第6話 両親の捜索

里美の両親は、愛娘がむごい目にあっているとは思ってもいなかった。


18日、家族そろって夕食の席についた娘は特に変わった様子はなかったどころか、24日には晴れ着が受け取れるだの彼氏が指輪をプレゼントしてくれるだの母親にウキウキして話しかけていたくらい幸せいっぱいだったのに姿を消した。


19日深夜に大場に呼び出されて家を出た里美は、玄関の鍵を開けっぱなしにしていたようだ。

その日の朝に起床した両親は閉めたはずの玄関の鍵が開いていることを不審に思い、朝食の席にも里美は降りてこなかった。

しかし、二階の自室で寝ているんだろうと思い、この時点では失踪したとはつゆほども考えていなかったという。

彼女は昼前まで寝ていることが多かったからだ。


その後、部屋にもおらず、どこへ行ったか分からなくなったことにようやく家族の者が気づく。

今日はバイトがあるはずだし、何の連絡もないのはどう考えてもおかしい。

心配した母親が同日18時に里美の携帯電話に電話したところ里美本人が出た。

この時は、まだ携帯電話を破壊されておらず、里美はこう話した。


「今、西公園(仙台市青葉区)のとこにいる。レディースにからまれて殴られちゃってね。バイト先には休むと連絡しといたけど」


これは大場たちに言いつけられた通りのことだ。

もちろん近くに連中がいて、余計なことを言わせないよう聞き耳を立てていたのは言うまでもない。


「え?どういうこと?」

「また後でかけなおすね」


そう言って電話が切れた。


ただ事ではないと感じた母親がその後、数分おきにかけたが一向につながらない。

この時、初めて娘の身に不測の事態が起きたことを曳地家の人々は知ったのだ。


その二時間後の20時、今度は母親の携帯に里美から電話が入って、以下のような会話がなされた。


「今も西公園の先輩の所にいるんだけど、先輩のおかげで助かった。今顔を冷やしてもらっているところ」

「どういうことなの?あと、さっき言ってたレディースって何なの?」

「…」

「とにかく早く帰っておいで。被害届けも出さなきゃ。顔は大丈夫なの?電車で帰れる?」

「大丈夫。帰れるよ」

「電車でモール(仙台市の商業施設)まで来なさい。迎えに行くから」

「わかった」

「着いたら電話するんだよ」


母親はそう伝えると電話を切った。

とりあえず、先輩とかいう人物に介抱されていることはわかった。

それを聞いた父親は「とりあえず、明美からの電話を待とう」と言って夜勤に向かった。


そして、これが里美の声を聞いた最後となる。


父親は、職場に着いてからもやはり心配だったので、何度も電話を掛けたがつながらない。

家に電話しても、娘からの電話はまだ来ないという。


翌20日から、異常事態の発生を確信した両親はじめ家族の者は里美の友達に連絡するなどして、血眼になって娘の行方を捜し始めた。

「西公園の」という線からもその近くに住む娘の知人を捜したが、さっぱり見当がつかない。


この時点で曳地家の人々も多くの友人たちも、娘が大場という女との付き合いがあったことを知らなかったため、犯行グループに近づくことができなかった。


突然の家出は考えられない。

彼女は非常にまじめな性格で、親に迷惑をかけることをこれまでしたことがなかったし、前日までクリスマスイブを心待ちにしてあんなに楽しそうにしていたのだ。


失踪から五日目の12月23日、行方に関して何ら手掛かりが得られず、ひょっこり帰ってくるのではという望みも薄くなりつつあったため警察署に捜索願を出した。

警察も「レディースにからまれた」という話や、五日間も連絡がないことから、事件性が高いと判断して捜査に乗り出す。


その後、曳地家の人々は友人知人関係のみならず、近所で独自に聞き込みを行い、親戚一同や里美の彼氏も加わって総がかりで行方を捜したが手がかりはつかめない。

やがて彼女が晴れ着を受け取るはずだったクリスマスイブが過ぎ、正月が過ぎ、彼女が出席するはずだった成人式も過ぎた。


里美の行方は全く分からない。


両親は藁にもすがる思いで霊能力者にまで霊視を依頼して娘の行方を必死に探し続けた。

霊能者は霊視により「悪い者たちに監禁されている」、「犯行グループには女が三人混じっている」、「宮城県内にいる」などは的中させていた。


だがしょせん、そういう胡散臭い連中は信用できない。

一番肝心の里美の安否についての霊視が間違っていたからだ。

「怪我は治っており、無事でいる」と「一週間後くらいに連絡があり、無事に帰ってくる」の二つである。


里美は連日の虐待でむごい有様にされて、家族が捜索願を提出した翌日には命を絶たれていたのだ。


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