第11話~精霊との決戦へ~
昼食を済ませた一行は、森の最深部に向かって歩き始めた。緑の葉が生い茂り、木漏れ日がキラキラと舞い降りる中、鳥のさえずりが耳に心地よく響く。
ミーナは、オルエスにこのレムリア大陸に住む種族について説明しながら歩く。
「この大陸には、オルエスのようなヒューマン族だけじゃなく、狐耳を持つフォークス族や、ドラゴンのような尻尾を持つ竜人族もいるのよ」とミーナが言った。
オルエスは驚いたように目を見開いた。「そんな種族がいるなんて知らなかった…」
「それもそのはずね。ヒューマン族以外の種族は、小さな集落に住んでいることが多いわ。都会で見かけることはあまりないのよ。だから、ヒューマン族の中には彼らの存在を知らない人も多い。あんたもその一人よ。」
オルエスは頷き、深く考え込むように前を見つめた。未知の世界が広がっていることに胸が高鳴るのを感じながら、彼は一行と共に深い森の奥へと足を進めた。
「ふ~ん、じゃあミーナさんは何族なんですか?」
メルシアが会話に入ってくる。
「そうねえ、時期が来たら話すわ。メルシアちゃんたちに話すのはまだ早いわね」
メルシアの頭をポンポンと軽くたたいてミーナは話をはぐらかす。
「もぉ、ミーナさんっては肝心なことを話してくれないんだから」メルシアが頬を膨らませていると
「ごめんごめん、時期が来たら色々話すからさ、今は勘弁してしてくれないかな」
「本当ですか?約束ですよ」
「うん、もちろんよ」
やがて一行は森の目的にたどり着く。そこはひときわ大きな木が一本立っており、木そのものが森の主の様に見える。
「ここね、目的地は。精霊が暴走しているわ、苦しそう・・」
「ミーナは精霊が見えるからいいが、俺たちは何も見えない。魔力の乱れをたどることぐらいはできるがね」
「精霊が見えなくて、そんな芸当ができるのはガイゼンだけよ。ちょっと待ってて。」
そういうとミーナは両手を前に出す。先端から青白い光出たかと思うと瞬く間に大きくなり、魔法陣が現れた。ミーナがその魔法陣を木に向かって押し出すと、木の幹にぼうっと白い影が現れ、少しずつ形が作られる。
「あれが、精霊なの。はじめて見たわ」
「レミアが見ていたのもこんな感じだったのかな」
「二人とも驚いているところ悪いけれど、構えて、来るわよ」
精霊はオルエスに狙いを定め、一瞬の隙をついて猛然と突進してくる。オルエスはひらりとかわし、素早く剣を振るうが、精霊も俊敏に身をひるがえし、右手を剣状に変形させて反撃する。鋭い一撃がオルエスに迫る。
その瞬間、メルシアが背後から疾風のように現れ、回し蹴りで精霊の足元を狙う。
精霊のバランスが崩れる一瞬の隙を見逃さず、オルエスは剣を精霊の脳天に振り下ろし、見事なクリーンヒットを決める。精霊はふらつきながら怒りに燃え、無数の火の玉を四方に乱射する。
精霊の背後にいたメルシアが、精霊の首元に腕を回し締め付ける。だが、精霊は蛇のように姿を変え、メルシアの腕からすり抜ける。舌をチロチロと出しながら、
再びメルシアに向かってくる精霊。
その時、ガイゼンが前に出て、「アークウォール!」と叫び、魔法の防御壁を発動させる。半円球状のシールドが地面から浮かび上がり、精霊を包み込むように囲む。精霊の突進はガイゼンのアークウォールによって完全に封じ込められ、状況は一気に逆転する。
「アークウォールで逆に精霊を取り押さえるなんてやるわね」
アークウォールに閉じ込められた精霊は、必死に形を変え、脱出を試みた。炎を吐き出し、風を巻き起こすが、全ての試みは無駄に終わる。精霊は慌てふためきながら動き回り、その動きは次第に鈍くなっていった。
ガイゼンがアークウォールを解除すると、皆で精霊を取り囲んだ。精霊は最後の抵抗として火の玉を発射したが、その火の玉は力なくしぼみ、すぐに消えてしまった。
「魔力切れね。おそらく帝国は魔力増幅か何かの実験を行ったのね。その結果、魔力が暴走し森がおかしくなったと思うわ」
ミーナの推理にオルエスが疑問を挟む
「ミーナさん、そういえば先ほど精霊を見ることができるのは珍しいという話だったけど帝国の連中はどうやって精霊が見えたんですか?」
「そんなこと知らないわよ。魔道具を使ったか精霊が見える魔法使いを連れてきたんでしょうけど。とりあえず片付いたから帰りましょ。」
ミーナは踵を返し来た道を引き返す。
「ミーナ、今回の件はありがとう。助かったよ。俺じゃ精霊の位置を認識は出来ないからな。」
「どういたしまして。ねえ、ガイゼンはこれからどうするの?ルーシア卿のところに引っ込んでる?」
挑発するような笑みをミーナはガイゼンに向ける。
「俺の手が必要か?今回の件の礼もあるしな」
「話が早くて助かるわ。今回の精霊の暴走の件、帝国の実験が原因でしょうけれど何でそんな実験をしたのか、最終目的は何なのかが気になるの。なんか嫌な予感がするわ。クレアのやつ何考えているのかしら?」
クレアはパルスター帝国の皇后だ。表向きは皇帝ドンメルが最高権力者だが、裏ではクレアが実権を握っているという噂がある。ミーナは口に出したことはないが、時々クレアの悪口を言っていることから、彼女と知り合いかもしれないとオルエスは思っている。しかし、それを口にすれば、ボコボコにされそうなので黙っている。
「道具を使って魔法を使えるようになると魔力が弱い者でも強力な魔法を撃てるようになるだろうな。そうそう北の森について調査しているときに、気になる情報が情報通から手に入った」
ガイゼンはそう言って、ミーナをオルエスたちから少し離れたところに連れて行った。
「それってソフィアのこと?」
「ご名答。彼女の情報によるとヤマ地区でのルナーリーフの取引が活発になっているらしい」
「ふ~ん、ヤマ地区って国で治安最悪の場所でしょ」
ルナーリーフは帝国内で裏取引されている麻薬で、幻覚作用があり、摂取すると美しい世界が見える。しかし、薬が切れると現実に戻され、その落差から現実逃避してしまう。ヤマ地区では特に蔓延がひどく、無気力になった人々が仕事を辞め、ルナーリーフを手に入れるために犯罪に走ることも少なくない。
「人体実験するためならうってつけの地区ね」
オルエスたちの次の目的地が決まった。
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