第18話 単純明快

校庭には数十名の生徒、メンターがいたものの、

ある程度スペースは確保されていたのか、裏門側のゴールは未使用で、

風雷はゴールから11 m程離れたPKの場所にボールをおく。


じゃあ遥くん、キーパーやってや

これ止めたら今日は終わりでええで


細い目でゴール前へと招き入れる。


PKは心理戦だ。相手の視線、モーション、重心、タイミングが

相手のコースを教えてくれる。

風雷はサッカーを初めて数日、その技術に対して俺の心を読む力は

きっと勝るだろう。

これを止めればすぐに帰宅することができる。非常にいい打診だ。


風雷はゆっくりと上を向いて呼吸をする。

腹部、胸に空気をたっぷりと吸い、ゆっくりと口から空気を通す。

周りの音は聞こえない。あるのはただ目の前にあるボールと

絶対に決めるという意志を持った狐だ。


風雷は徐々に歩幅を広げ、ボールに近づく、大きく彼が振りかぶった瞬間、

彼の視線方向、広く開いた胸、軸足の向きからゴール右下隅に蹴るということが

分かる。彼の経験と動作からフェイントの可能性を捨て、全力で飛び込んだ。


しかし大きく伸ばした手はボールをギリギリとらえきれず、

ボールはポストの内側にあたりゴールに吸い込まれた。


惜しいね~~


あの、俺キーパーやりたいんじゃないんですけど。


悔しさからそんな言い訳が出てしまった。

彼は俺が予想していた通りのコースにボールを蹴った。

しかし、それはもう決めることを考慮していないレベルの速さ全ぶりの強蹴であり、あれを80%の確率でゴールに入れられるならどんなプロよりもこの男は

サッカーの才能があるだろう。


見ることが大事やねん。こっちの方が勉強になるやろ?


確かに彼の言う通り、彼の後ろ姿からフォームを確認するより、

彼のやり方をよく見ていたかもしれない。


いや~でもいいもんが決まったな

失敗を恐れる心、不安、プレッシャー…。すべてがこの11メートルの間に

凝縮されているってかんじやで

いいスポーツや


微塵も分からなかったし、始めたての人間がよく語れるものだ。

その後も14本彼はとても分かりやすいコースに全力で足を振りぬいた。

俺は一本も止められず、無力感にさいなまれたのに加え、

罰としてかたずけを命じられた。熱血教師っぽいこともできるらしい。


残りは体幹トレーニングに費やすため室内に戻るとのこと。

風雷は場所を伝えた後、せっせと去ってしまう。


一度にすべてのボールは運べないから複数に分けて倉庫にボールを格納する。

ボールを運ぶ間、窓からトレーニングルームの様子が見える。

多くの生徒がそこにもいるように見えたが、

瀬戸の姿が合った。ランニングマシーンを必死にバテバテに

なりながらも走っている。右にいるのはおそらくメンターで、

彼を鼓舞しているようだ。速度を上昇させたのか声は聞こえないが

瀬戸の顔が苦しみでいっぱいだ。

リモコンを取ろうとしたがメンターが奪ってしまう。なかなかにスパルタそうだ。

俺の場合は30分で休憩になったがそれはメンター次第なので

瀬戸はびっしり鍛えられるだろう。


改めて風雷で良かったと思いながら

ゆっくりボールを型付け、グラウンドを去った。

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