第8話 犯人の逮捕と曳地一家の悲しみ

丹野をはじめとしたならず者たちは、里美を監禁して暴行する以外にも悪事を働いていた。


21日、監禁していた里美を車のトランクに入れて知人宅に向かう途中立ち寄ったコンビニで商品を万引き。

なおかつ、店で高橋ら一味の女に声をかけた男性二人を集団で暴行して金を巻き上げているし、その日の夜には目が合ったという理由で男性に因縁をつけてカツアゲしている。


22日には平間と伊藤の所属する暴力団の忘年会に丹野と猪坂、兼田も平間に連れられて参加。

ゆくゆくは正式な組員となる準構成員として、組長はじめ他の組員一同に紹介するためだった。

その帰り道にも、平間以外の四人は通行人を殴って現金を脅し取っていたから、どこまでもクズい連中だ。


里美を殺して山に捨ててから間もない12月31日、今度は平間と丹野をはじめとした男たち五人が仙台市内のファッションビルで男性五人を暴行、またもやカツアゲだ。


だが、これが悪運のツキとなる。

いつまでもこんな悪事を続けられるほど、仙台市は無法地帯ではない。

彼らは連続して恐喝や傷害を行うグループとしてすでに警察にマークされていたのだ。

ファッションビルでの暴行事件の時に兼田が現行犯逮捕され、年が明けた1月には平間、伊藤、丹野及び猪坂も逮捕された。


そしてそのころ、里美を必死に探す両親は娘の交友関係の中から大場の存在を突き止めて、何か情報を知っているのかもしれないと警察に情報提供していた。

警察も大場を里美の失踪に関係があるとにらんで調べを進めていたところ、現在傷害容疑で拘留中の平間たちとの交友があることが判明。

曳地里美のことを拘留中の男たちに問い詰めたところ、あっさりと死体を焼いて捨てたことを供述した者がいた。


何と親分格で暴力団員である平間だ。


どうせバレるなら真っ先に供述して刑を軽くしようと考えたらしいが、当初のうちは「事務所で女が死んでいたので、処理に困って燃やして捨てた」と自分で殺したわけではないと言っていたから往生際の悪い奴だ。

あろうことか子分を真っ先に売るんだから、ヤクザとしても褒められたものではない。


平間を同行させて山を捜索したところ、供述通り白骨化した死体を発見。

両親から里美が生まれた時のへその緒を取り寄せてDNA鑑定した結果、その死体は曳地里美の変わり果てた姿だと断定される。

何とか無事にと祈って来た両親の願いは絶たれてしまったのだ。


その後、仲間の大場が連れてきた女を皆で暴行して死なせたと平間が白状し、2月5日に大場を逮捕。

残りの高橋と赤塚も逮捕される。

ちなみに、他のメンバーがすべて犯行を自供した中で、大場だけは最後まで否認し続けたばかりか、里美を監禁・暴行して殺した本当の理由もあいまいなままであった。


変わり果てた里美と悲しみの対面をした両親は遺体を次女や三女、他の親族にも見せず、そのまま火葬せざるを得なかった。

焼かれて白骨化したあまりにもむごい姿だったからだ。

最後のお別れの時には、里美が一番大切にしていたぬいぐるみを棺の顔の部分に置いていた。


命日となった12月24日は曳地家の人々にとって一生涯悲しみの日となってしまった。

両親はもちろんのこと、姉のことを慕っていた二人の妹たちへの影響は甚大なものであったことであろう。

これから先が長い二人は二度とクリスマスイブで楽しい気分にはなれないであろうからだ。


しかもこの時、次女は大学受験を控え、三女は高校受験を控えていたのだ。

一番下の中学三年生の三女などは大好きな姉が無言の帰宅をした翌日が高校の推薦入試の面接日。

面接で「家族構成は?」と聞かれた三女は「父と母と…」の後に絶句し、その後に来るべき「姉」の一人がもういなくなったことを思い出さずにはいられなくなり泣き出してしまった。

三女はのちに死んだ姉と同い年になって成人式を迎えた際、姉がついに袖を通すことがなかった晴れ着を着て臨んだという。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る