第34話
別府が死に、松原が銃殺された日から一年が経った。藤崎と上瀧は行方をくらませたままだ。
福岡空港の国際線ターミナルを、さほど大きくないボストンバッグを抱えた茉莉は鷹岡と歩いている。
「バンコクで藤崎と上瀧の目撃情報があったんですがね、高橋さん」
「やけん行くっちゃろ!」
「カレシが男と国外逃亡ってどうなん」
「やる事やったけどまだカレシやなかったもん」
「国際的やり逃げか……」
「スケールでかっ」
「他人事か」
「だあって。別に私は納得しとるもん」
「ふうん。付き合うとか結婚したいとか考えとらんかったんや」
「そういうの、向いとると思う? 私と、上瀧さん」
言われてみれば、と言いたげ顔で鷹岡は茉莉を見た。
「どっちも向いとらんやろうね」
「そうやろ」
「慎重に行けよ」
鷹岡が神妙な面持ちで言う。
「え。私の恋の行先?」
「アホか。捜査のほうに決まっとろうが」
「あ。はいはい」
茉莉の反応に鷹岡がうんざりした顔で短い溜息をついた。
「今からでも編成変えてもらえんやろか」
「諦めて行くよ。ほらほらほら」
茉莉は鷹岡の背中を押して搭乗口へ進んだ。
初恋のための鎮魂歌 森野きの子 @115ma
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