウェイを利用する。

 〈市電〉は単線なので、ときおり停留所で登り下りの車輌が行き違うが、ぼくたちと行き違った下り電車には、誰も乗っていなかった。

 二十八層分の最後に〈市電〉は短いトンネルに入る。トンネル内のどん詰まりに、終点の停留所があった。薄暗く簡素な造りで、暗渠の中にいるようだ。

 車輛を降りるとすぐ前に、狭い階段があった。

 階段を昇りきると、レンガ敷きの小ぶりな広場の端に出た。出入口は、鋳鉄の柵で三方を囲まれていて、ヨーロッパの地下鉄メトロの出口のようになっている。

 急に辺りが拓けた印象だが、実際は、さほど大きな空間ではないはずだ。しかし天井の高さが〈元町オールド・タウン〉の二倍以上になり、デジタルサイネージのパネルが、五月の晴れた日のような清々しい青空を映し出していて、抜け感がある。また上方の円蓋は滑らかに横壁に繋がり、周囲は郊外の、広々とした木立や田園の景観に繋がっていくのが、よけい広々と感じさせる。

 ぼくたちの正面には、その〈空〉まで届かんとする門が、高々とそびえ立っていた。

 〈渦巻町〉に引っ越して来た当初、一度だけだが好奇心にかられて、〈上町アップ・タウン〉の入り口であるここまでやって来たことがある。奇妙な疎外感を感じただけだったが。

 門は、画像でしか見たことがない、どこかの迎賓館の正門みたいなそれだ。全体的に白く塗られた鉄製の門で、門扉は優美な曲線を描く格子になっている。上部と枠部に精緻な装飾が施されていて、散りばめられた金色と青銅色がリズムを刻む。とくに上部の植物と辟邪の守護獣を組み合わせた彫刻は迫真で、蒼穹によく映え、思わず見いってしまいそうになる。

 ただしそこでいつまでも止まっていると、ちょっと面倒なことになる。

 門の脇には詰所があって、威圧的な大きさの警備自律機械ドロイドが常駐しているのだ。そして門の前でうろうろしようものなら、電磁警棒を玩びながら(そういう風情に見えるのだ)、無機質な〈目〉で睨んでくるのだった。

 渦巻町最上層の五階分、いわゆる〈上町アップ・タウン〉エリアは、下層の〈元町オールド・タウン〉とは違い、完全に私有地だ。言い換えれば〈上町アップ・タウン〉は巨大な高級アパルトマンの集合体と言えるかもしれない。〈上町アップ・タウン〉全体が一個のゲーテッド・シティなのだ。

 先からぼくは、〈上町アップ・タウン〉の住民に懐疑的だった。正直に言えば変わり者の集まりだと思っている。カネがあるなら、関西新首都なり、他の地域なり、幾らでも住むことができるだろう。それが、わざわざこんな過疎地に閉じ籠っている理由が理解できない。ローレル夫人に面会すれば、分かるのだろうか。

 驚いたことに母君は、臆することなく、門にずんずんと進んでいった。

 当然の如く、警備自律機械ドロイドが立ち塞がった。危ない、と駆け寄りかけたぼくは、逆に面食らって立ち止まることになった。母君のそばまで来ると、警備自律機械ドロイドが、ピタリと動きを止めてしまったのだ。

「あ、そうそう」

 自律機械ドロイドの動きに頓着したふうもなく、母君がポケットから、ICカードを出してぼくに寄越した。

「これがあれば、君も通れるはずだ」

 〈上町アップ・タウン〉に入るには、確か居住証明書が必須のはずで、ぼくのような一般庶民がこの場所に立てるだけでも奇跡的なのだが、〈建築家〉の威光のお蔭か、母君は文字どおりフリーパスを持っているらしい。

 母君はそのまま、正門脇の通用口を通り抜けた。ぼくはICカードを護符のようにかざしながらそれに続くという間抜けな格好で、母君に追いすがったのだった。

 門の向こうは、屋内とは思えない石造りの建築物が連なる町だった。

 俯瞰してみれば、〈上町アップ・タウン〉も〈渦巻町〉と同じ、だ円の底面を持つ一街区にすぎないが、坂しかない下層と違って平面の恩恵を充分に享受していた。ゆったりとした数本の環状路ストリートは、同心円に〈上町アップ・タウン〉を貫いていて、それに放射状路アヴェニューが交差している。町の中心には、緑豊かな公園があって、どの放射状路アヴェニューからも、こんもりとした緑がのぞけた。

 〈元町オールド・タウン〉への口がある、いわば手前側のこちらには、商業施設やオフィスのある建物が並んでいて、合間におそらくは、"ややお求め易い価格"のアパルトマンが挟まっているようだった。最奥部には、戸建てのお屋敷まであるというから驚きだが、幸いなことにローレル夫人は、〈市電〉の口から一ブロック進んだアパルトマンに住んでいるとのことだ。

 行き交う人が、何とはなしに、みすぼらしい我が身を見ている気がして落ち着かない。考えてみれば、〈上町アップ・タウン〉の住人は顔見知りばかりだろう。余所者はすぐに見分けがつきそうだ。

 ぼくは、携帯端末に表示したアドレスを目指して、そそくさと歩いた。

 

 ジリリリン、という古めかしい呼鈴の音が、アパルトマンの屋根裏部屋アティに響き渡った。

 パリだのニューヨークだのの眺望絶佳な物件ならともかく、この〈上町アップ・タウン〉で最上階に付加価値があるのか訊いてみたい気がしないでもない。仮に、こじゃれたテラスが付いていたとしても、見えるのはデジタルサイネージの〈空〉だけだろうし、ここのような、旧いアパルトマンを忠実に模した建物では、エレベータは途中まで、最後の一、二階は階段しかない。

 などと失礼なことを考えているうち、黒っぽい木の扉が開いて、五十年配の白人女性が顔を出した。漠然と思い描いていたのとはちがい、すみれ色のスッキリしたシルエットのワンピース姿で、若々しい印象の人だった。完全な偏見だが夫人は、ロシア出身の年配者にありがちな肥満という宿痾をまぬがれているようだった。

「ご連絡をした、ナカムラです」

 云うまでもなく、ナカムラ、という名字は、ウオタロウ・コシロの本名である。

「お待ちしておりました」

 ローレル夫人は、母君には丁寧な日本語で応じたが、ぼくには冷たい一瞥をくれただけだった。

 室内は、建物の屋根の形を反映して、天井が斜めになっていたり、太い梁がのぞいていたりしていた。空間を広く見せるためか、調度品は最小限に押さえられ、また家具類はすべて低い物が使われていた。壁は白く塗られていて、明かり取りの窓から入る〈自然光〉を最大限利用するようにできていた。総じて、シンプルで洗練された雰囲気の部屋だ。

「お時間をとっていただき、感謝します」

 リビングのソファについてから母君は、丁寧な口上であらためて謝意を述べた。

 夫人は、返答に込めた皮肉の色を隠そうともしなかった。

「伯爵自らに口添えされては、断ろうにも断れませんわ。随分と……強引ですわね」

「こちらとしては、むしろ穏便に話をうかがうつもりだったのですけど」

 芝居がかった仕草で、母君は肩をすくめた。

「逆に興味が沸いてしまいましたよ。何故それほどまで、頑なに面会を拒否されるのかと」

 夫人があからさまにそっぽを向いたので、ぼくはムッとしてつい口を挟んでしまった。

「どうして嘘をついたんですか?」

「嘘?」

 柳眉を逆立てて、夫人はぼくを睨んだ。

「〈江川蘭子〉は、あなたのペンネームではありませんよね。そんなはずないですよ。だってスウにそのペンネームをつけたのは、ぼくなんですから」

 夫人の湖のような瞳に、火が点いた。

「あなたに〈江川蘭子〉の何が解るというの? ペンネームですって? 可笑しな話ですわね。満足に作品ひとつ完成させたことがないのに?」

 頭のなかが白熱し、目の前が真っ赤に染まった。なのに、下半身はスウッと冷たくなって、急に脚に力が入らなくなった。膝が落ちそうになる。それが恥辱のあまりだと気づいてぼくは、危うく叫びだしそうだった。

 ときどき、人の弱点を的確に抉る才能のある者に出くわすことがあるが、そのときぼくが口もきけなくなったのは、夫人の辛辣な言葉が、自尊心を傷つけたからだけではなかった。本当に恐れたのは、それがまるで、スウがぼくに抱いていた本音のように聞こえたからに他ならなかった。

「ローレル夫人、その話はスウさんに聴かれた話ですね? スウさんは実在しているのですね?」

 母君は、冷静に会話の方向を戻した。夫人は不貞腐れた表情で、しぶしぶ頷いた。

「ご承知でしょうが、あなたの証言は偽証罪にあたる可能性があるのですよ」

「でも」と夫人は憤然としてぼくを睨んだ。「この方にスウさんをあきらめていただかなくてはならなかったんです。彼女は……ここから飛び立とうとしていましたから」

「ちょっとまってください。ぼくが彼女を、その、束縛していたというのですか? 彼女がそういっていたと?」

 以前そんなことを考えたことがあったので、ぼくの胸はざわついた。スウがぼくの元に居続けてくれたのは、一宿一飯の恩義に対する、半ば義務感からではなかったか、と。

「スウさんご自身は、そんな下品な打ち明け話はいたしませんでしたわ。でも端から見ていれば一目瞭然ですわね。渦巻町に来た当初、スウさんは行くところがありませんでした。貴方、スウさんによからぬことを持ちかけたんじゃなくって? それに、才能があって、自分の言葉を持つ女性に対する、殿方の嫉妬と無自覚な上から目線ほど、無様で醜いものはございませんわ」

 吐き捨てるように、言い放った。

 過去にどんな経緯があったか知らないが、夫人の強烈な呪詛は、的を得たものにちがいなかった。社会を変えるほどの天変地異があったにもかかわらず、この国から女性蔑視をはじめとした差別的な社会構造が消えることはなかったからだ。

 とはいえ、面と向かって自分の卑しい心根を指摘されると、言い返したくもなる。

「あんたにぼくらの関係の何が分か……」

「ハイ、そこまで」

 母君が、レフリーよろしく割って入った。

「大変有意義な議論かもしれませんが、それは後ほどお二人でじっくりお時間をとってやってください」

 あらためて夫人に向き合って

「それでローレル夫人、スウさんがここから飛び立とうとしていた、とおっしゃっていましたが、今回の彼女の失踪について、わたしたちに教えてくださいませんか。完全に自主的な失踪ですか? 動機は? 行き先は? 連れはいますか?」

「いいえ」と夫人は首をふった。

「具体的には、わたしも何も存じ上げません。彼女はわたしに、何も喋りませんでした。言ってくれたらいくらでも協力したのですが。その意味で、すべてがわたしの邪推にすぎない、といわれればそれまでです。ただ……」

「ただ?」

「逢わなければならない人がいる、とはいっていました。わたしは、彼女には忘れられない恋人のような、意中の人物がいたと思っています。少なくともーー」

 と、ローレル夫人は、勝ち誇ったような表情になった。

「貴方ではありませんわね」 

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