非リア充撲滅委員会

吉良η

第1話 恋愛系最強主人公

「おはようございます。本日厚生労働省の調査により合計特殊出生率が2.0となり、これは歴史的にみて第2次ベビーブーム以来の数字となっています。」


2020年、現在日本は先進国の中で唯一この高い出生維持率を保持している。

未婚率は低下し、30歳での結婚率は約70%だ。

おかげでこれからは労働力不足が大きく改善され、日本は安泰な国家となるだろう。


これはどうしてなのだろうか。

政府が出産や育児への公的な経済支援をしたからか?


違う。


それとも子供の人数に応じた税額控除によるものか?


否だ。


真実は秘密情報局設立のブルースター、正しくは

非リア充撲滅委員会の設立によるものだ。


君たちはこんな光景に遭遇したことはないか。

めちゃくちゃブサイクな男が誰もが二度見する美女とデートをしている。

あんなの見せられたら俺にもできるかもってついつい思っちまうよな。

また、歩いていたら急に美人に道を尋ねられた。

こういうことがあったらついもっと話したいっておもうよな?


しかしあれは偶然を起こったものではない。

ああいうのはすべて作られている。

このような体験があると君たちは異性に対して興味を示すだろう。

俺も女の子と話したいと。


現実に満足いっていない人間の行く場所、集まる場所なんてある程度分かっている。そこで人と触れ合う経験をちょっと与えてやるのさ。日本の未来のために。



「天ケ瀬君、はい!消しゴム」

隣の席の星野ゆりが消しゴムを拾ってそっと手渡してくれる。

俺がその消しゴムを受け取ると、俺の目は彼女の目とほんの一瞬交わる。

その瞬間を逃さない。


「そのキーホルダー、ウニバースのライブのやつ」

星野にギリギリ届く声だったが、ウニバースなんて知ってるのは多分、

この教室で彼女くらいだろう、当然食いついてきた。

最新の曲、ライブでの演出、俺と星野の2人だけが入れる空間ができる。

彼女の目は俺をはっきり見ながら話すようになった。

彼女が話のペースを俺に合わせ始めたところで次に進もう。


「次の日曜日さ、またライブあるじゃん、一緒にいこう」

空気の圧が背中をガッと力を入れたのを感じたがよくあることである。

彼女は一呼吸終えた後、恥ずかしそうに頬を赤らるのを隠すかのように

小さく首を縦に振り、その場を急いで去る。俺もこの後同級生の視線が痛いので

廊下に出ることにした。


今回のターゲットは星野ユリ、同じクラスの女子生徒だ。おとなしくて、

顔立ちも良いのでクラスの男子からはアプローチが絶えないが

彼女は恋愛にあまり興味がないようでいつも特定のグループと行動を共にしている。しかしその仲間たちでもマイナーなバンドには共感を持ってもらえいようだ。

孤立感を感じている。そこ俺は揺さぶることにした。


日曜日、ライブハウスの扉を開けると黒の落ち着いたブラウスに 動きやすい

スタイリッシュなスキニーを履いた女性の後ろ姿が見える。

マイナーなバンドのましては女性ファンなんて彼女しかいないと踏んで

俺は右肩にそっとたたく。

不意打ちだったのか彼女は少し驚いた様子、

そして緊張していた様子がうかがえたので「よ!星野」と口角を上げて話す。

ここからは俺のペースだ。Youtubeに載っていた曲やキメ台詞を暗記。

ここまでくれば上々。はたから見ればすっかり仲のいい二人のできあがり。


ライブ後、俺たちはライブハウスの熱に躍らされたまま夜の街を歩く。

お互いの手が触れるか触れないかのギリギリを保ちつつ、

十数秒、俺は彼女の熱い手をつかむ。

「振り返らないで、誰かついてきてる。」

早歩きで路地の角を曲がるたびに彼女の手が冷たく、呼吸が荒くなるのを感じる。

大きな路地に出て人通りも多くなったところで彼女の手を離し、

危険がなくなったことを伝える。

彼女の肩はこわばっていたので、持っていた上着をそっとかけて言った。


「君を守りたい、だからこれからも傍にいる。」


俺の印象に反したのか、彼女はに一瞬にやけたが、その後真剣な目で


「うん、守って」


と優しく微笑んだ。そこからはよくあるルート。

カフェや映画館、いくつかのデートを重ねて彼女は恋人の楽しさを

十分理解しただろう。そうなれば俺は次の任務にいかなければならない。


「転校することになった。だから別れよう。」

カフェの中で落ち着いたトーンで話し始めたのだが

星野には失恋という初めての事実を受け止められるほどまだ経験値はなかった。

本当の恋人なら俺は彼女を追いかけていかなければならない。

しかし、ここらでこの恋も潮時だろう。


彼女は一度恋することを知った。


だから数か月すれば彼女はまた新しい恋人と楽しい日々を過ごすだろう。


人のぬくもりを知った人間はそれを求め続ける。


そうやって今までやってきたんだ。

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