第19話 汗と涙

風のように軽やかだったはずのトレーニングルームが、今や戦場となった。

床に仰向けになり、バイシクルクランチの姿勢をとる。

その表情は、耐え難い苦痛が渦巻いていたと思う。


右肘を左膝に近づける度に、腹筋は火を噴くように痛み、呼吸は次第に浅く、

速くなっていく。左膝を伸ばしきる瞬間、筋肉は限界を超えようとしているかの

ように震えた。体の中に重い鉛が流れ込むような感覚が全身を襲い、

次第に動きを鈍らせる。


視界が汗で霞む。一回、また一回、汗が額から頬に流れ落ち、床に小さな滴を作る。体をねじるたびに、腹筋の深部に響く痛みは増していく。

その痛みが意志を弱らせようと何度も何度も誘惑してくるのだ。


「あと、もう少し...」心の中で自分に言い聞かせる。

だが、その「もう少し」が永遠のように感じられる。右肘を再び左膝に近づけた

瞬間、腹筋は限界を超えたように悲鳴を上げた。


はぁ..はぁ


最後の数回のクランチを終えたとき、体は疲労で重く、呼吸は荒れていた。

風雷が目じりを優しく丸めた表情で お疲れさんと水分補給用のドリンクを

手渡してくれる。水を一気にお腹に流し込み、左を見て自分を見つめる。

鏡越しには、困難を乗り越えた達成感が満ち満ちている。


いまならどんなこともできる気がする。


いつもより女子生徒と目が会う。こんなにも開放感があるのは久しぶりだ。

そんななか俺の熱い雰囲気に吸い寄せられたのか、

ひとりの女子生徒が話しかけてくる。


天ケ瀬君、ちょっと...


久しぶりのラブコメ展開にワクワクを感じながら彼女についていく。

たしか名前は柊柊ひいらぎ しゅうだったかな、4組の生徒だ。

翔太が転校してきたのに俺を選ぶとは分かったいる。


優しい口調で彼女が呼んできた理由を待つ。

「最近結花ちゃんとはなしてる?」


彼女に嫉妬しているのだろうか、そんなことする必要ないのに


「最近は学校のシステムでいる時間分かれてるから、会えてない。」


あくまで、任務だ、彼女を起点に恋愛の良さを広めればいいじゃないか。

彼女に安心してもらうためにいったがそうは上手くいかなかった、


「大切にしてあげなよ!」

急に大きな声に少しばかり驚きはした、

なるほど、あくまでも恋人は大切に扱うスタンスか...難しいな


「もちろん大切にしてるよ」


彼女の機嫌取りを試みる。


「じゃあなんで毎日学校帰り泣いてるのよ」

彼女はそう言って自分のことのように目には涙さえ流してそう訴えかけた。


水無月は俺には言わず単独でも行動して、コミュニティを拡大していたようで

おそらくそこで柊とあったのだろう。彼女は柊のことを俺には伝えていなかった。

案外信頼されていないな、おれ


しかし柊が言っていたことが事実かどうかを確かめなければいけない。

水無月は感情を上手くコントロールすることが得意なやつだ。

作戦の一部であるならそれでいいのだが、翔太のことだ。


何をするか分からない。

念のため、12時15分頃、風雷と別れた後に風雷がいつものようにコンビニに

行くのを確認した後、俺は再び学校へ戻った。

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