第4話 されど学校されど先生

「そうか そうか 自由でいいだろう! がっはっは!

     今日はもう授業ないしな! 拘束される必要はないわけでだ がはっ!」


燦燦高校では当然のこと、むしろ生徒の行動が誇りであるように

1年3組の担任 静動 武 は授業中にクラスメイトがいなくなった現象に対する

感想を述べた。


見た目には必要以上に気を配っているようで、くしの使用後の跡が見られる。

少し刺激のある香水と左手から想像するに絶賛婚活中と言ったところか。


「もう部活動って始まってるんですか?」


水無月もある程度の観察を済まし、話題を次に運ぶ。


教室にいた間、ただあの雰囲気を楽しんでいたわけじゃない。

教室の窓から、1人の生徒が壁に向かってボールを投げているのが見えたのだ。

おそらく部活動前の練習をしているのだろうと水無月は思ったのだろう。


体幹の良さから、その生徒は経験者であり、疑問はごく自然である。

ただし彼女は情報不足だった。


「燦燦高校に部活なんてないぞ」


ここは他の県立高校とは違う。

通う人間が概ね、何かに長けてはいるが

他人に合わせることを得意とはしていないのだ。


静動は部活がない理由を所属することに対する従属感、拘束感などの短所を踏まえて淡々と口にする。


燦燦高校の職員になるのに恋愛不適である必要はないが、

静動もかなりの偏見を持っていることが容易に推測できる。

ここでは独創的という言葉を使おう。

独創的な先生はこの独創性あふれる学校、生徒に導かれたのかもしれない。


「そうなんだ、じゃあ放課後はデート行き放題じゃん!!」


水無月は先生を、ある特定の系統に当てはめ、先生を使って生徒に恋をさせようと

いう作戦に切り替えた。先生はこの学校の事情、ましてやブルースターのことを知ることはないので恋愛に夢中であろう先生を、活用することは非常に適している。


デートをする生徒を見かけないことからそれを悔いているような表情で訴えかける

水無月、恋愛の楽しい側面を押し出して静動に説く。


この作戦を数名の教師に行い、規模が大きくなれば、ディスカッションなどの

対話型授業が増える。これにより合法的に話しかけられる幅が

増えることになるため、作戦としては非常に現実的なプランだ。


しかしやはりそう甘くはない。

先生が実際に恋愛に不適と判断されたかは分からない。

ただしその可能性は十分にあった。

恋愛に不適というのはあくまで恋愛に興味がない人間だけがそうではない。

自分を必要以上に誇示するため他者を卑下する(そのように他人が感じ取る)ような人間はもちろんシステムが不適と認定する。


静動は自分の過去の経験を語ると上記の特性が見え始めた。

口調は先ほどと全く同じなのがなお怖い。

彼女もそれを感じ取ってくれたようでこの教師を利用することはやめてくれた。


「手強いねー」

彼女はただの事実としてその言葉を独り言のように空に出す。

静動の言葉には異性を嘲笑するような発言が散見されたが

彼女含め、ブルースター - 人を変える人間は色々な人間を知らなければならない。

様々な特徴を持った人間と会話する経験を積むため、

教育段階でシミュレーションが義務化されているのだ。

このようなことで俺たちの精神は動じないし動じてはならない。


どうしたらうまくいくのか。俺たちは過去のシミュレーションの記憶をたどり、

恋愛に興味ないAIを恋に落とさせるにはどうしたか、自分を卑下するAIをどのように変えていったかを思い出そうと奮闘した。


「そこで、優しく傘を渡すの、分かってないな~よく満点だったね」


彼女は昔のシミュレーションが楽しかったようでそこから派生してある設定をつくり理想の行動を当てるクイズをやり始めた。


たしかに彼女はギャルゲー、乙女ゲーを熟知しているし、彼女の正答が現実において異性に対して高感度をかなりupさせられるということは分かってきた。


しかし、それと同時に彼女が心の底から楽しそうに恋愛のシミュレーションを

楽しんでいることは分かった。彼女の設定を攻略するのは面白かった。



その瞬間、心の中で何かがパチンと弾けた。

俺は無意識に視線を落として考える。


このシチュエーションをゲームにすれば、生徒はAIを落とそうと必死になって

恋に興味を持つかもしれない。


AIとの生殖は現段階では難しいため、生徒がこのゲームに

のめり込むことは本来の目的としてはずれてしまう。

しかしこれは小さな光となるかもしれない。




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