第7話 クリスマスイブの非業の死
手錠が痛い、だれか外して…。
体中も痛い、苦しい、寒い…、どうしてこんなひどいことを…?
だれか助けて…お願い…。
おとうさん…、おかあさん…!
22日深夜、仙台市内に路駐した丹野の車のトランクの中で後ろ手錠をはめられて監禁されていた里美は寒さに震え、リンチで受けた傷の痛みに苦しみ、嘆き悲しんで涙を流していた。
丹野たちは居酒屋へ行っており、トランクの中から里美を引っ張り出したのは午前3時。
宮城県北部の知り合いのアパートから帰ってくるまで、ずっと寒い中トランクの中に放置していたのだ。
それにもかかわらず、この日丹野と大場は「トランクの中で反省してろって言ったのに寝てやがった」とか意味の分からない因縁をつけて里美を殴っている。
里美への暴行はより相変わらず残虐だった。
特に女の命である顔に同じ女の大場は殴るだけではなく根性焼きを何度もしており、特に額は頭蓋骨が焦げるほどであったことが後の司法解剖で分かっている。
もはや死んでもおかしくないだけの打撃も顔に食らっており、もはや元の顔が想像できないほど変形していた。
23日午前には大場と高橋が成人式に備えてずっと伸ばしてきた里美の髪を短く刈っている。
顔もほぼ毎日殴って回復可能なほど破壊して表を歩けない姿にされているから、もう成人式どころではない。
それどころかもう生命の危険すらあった。
それなのに、この鬼たちはまだ満足していなかったのだ。
同日午前11時ごろ、髪の毛を切った里美を組事務所に残し、大場は高橋、猪坂とともに丹野の運転する車で保護司との面談に向かう。
前年に丹野と犯した窃盗事件で2年間の保護観察処分を受けていたためだ。
やがて面談を終えて車で待っていた丹野たちのもとに戻る大場の機嫌は最悪になっていた。
保護司に何かムカつくことを言われたらしい。
このむしゃくしゃは里美のやろうをいじめて晴らしてやる。
車に乗ると、仲間に「さっき警察が来ててさ、『お前ヒト監禁して殴ってるだろ?』って逮捕状見せられたから逃げてきたよ」と、愚にもつかない嘘八百を並べ始めた。
里美が通報したと、皆に思わせようとしているのだ。
「なにい?ふざけやがって!めちゃくちゃにしてやる!!」
丹野たちはろくに疑いもせずに怒り出す。
午後17時、里美を監禁している組事務所に戻ると「平間さんにも逮捕状が出てるみたいだぜ」などとここでも嘘をついて余計に皆をあおる。
そして「テメー事務所の電話使って通報しただろ!」と、里美を囲んですごんだ。
「そんなことしてません!何もしてないです!!」
涙ながらに訴えたが、意に介さず拳や灰皿で殴りつけ、ほっぺたをカッターで縦に刻む。
さらに暴行により血を流し続ける口にティッシュペーパーを入れて火をつけて、悶絶する彼女を見て笑い転げた。
暴行はいつも通りねちっこく容赦なく、数時間も続いたがこれで終わりではない。
翌24日の午前1時、弱い者いじめが大好きな平間は、これまでの暴行で青息吐息で横たわる里美をたたき起こして正座させると「テメー通報したろう。埋めるぞ!」と木刀を突き付け、風俗店に勤めるように要求。
誓約書や借用書を書かせた後、丹野、猪坂、兼田、大場、高橋、赤塚も加わって再びリンチを始めた。
無抵抗の女の顔に拳を叩き込み、蹴り上げ、壁に頭を打ちつけ、あちこちに血が飛ぶ。
「…痛いです。もうやめてください…。いっそのこと殺してください」
里美は泣きながら弱々しい声で哀願したが、暴行は断続的に午前8時まで続いた。
これが、最後の暴行となった。
この日の午後3時の組事務所、里美の様子がおかしいことに平間が気づき、他のメンバーを集める。
すでにピクリとも動かず、鼻の上にティッシュペーパーを置いても反応がない。
里美は楽しみにしていたクリスマスイブの日に、20年というあまりに短い人生を絶たれていたのだ。
そして、その日受け取るはずだった晴れ着を着て、成人式に参加することもかなわなくなった。
何の落ち度もない善良な少女の夢と命を無残に奪っておきながら、この人でなしたちは強がりだったのかもしれないが、笑みさえ浮かべながらこう言い合っていた。
「あっけねえ、もう死んだのかよ」
「自業自得だぜ」
「こんな奴、死んだって誰も悲しまねえべ」
「でも、死体どうにかしなきゃな。ダリいな」
平間はいったん用事があって事務所を後にし、丹野と大場も里美の死体を残したまま外出して、ゲーム機を買って戻ってきた。
そして、平間を除く七人はそのゲーム機に興じ、その間に里美の死体にサングラスをかけるなどして笑い合っていた。
午後10時に平間が戻った後、改めて遺体をどうするか相談が始まる。
薬品で溶かすとか海に捨てるとかの意見が出たが、結局事務所のあるマンション近くの山の中で燃やそうということになった。
男たちばかり五人は車二台に分乗して死体を積んでその山に向かい、途中で灯油を購入。
すでに雪が積もった山の中で死体に灯油をかけて火をつけたが、なかなか思ったように焼けない。
「しぶといな。もっと燃えろよ」
などと、平間は木の棒でつついたりして死体をもてあそび、あらかた燃えて火が消えた後は焼け焦げた死体を引きずって斜面から投げ落とした。
「ここらはもうすぐもっと雪が積もるから、春まではバレねえべ」
などと言って現場を後にした。
帰りの車中でも里美の追悼と称してアニメ番組の主題歌の替え歌を歌ってふざけ合い、全く反省の色はない。
一方、事務所で留守番をしていた女性陣のうち高橋と赤塚は飛び散った血痕のふき取りにいそしんでいたが、大場は寝転がってふんぞりかえっていた。
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