第5話 三人のゾンビ

飛鳥ちゃんが言った。


「まずはあたしから話そうか。私がゾンビになったのは一か月くらい前。ゾンビになってから他のゾンビに話してもグワーッとかグオーッとか音は発するけど本能に従って動いているようにしか見えなかった。」

「ゾンビになる前のことも教えてよ。」

と紀伊ちゃん。

「ゾンビになる前ね、私はここ、南街に住んでたよ。アニメや漫画関係のお店がたくさんあったからよく通ってたなあ。」

「そうなんかぁ。私は北街によく行ってたから、南街の事はよくわからんわ。」


 ここで私から二人が話している北街南街なんだけど、都会の北、サブカルの南なんて呼ばれ方してた。派手めな紀伊ちゃんは北街に行ってるのはイメージ通りだ。

私は南街派だ。


「二人とも南街の人間だったんだ。」

「「だね。」」


「次はあたしか。あたしは二週間前かな、ゾンビになったのは。なんでなったかは未だに分かんないけど、まあいつの間にかゾンビになってて。そんで、二日後ぐらいに他のゾンビに追っかけられてるところで飛鳥に出会った。」

「ゾンビがほかのゾンビに追いかけられることあるの…?」

私はゾンビがゾンビを追っかけるのが全然想像できない。

「そそ、それからかな。二人で生活するようになって、人の家に入って喰らうようになった。喰らうってよりは血を吸うって言い方のほうが正しいな。」

「なるほど。」


「そして、最後に私だね。ああ恥ずかしい。私がゾンビに見つかった理由は…。」

「くしゃみしたからでしょ!」

紀伊ちゃんがケタケタ笑っている。

「笑うな!一生懸命くしゃみ抑えてたんだもん!」

「知ってるよ!私が部屋から離れたすぐ後に大きなくしゃみ聞こえたもん!」

「うぐぐ、あれさえ抑えきれてたら…。」

「でも、苦しくない…?」

心配そうな飛鳥ちゃん。

「だって、ずっと止まってなかったから。」

「気づいてたの!?」

「うん、一生懸命抑えてるからちょっと躊躇しちゃったの。」

「飛鳥、躊躇してたの?ウケる!」

またしてもケタケタ笑う紀伊ちゃん。


「両親もゾンビに襲われたみたいだし、結局八方塞がりだった気もする。そう考えると、話せる二人でよかったのかな。」


なんて言ってみたけど、涙が出てきちゃう。もっと人間としてやりたかったこと、友達との日常、修学旅行。将来の夢だってあるんだから。後悔がないわけないじゃないか。


「うちらも悪いと思ってる、けど…、私たちも生きないといけなかった。誤って許されないことだけど…。」

「一日猶予を作ることが私たちが出来る罪滅ぼしだった。」


二人は俯いて、小さな声で言った。


「「私たちをどうか気のすむまで殴ってくれ。」」

「そんなことはしないよ。食べないと生きていけないんだから、仕方ないよ。」

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