第7話 流れ星の告白
放課後、結花と一緒に校舎のベランダで過ごすのが俺たちの習慣になっている。
夕焼けが校庭を照らし、柔らかな風が彼女の髪をそよがせる。ベランダの手すりにもたれかかり、彼女は楽しそうに笑う。
内容は相変わらず乙女げーではあった。
本来の目的は日々の活動で得られるクラスの情報交換をすることだったのだが...
「あれ、見て。」と結花が校庭の端を指さす。
そこには、男子生徒が一人、真剣な表情で立っていた。
向かいには、女子生徒がいる。
俺たちは、ベランダからその光景を見守ることにした。
「告白かな?」と結花が小声でささやく。
その声には、少しの興奮と好奇心が混じっていた。
告白、それは、心の奥底に秘めていた想いを言葉に乗せて届ける、大切な儀式だ。
国外においてそのような文化はあまり見られないが、俺はこの文化を好んでいる。
相手に自分の本当の気持ちを伝えること。
それは俺や水無月、組織の人間には味わうことのできない輝かしい魂の炎だ。
誰かを思う活力は人をよりエネルギッシュにする。人の顔つきは明るくなり
周囲さえ変えてしまうのだ。恋人ごっこより断然、人を変えることができる。
1年3組では一人の男子生徒がある女子に話しかけにいったあと、
俺たちの努力が嘘のように一人また一人と違う人に声を書けるようになっていった。自分の面白いことを他人に受け入れてもらった彼らの表情は小学生が始めて自転車を乗れた時のように笑顔満点である。乗り越えるべき壁にまず向かい合う、
それが大切だ。
男子生徒は深呼吸をし、意を決したように口を開いた。
俺たちにはその言葉が聞こえなかったけれど、
どれだけ大事な瞬間かが伝わってきた。
男子生徒の告白は、まるで心の奥底から溢れ出る泉のようだっただろう。
緊張と期待、不安と希望が混ざり合い、一言一言に重みがある。
その一瞬一瞬が、彼にとっては永遠のように感じられるに違いない。
しかし、女子生徒の表情が次第に曇っていくのが見えた。彼女は何度も視線を
逸らし、困惑した様子を見せていた。そして、ゆっくりと首を横に振る。
男子生徒の表情は分からなかったが、背中からは絶望と悲しみが広がり、
その場に立ち尽くしてしまった。
男子生徒が傷ついた心を抱えて、ゆっくりと歩き出す。その後ろ姿には、
告白の重みと失敗の痛みが詰まっているように見えた。
「あの子もきっと強くなれるよ。いつか、もっと素敵な人に出会えるはず。」
優しい言葉のその声には、彼女自身も感じている切なさが滲んでいた。
彼の行動は間違いなく大きな一歩だ。
俺たちは彼のように勇気ある行動ができる環境をより整えなければならない。
最近は生徒同士のコミュニティが広がっている。
これは彼らに取って多く利点がある。面白くないのは静動くらいだろう。
鎮まる夕焼けの中でゆっくりと俺は今後の計画を錬って言った。
翌日、一人の高校生の熱に当てられたのか、
今日は席の周りの人を誘ってボードゲームをする予定を立てていた。
仕切られた空間で共に会話し、恋人ごっこを見せつける。
前の学校ではこんなことできなかった。しかし、人ともっと関わっていける空間を提供したいと思う。もっと近くで愛情というものに触れて欲しいと思っているからだ。開けたビジョンに現を抜かしすぎたせいか、いつもより大体5分、
遅れて学校につく。
しかし、その教室には誰の声も聞こえなかった。
重たいボードゲームを机にドサっとおろし、俺は右隣の憂谷にとりあえず
声をかける。
「よ!、影の暗殺者もって来たからやろうぜ」
席替えで近くになった憂谷は音ゲーが趣味であった。
最近のクラスのムードのおかげか話をしてくれるようになったのだ。
だが、今日はヘッドホンを外さず画面のノーツで忙しいようで
目は一瞬あったのだが返事は返ってこなかった。
俺は水無月現状報告を求める。
明らかに一日で雰囲気が大きく一変した。
「早すぎる...」
彼女は深く考えた様子だった。
どうにも昨日の告白の件がもう全員に広まっているらしい。
当事者は他クラス、もしくは他学年であることと、当然まだ、
クラス内でのSNS周りは太くないことからこの情報伝達速度は異常だった。
憂谷がまたもとに戻ってしまったことになんとなく合点がいく。
水無月もこれからの状況にどう対応すべきか、考え込んでいたため
俺は向井に声をかけた。
彼がこのクラスを大きく変えてくれたのだが、そんな彼も元気がなかったのだ。
「どうせ、おれもだめなんだ。」
彼は宮田に好意を抱いている。
その彼が昨日のある生徒の告白失敗によってすっかり自信を
無くしてしまっているようだ。
他人のことだから気に病むことではないと俺は寄り添う。
しかしそれは逆効果になった。
「うるせぇ、お前にいわれたくねぇよ、君には水無月さんがいるだろ」
何かに挑戦すること、それは大きな進歩であるが当然多くの困難が待っている。
恋愛においては相手に拒絶されることがあることを彼らは知ったのだろう。
それでみんな、周囲の人に声をかけれなくなって誰も話さなくなったわけだ。
俺と水無月は恋人であることから、彼らのマインドをコントロールすることはかなり
困難だ。彼女も背のせいで深く頭を抱えていたのだろう。
恋愛は一方通行では上手くいかない。相互に歩み寄っていかなければならない。
確かに男子生徒が多く異性に声をかけていった印象があった。
彼らは今回の件で性という概念に向き合うのかもしれない。
そしてそれはもしかすると誤って、彼らはそれに不平等という考えを持ってしまったかもしれない。
恋人ごっこを止め、お互いに小さなコミュニティの内側から意識を修復していく。
これには時間がかかるが、俺にはこの方法が思いつかなかった。
ガッガガ
教室の後方の扉が荒く音を立てて開いた。その音に教室の全員が一斉に振り返る。
そこには、一人の女子生徒がいた。見たことがない彼女はおそらく上級生だ。
何だ?と、数人が教室を見渡す。
明るく元気な性格がにじみ出ているような女子で、髪にはカチューシャを
付けていた。カチューシャは鮮やかなピンク色で、活発な雰囲気が漂う。
その女子生徒は一言も発さずに教室内を見渡した後、
まっすぐに俺の方に向かって歩いてきた。
近づくと分かるが、身長は俺と同じくらいか、少し高めだ。
「ちょっと、いい? はなしがあんの」と彼女ははっきりした声で言った。
タイミングが悪すぎる。昨日、この出来事が起こったとしたら、まだ嫉妬、妬み程度で何とかなったかもしれない。 ただし今は自信を無くしたクラスメイトにさらに傷を与えてしまう。モテる、モテないを生来的な能力と勘違いする可能性がある。
冷静になるため、現状を把握し、できる限り波が立たないようにこの場を
上手く切り抜ける方法を模索する。
俺に関していえば最近の思い切りの良さは取り返すのに大変な作業を伴うことが
多いため、慎重に。
周囲から見ても数秒、だったと思う。俺が考えているうちに、女子生徒は俺の視界
から消える。
「そのゲーム、楽しそうだね!私もやってみたいな。」
その声がまた鳴ったのは俺の左後方は憂谷の席だった。
彼は動揺し、彼女とは目を合わせなかったが携帯を彼女に差し出した。
しばらく遊んだ後、彼女は隣の席のボードゲームを手に取って憂谷の机に
持ってくる。
「最低、4人からか~」
彼女はそう言って近くにいた、
クラスメイト我利と仲俣と宮田を少し強引にゲームに誘う。
先輩の圧というものを感じなくもないが5人でボードゲームを始める。
最初はぎこちない空気でも上級生がみんなを和めて、楽しい空間をつくる。
さっきの空気が嘘のようだ。
数ラウンドかして満足したのか、彼女は一緒にプレーした人に
別れを軽く告げ、その女子生徒は教室をでる。
彼女のスマートさにあっけにとられ、危うく、俺に用があったことを忘れかけた。
「ちょっとまって、ください」
廊下で追いつき、彼女を引き留める。
「あの、僕に用とはどういうことでしょうか」
「あーえっと、忘れちゃった。」
よくわからない人だ。
「ありがとうございました。 クラスの雰囲気がなんか入学時に戻っちゃって、
なんかさみしくて。先輩が来てくれて助かりました。」
任務のことは隠しても当然、行ってもらったことに感謝する。
今後、上級生との繋がりは大事になるからだ。
「そうだな~、入学時よりは全然良いとおもうけど...
天ケ瀬にしては、苦戦してるんじゃないか?」
そう言って後、手をゆっくりと顔に向け、ピンクのカチューシャ、黒いウィッグを
取り外した。下から現れる短い茶髪が見える。
その瞬間、彼女....彼の姿が一変した、
目の前に立つのは上級生でもなんでもなく以前、よく見た顔の男だった。
伊夢那 翔太 非リア充撲滅委員会、燦燦高校配属の最後の1人である。
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