第5話 空間と時間
恋愛シミュレーションゲーム。
ゲームを起動した瞬間、美麗なキャラクターデザインに心を奪われる。
各キャラクターは個性豊かで、魅力的なビジュアルと細やかな表情が本当に彼らと
触れ合っているかのような錯覚を生む。
燦燦高校の生徒に俺たちが行ってきたようなシミュレーションを体験させる作戦を
思いついて以降、俺たちは隙間時間を見つけてゲーム作成に精を出した。
一般的にみて中規模のシナリオ、バグと戦い続け、なんとか5月中に形に
することができた。もちろん彼らに合うように工夫も施している。
まず自分のアバターのパーツをいくつかの選択肢から選べる。
自分が憧れている人間像を自覚させかつ、成功体験を積ませることが目的だ。
水無月の基準でユーザーの行動を判定した場合、難易度は鬼であること間違いなしで
離脱する可能性が高い。したがってNPCや場面の詳細を主に担当してもらった。
そのためシナリオは俺が書かなければならなかった。
彼らに合わせ、少しずつ自信がつくように徐々に
ヒロイン、ボーイズがデレ始めるようにセリフを考えてある。
ゲームが完成してすぐにこの学校の職員で唯一事情を知ってる校長に許可を取り、
学校支給の端末にダウンロードする。
自分たちの端末のアプリが正常に機能することを確認して教室に戻った。
教室には静かなざわめきが広がっていた。窓から差し込む柔らかな陽光が、
教室の床に長い影を落としている。謎のアプリにみんなの自宅への軽い脚が止まる。
放課後の自由時間、水無月は興奮しながら早速、端末を起動し、
みんなにゲームの素晴らしさを伝えた。
高グラフィック、複雑なストーリーライン、そして無限の可能性が詰まった
このゲームなら、きっとクラスメイト全員を夢中にさせる。
彼女は笑顔でクラスメイトに呼びかけた。
しかし、教室の反応は思ったよりも冷淡だった。
数人は一瞬こちらを見たが、すぐにまた自分のやっていることに戻ってしまった。
スマホでチャットをしている者、宿題を急いで終わらせている者、
友達と雑談を楽しんでいる者など、みんなそれぞれの世界に没頭しているよう
だった。
「本当に面白いんだよ。試してみてよ!」と再び声をかけるも、
誰も端末に手を伸ばそうとしない。
俺たちは重要な見落としをしていた。
俺たちの記憶は時が経ち、美化されていたこと。
そもそもゲームを好いている人は割合からみてごくごく一部だということ。
また恋愛シミュレーションゲームを語らした水無月のテンションはクラスメイトに
不自然に映った可能性もある。
彼女はしばらく端末を持って立っていたが、次第にその重みを感じるようになった。
もちろんこれは彼らに恋愛の良さを伝えるために作成したが、
作っている間に楽しんでもらおうと思って積み上げてきたものでもあった。
彼らの反応が、期待外れの現実が、じわじわと胸に広がる。
数分後、ただ一人で端末をいじる彼女の姿が、なんとも寂しく感じられた。
そんな俺は小さな彼女の背中をただ眺めることができず、
なんとかこの場をを変えたくて俺は決死の戦略に出る。
少し照れくさそうに笑いながらも真剣な目で彼女を見つめて言う。
「結花、今日は俺たちが付き合って1カ月の記念日だね。
これ、君にプレゼントしたいんだ。」
俺たちが虚構の恋人になって実演すればその幸福感は絶対に伝わるはずだ
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