第9話 顧み

すごい、こんなに星が見えるなんて。


辺り一面、満点の星空


開けた空が悠に広く輝く


今日返る手段はない。でもその必要はない。


ただこの時をいつまでも。


彼女はこの星空に負けない輝きの瞳をこちらに向け


頬を和らげて言う。


うん、本当に綺麗だね。

こうま座見えるかな?


キーホルダーのぬいぐるみを優しく包みながら一生懸命探す

彼女がいとおしい。


見つけるまでずっと一緒にここにいよう


しばらくの間、二人はただ星空を見つめ、言葉を交わさずに過ごした。

心地よく、時間がゆっくりと流れていく




「ちょっと」

「あのー」


その声はすぐそばから聞こえた。

梅雨の存在を感じさせる冷たい風が現実に俺を運ぶ。

静寂を切り裂いて

水無月と五月雨さみだれのあきれた顔を前にして状況を再確認した。


うん、大丈夫、大丈夫

もちろん引き受けるよ

きっとうまくいく


そんな軽い返事で了承してしまった。


入学から早二ヶ月、誰かを好きになる状況にはいかないまでも

多くの人間が他人と関わることの楽しい部分に気づけるようになっていった。


そもそもまだ15から16歳、個人差は当然ある。

もともと全員を恋愛に夢中にさせることはできないだろう。

とはいっても総帥はそのようなことをお望みのようだが...


今俺、結花の前にいるのは

五月雨実さみだれ みのる、2組の女子生徒


額にかかる前髪をピンで止め、スカートに白いブラウス、

そして落ち着いた色合いのカーディガンを着ている。

この学校への入学理由は、人に興味がないことだった。


この学校に振り分ける主な理由の一つだ。

このように要因が偏っている場合は、扱いやすい。

こういう場合、少しの変化が連鎖して大きな変化を生む。


彼女の要件は端的にいって恋愛相談といってよい。

同じクラスの男子生徒のことが気になるというような、

とても遠回りな表現ではあったがそういうことだ。

中学校に在校していたときから数学にはまり、

それがきっかけで相談できる人がおらず、

おそらくこの学校で唯一のカップルである俺らに相談を持ち掛けた、

そういうことらしい。


話している雰囲気がなんとなく記憶の中のある女性に似ている。

そんなことを考えていたらいつの間にかそっちに

意識が向いてしまったというわけだ。


その後も彼女は色々と言っていたが好みの男性が同じクラスの瀬戸龍二である

ということを聞いたあとは主観が強すぎてあまり参考にならなかった。


五月雨とは別れて水無月と二人で今後の方針について話す。


端的に要件を聞き出したのは申し訳なかったが、

俺たちにはまだやることがあったのだ。




「実はさ、気になっている女子がいるんだ。」


「うんうん、誰なの?誰なの?」


「宮田綾香っていう3組の...」



もう一つの用事、それはまた恋愛相談だ。

水無月は次の相談相手、瀬戸龍二の思い人を興味深々に尋ねた。

しかしそれは五月雨ではなかった。


なかなか思い通りにはならないのである。

俺たちはしばらくこの三角関係に焦点を当て、活動していくこととなった。




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