第4話 暴力団事務所で始まった暴行

丹野と大場の車に同乗して仙台市内に入った里美はあるマンションに連れていかれたのだが、もちろん初めての場所である。


大場さんの友達か誰かのお家かな?

そう思って部屋に入った里美は凍り付いた。


中には平間竜治、伊藤大治、高橋恵、兼田亮一、猪坂衛、赤塚幸恵の六人のガラが悪そうな男女がおり、部屋は住居ではなくオフィスであるがどう見ても堅気の会社ではなさそうである。

何より六人に囲まれて、顔を腫らした男が正座させられているではないか!


「てめえも正座すんだよ!」と大場がいきなり豹変して里美を怒鳴った。

その剣幕と周りの雰囲気に怯えて正座した里美を大場は指さして「コイツだよ、これからヤキ入れんの」とか物騒なことを言い始めてから、ドスを聞かせて話を切り出す。


「おめえよう、約束破ったべが」

「え…、約束って…何か、しましたっけ?」

「ボケてんじゃねえ!」


大場はいきなり拳骨で里美の顔にパンチを見舞った。

いきなり殴られた里美が呆然とする間もなく、大場は怒鳴りつけ、拳を打ち下ろし、ペットボトルで頭を連打してくる。

「何とか言えよ!」と今度は男に背中を蹴られた。

さっきここまで車を運転してきた丹野だ。

さらに髪の毛をつかまれて大場とは比べものにならない男の力で顔を殴られた。


「オラ顔上げろよ!」「立てよ!泣いてんじゃねえ!」「そのツラでウリしてんじゃねえ!」と周りにいた六人も代わる代わる罵声を浴びせながら殴る蹴るの暴行を加えてくる。

生まれて初めて手ひどい暴力を、それも集団から加えられた里美はなぜこんな目に遭うか理解が追い付かず、恐怖と痛みでただ泣きながら頭を抱えてされるがままだ。


「テメーなんか殺すのどうってこたねえんだよ」と一味の中で一番偉そうにしている肥った男が木刀を突き付けてきた。

現役暴力団組員の平間である。

平間は里美の髪の毛をつかんで外へ引っ張り出すと、非常階段の所から落とそうとすらした。

「ああああ!!やめてくださいいいい!!!」と里美が泣き叫ぶ声がマンションに響き渡ったので、「兄さん、まずいまずい。中、中!」と弟分の伊藤が制止して再び組事務所に里美を引っ張り込んだ。

平間は弱者には威勢がよいヤクザで、相手が女性であるにもかかわらず「暴力ってのはこうすんだ」というお手本を皆に見せつけたのである。

ちなみに平間は「ヤクザだけど大したことない奴」と街の若者には陰口をたたかれてた程度のゴミだった。


「ウリなんてやってません!何もしてないで…ゴホ!うう~信じて…いたい!!ゲボ!!ぎゃっ!!」と援助交際をしていたことを否定する里美は殴る蹴るのリンチを受け続ける。


「ごめんなさい…、ウリをやってました…。もうしないので殴らないでください、許してください」


一時間後、容赦ない暴行に耐えかねた里美は涙と血で顔をぐちゃぐちゃにしてやってもいない援助交際を認め、手をついて謝っていた。

悪くもないのに。


大場の願いはかなった。

ムカついた奴をウソをついてまで呼び出して思う存分ボコボコにし、ビッチであることを認めさせたばかりか土下座までさせたんだから十分だろう。


だが、問題があった。

里美はこの暴行で左目と左頬が大きく腫れ、暴行されたのが明白な有様になっている。

これでは警察に通報されてしまうではないか。

たとえ本人がしなくても親がする。

里美の家はちゃんとした家庭で、娘がこんな目に遭わされたら黙っているわけがない。


絶対にこのまま家に帰してはダメだ。

「お前、顔の腫れが引くまで帰るな!ここにいろ!」と命じた。


里美のバイト先のファミレスに電話させることも忘れていなかった。

無断欠勤を怪しんだそこから警察に知らされる可能性もあるのだ。

里美に電話をかけさせて今日休むことを伝えさせ、その理由として「階段で転んでけがをした」と言わせていた。

電話を受けた責任者は「まずは病院に行って、診察が終わったら連絡してね」と伝えていたが、その後連絡が一切ないので心配していたという。


こうして始まった監禁生活は当初「顔の腫れが引くまで」という期限付きだったのだが、その期限はズルズル引き延ばされ、里美が命を落として終わることになる。

なぜなら、これより後に顔の腫れがますますひどくなり、取り返しがつかなくなるまで暴行し続けるようになるからだ。


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