第13話 たげんてきなみかた

22:00過ぎ、続々と人が燦燦高校の体育館へ入っていく。

制服着用者は少ない。学校外の者も参加しているようだった。

恋愛不要声明を出している以上不適合者が多いとよそうしていたが、

周囲の人間同士であつまて談笑している様子が伺える。

体育館前方の明かりのみがかすかにともされ、

2階後方からでは声は聞こえなかった。


顔見知りに五月雨、そして宮田の姿があった。もし宮田がこのコミュニティの常連

であるならば恋愛に対する過度な偏見はここから来ているかのかもしれない。

このコミュニティを終わらせることができたなら一気に形勢が変わるだろう。

3組各以外はクラスの大体4~5人が会場に入ってくるのを確認する。

我が担任、静動先生の姿も見える。彼のぎこちない容姿からこの運動が学校主体であるという疑念を排除してくれた。もしこれが招待制の物であったなら主催者はいい目をもっている。勝手な妄想に勝手な称賛ができるほどに

今の状況に危機感は感じられなかった。


そこでカチっと体育館ステージ前方に明かりが集まる。

それに応じて集団もそこに意識が集まった。舞台幕の右から一人、

首から下はピエロの格好、首から上はサイバーパンクの仮面を被った者が姿を

見せる。顔は認識できない。一歩また一歩、その歩きを見せつけるかのように

踏みしめてステージ中央の台まで来る。


諸君、お集まりいただきありがとう。

学校のスピーカーを通じて後ろにいても登壇者の声ははっきり分かる。

堂々とした40代前後の男性の声だ。声には落ち着きがある。

合成音声の可能性があるが声の抑揚などの非言語てきなものは重要な情報となる。


諸君らは特別な存在です。普通の人々とは違います。あなたたち一人一人には、

普通に生活する一般人の誰にもできないことができる力があります。

これは偶然でもなく、ただの幸運でもありません。長い間、厳しい選考を経て、

最もふさわしい者が選ばれました。その中でも、

あなたたちは特に優れた者たちです。


それぞれの能力や才能、努力と信念、すべてが認められ、ここに集められました。

これは大きな責任でもあり、同時に無限の可能性を秘めた機会です。

選ばれた理由は明確です。


あなたたちは、この世界に変革をもたらす力を持っています。

過去の偉大な英雄たちと同じく、

あなたたちは運命に導かれ、ここに集いました。


現在この燦燦高校において私たちの思想を汚そうとする輩がはびこっています。

彼らは恋愛にうつつをぬかし、私たちの才能をドブに捨てようとしているのです。

この世では、基本的に弱いものが子孫を作ります。

恋愛する人間は弱い。

あなたたちは昔、それが当たり前の環境に身をおいていました。

さぞ、苦しかったと思います。

自分は変わり者だとそう思っていた人も多いのかもしれません。

しかしもう大丈夫です。あなたはひとりじゃない。

私やあなたの今隣にいる人たちがいます。

私たちで彼らに立ち向かいましょう。


長々と根拠がないでたらめを吹く奴だったが、そう思っていたのはこの空間で

俺だけだ。

体育館は徐々に彼の言葉をのみ込み、熱を帯びる。

この誘いにくる人間は少なからず恋愛について良くないイメージをもつ者が多い。

それもあってか、この空間が正義であると感じさせる空気が漂う。


空気を完全に支配した登壇者はある思想派閥の先導者となったわけだ。

やつはまるで聴衆を一つのマジックショーの観客であるかのようにあしらって

まとめ上げてみせた。そして最後の余興であるかのように

やつは重々としたサイバーマスクを脱ぎ捨てる。

シューーと煙が出てステージを霧が囲む。

体育館に集まったものはやつの演技にご満悦のようで

心を奪われている人が多い印象だった。

少しずつ、煙が分散し、やつの姿が見える。みんなが期待に胸躍らせていた。


そこにいたのは一人の女子生徒だ。彼女は明るくこう宣言する。


私たちは縛られない。私たちは自由だ。


やはり先ほどの声は合成音声であったわけだ。

聴衆が一斉にその明るい掛け声に呼応して大きな音圧がこの箱に響く。

ピエロの格好をした、彼女は一度見たことがあった。

そいつは翔太だった。

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