第16話 憂国

学校の体育館は、生徒たち気だるそうな雰囲気に包まれている。

雰一昨日と大違いだった。

ステージの中央には、シンプルながらも荘厳な演壇が置かれており、

その前にはマイクが用意されている。ステージの背景には、学校のシンボルである

校章と「創栄優魁」というスローガンが大きく掲げられていた。


挨拶の時間が近づくと、ガタイの良い男がゆっくりと演壇に歩み寄る。

スーツをきちんと着こなし、穏やかでありながら自信に満ちた表情をしていた。

マイクの前に立ち、一瞬の静寂が訪れる。


みなさんおはようございます。

本日よりこの燦燦高校の校長に就任いたしました。

狛瑠偉都こま るいとです。この度、校長として任命されたこと、

大変光栄に思います。これからの学校運営において、全力を尽くして参ります。


そこでかねてから優秀なみなさんには、社会にとってより良い人材になって

もらうため本日より独自のプログラムを用意いたしました。


生徒一人ひとりには優秀なメンターがつきますので

是非才能の向上に役立ててください。



急遽行われる新改革、おそらく団体の差し金だろう。

しかしこのメンターの制度は生徒にとって不満を募らせた。

もともと個性の強い生徒たちだ、監視されるような感じがして気持ち悪いのだろう。俺にとっても当然気持ちが悪い。完全に俺たちの動きを封じるための策だ。


翔太が指揮を取っている以上顔はばバレてしまっている。これから行動が制限されていることが目に見えていたので、今日中にできることはしなくてはならない。




「最近さ、やる気がでないんだよね、宮田は可愛いんだけど俺には無理だしさ...」


久しぶりにあった瀬戸はそんなだらしない様子だった。

肌は荒れ、制服にはしわがついている。


「なにかアクションしてみたの?」

俺は彼をちょっと挑発するような形で会話をつくる。



「だからさ、やる気がでないんだよ」




「じゃあお前には無理じゃないかな。」


意地悪な言葉づかいで瀬戸を煽る。こいつは俺らならきっと甘い言葉を

掛けてくれると思っている。また概ねプライドが高そうなやつだ。

それを利用する。


「みやっちクラスの人気者だしな~この前も向井君と楽しく話してたかも」


さすが水無月、状況の把握が早い。瀬戸の姿勢が少し前傾になったところで

勝負はついた。


「最初から諦めている奴にはむりだよ、だからごめん、役に立てそうにない」


最後のダメ押し、ここまでくれば容易く展開が想像できる。


「わかった。お前らが間違っていること証明してやるよ。」



機嫌を損ねた瀬戸は頭を強く掻いた後、俺たちを横目で

睨みつけながら去っていった。


想定通りに事が運んだが、なかなかに彼が怒った姿は迫力があった。

水無月も俺の後ろに隠れたことで俺の勘違いでない事がわかる。


一通りやるべきことを終え、俺は床に就いた。

明日からメンターという恐ろしい監視が俺たちを常に見張ることになる。

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