第2話 県立恋愛不適合者高校
「天ケ瀬遥、貴公の優れた功績から貴公を燦燦高等学校、特別任務を課す。」
指揮官からの突然の通達に、心臓は跳ね上がった。
県立燦燦高等学校
それは全国から中学3年生の時点で恋愛に不適とラベルを張られた人間たちが通う
学校だ。政府は30年ほど前、出生率の低下を恐れていた。その事実から数年後、当時の未婚である人と学校で行われるアンケートの間に関連性が確認された。
このことを機にこの燦燦高校は恋愛不適合者が恋愛に適している人間に影響を与えないように隔離する牢獄となったのだ。もちろん、この燦燦高校の事情を一般人おろか通う学生すら知らない。表立ては名門と称され、入学に際しては恋愛不適とされたものにだけ通知を行い、本人が自分から望んで燦燦高校に進学するように
仕向けている。
ここ30年、人口が増え、政府が描いていた理想通りであった。
しかし近年は世界に対する日本の評価について議論が行われるようになった。
それもそのはずで、この燦燦高校設立以来、全国の平均点数が8点ほど
下がっている。この現象を危惧したためか、お偉いさんは燦燦高校の人間を恋愛に適するよう仕向ける方向に切り替えた。この特別任務には3人のメンバーが選ばれている。他は現段階では未確定のようだ。
俺の選出理由は明らかである。非リア充撲滅委員会、教育段階におけるAIシミュレーションでは常に満点。実践においても苦戦したことはなく、レートは常にトップである。急な通達であったため、引っ越しやらなんやらで忙しくなるが
まず俺は入学者のリストを調べながら一週間後の入学式に備えなければならない。
「天ケ瀬遥です。趣味はスポーツ全般で、特にサッカーとバスケットボールが大好きです。休日には友達と一緒にスポーツを楽しんでいます。皆さんと一緒に楽しい学校生活を送りたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。」
自己紹介は試行錯誤の上、6回目の入学式以降は大体このテンプレを使う。
挨拶後、今回は出席番号が1番であったことからいつもよりも多くの拍手をもらう。
大抵みんなは自分の自己紹介が終わるとほっとするよな。
でも俺はここからが勝負だ。
クラスメイトの顔、雰囲気、しゃべった内容を暗記するのだ。あまり興味がないため覚えることは楽なことではないがこれは非常に重要なものなのだ。
クラスメイトの自己紹介が終わり、俺はこの高校の生徒がどういう人間の集まり
なのか知るため、早速後ろの女子生徒に声をかけた。
「有永さん、やっほー、この季節にオススメの植物って何がある?」
「お、やっほー! 特にチューリップやパンジーがおすすめ!この二つは冷たい冬を越えて、初春にきれいな花を咲かせるの。」
ノリがいい元気な女の子だ。
ターゲットはまだ決まっていないが成果が大いに越したことはない。
「アドバイス欲しいから、今日園芸用品店にもしよかったらいかない?」
王道
「今、ここでしてあげるから、店に行く必要ってあるの?」
王道ではない
じつに冷たい返事が返ってきた。言われてみれば確かに店にいく必要はない。
彼女のいう通りだったがそんな回答聞いたことなかった。
彼女とはその後いくつかの会話のラリーをした。
とても楽しそうにガーデニングの話をしていていたのだが、ガーデニング以外、興味がなく、こちらの返答を気にしないという狂気を感じさせた。
ただただ聞くことしかできなかった俺はガーデニングの細かな知識を異常に
修得してこの会話を終わらせた。彼女は非常に満足そうに教室を去ったのだった。
「て~んてん」
クソ、見てやがったのか。俺と有永との会話を盗み見ていた彼女は
筆箱から俺の消しゴムを取り、角を支点としたバランスゲームを俺の机で
繰り広げながらに やにや して口を開く。
「いくら何でも飛ばしすぎじゃない?どれだけ王子様気分なの?」
あって間もない奴に説教されるのは癪に障るが失敗したのは事実だった。
彼女の名前は水無月結花。今回の任務を受けたブルースターの人間だ。
ショートカットの髪が風に揺れるたびに、ふんわりと優しい香りが漂う。
その笑顔は一瞬で周囲を明るくするようで、
自己紹介からすでに手応えを感じていただろう。
「水無月、この学校のやつら、なかなか手強いぞ」
冗談めかして生徒をて敵キャラ扱いしたのだが水無月結花はなぜか黙ってしまう。
ここは笑ってほしかったのだが
「うん、確かに手ごわいかもね」
ノリに合わせてくれたのは嬉しかったが彼女が黙っているわけが知りたくて俺は彼女が見ている方向を見る。
なるほど
これは手ごわいな。
教室はもぬけの殻で俺たち以外、人はいなかった。
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