第10話 いつ金が出てくるか分からない
「ねぇねぇ、みやっち またこれやろっ」
宮田綾香はそんな水無月のいつもの誘いに少しの煩わしさを感じながらも
ノートをたたみ、椅子をもってこっちにやってくる。
グレープフルーツや他の柑橘系の香りが漂う香水は、
フレッシュで爽やかな印象を放つ。
雨の日にもかかわらず、彼女の存在は暖かさをもたらし、俺を含め、
一緒にゲームをしている男子生徒たちに少しの緊張感を与えた。
影の暗殺者のブームはもう去ってしまったが新しいゲームを
クラス内ではやらすことに成功した。
プレイヤーは文字が書いてあるカードが配られる。
それを並び替え、ゲーム中の親にプロポーズするゲームである。
今のクラスにうってつけのゲームだ。
手元に配られたカードを見ながらプレイヤーの様子を見て、
出す順番を考えなければならない。本気でやれば水無月が圧勝であるゲームでは
あるが彼女は適度に手を抜いて、クラスメイトに自信をつけさせるよう
手加減していた。自分が親でプロポーズを選ぶ時以外はだが...
今は4回目のゲーム最中、すでに俺が2回、水無月が1回勝利している。
周りを見ると向井の目はそれなりに自信を帯びていたので、
ここはあえて勝ちを譲ることにした。
アニメ主人公が窮地に追い込まれ、切札をだすように俺は
カードを一枚一枚、机に並べていった。
君・が・僕の・メモリ・を・クリア・する・結婚しよう
よくわからないセリフを持ち手のカードで作って親である宮田に提示する。
自分でも全く分からなかったが、
頭でなにも考えられないほど君がいとおしい的なものと
受け取っていただければ嬉しい。
水無月やこれからカードを出そうとしていた人たちの
空気がまた何とも言えない。
持ち手によってはこういうこともある。
そんな宮田は笑っていた。栗色の大きな瞳が楽しげに輝き、
その目は笑いの形に細められている。頬はほんのりと赤らみ、
健康的な輝きを放っている。小さな手で口元を覆う仕草が可愛らしさを
一層引き立てている。
うん、一緒に最高のプログラムを作ろう、メモリに新しい未来を書き込みたい。
彼女に俺の気持ちが伝わったのは嬉しかったが、
そう感じ取れたのは彼女の声トーンからで、
言っている意味が分からなかった。水無月は意味を理解していたようで、
感心していたことから後で聞いたところメモリとはコンピュータに
含まれている記憶装置らしい。
その後、すぐに静動が来たから今日のゲームは終わりとなったが
宮田がコンピュータの知識が豊富であることを知れたよい出来事となった。
よくわからなくてもとりあえずやってみることが大事なときもある
ということなのだろうか...
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