第8話~特訓~

「始めるわよ!オルエス!」


ミーナの大声と共にオルエスの特訓が始まる。


北の森に行くまで一か月、オルエスはミーナにみっちりとしごかれることになった。素振りの練習、閉所での戦い方、人体の急所についてなど実技・座学と朝から晩まで講義は続く。特に剣でしか戦ったことのないオルエスにとって短刀を使った戦い方は新鮮だった。狭いところで剣のように長いものは壁や天井にぶつかって思うようには扱えないことを今日の手合わせで思い知らされる。


「はあっ!」


オルエスが剣を振り回すと天井に剣がぶつかってしまい振り下ろせない。


「胴ががら空きよ!」


ミーナの木造の短刀がオルエスの腹に直撃し、そのまま崩れ落ちる。

以前ミーナから教わった急所の位置だ。


「さっさと起きなさい!寝ていいのはベッドの上だけよ!」


ミーナに顔を張り倒されてオルエスは意識を取り戻す。

部屋の様子に聞き耳を立てていたメルシアは


「ちょっと私も戦ってくるわ!」


とミーナたちのところに向かっていった。


「たのもうー!」


威勢よくメルシアが扉を開けてミーナのところに向かっていく。


「元気がいい子は好きよ!二人まとめて教えてあげるわ」


メルシアは体術を使ってミーナに攻撃をする。回し蹴りやパンチを繰り出すが

ミーナにひょいひょい躱されてしまう。

焦ったメルシアが突進すると、ミーナはフッと手のひらを横にして軽く腕を

横にする。メルシアの動線上の先におかれたミーナの手刀にメルシアの

首元に激突する。メルシアはその場で崩れ落ち息も絶え絶えになる。


「いいメルシアちゃん、相手の動きの先を読めるようになるとと今のようなことも可能なのよ」


息を整えたメルシアは渾身のストレートをミーナにぶつける。

ミーナは躱しもせずメルシアのパンチを受けるが涼しい顔をしていた。

日が暮れるころオルエスもメルシアも体中があざだらけになっていた。


「今日はこれくらいにしましょう。明日は座学が中心よ!もちろんメルシアちゃんもやるでしょう?私の講義は途中退場は禁止よ♡」


メルシアは講義と聞いてがっかりしたようなそぶりを見せた。座学はあまり好きではないようだ。その日の夜、オルエスが就寝しようとしているとミーナに呼び止められた。


「オルエス、こっち来なさい、今日は疲れたでしょ。マッサージを教えるわ」


ミーナの言うとおりにオルエスはうつ伏せになると、ミーナはオルエスの側面に立ちマッサージを始めた。


「疲労は出来るだけ早めに取ることは大切よ。特に戦いが長丁場になると

疲労の蓄積は命取りよ」


そういってミーナはオルエスの太ももや腕などをよく揉んでいく。ちょうどいい刺激とミーナから漂うほのかな甘い香りにオルエスはだんだんとリラックスしていき眠りにつく。


「そうそう、マッサージにはけがの予防やリラックス効果もあるから覚えておくといいわ」


そういってミーナのマッサージが終了する。


「さておしまい。じゃあ今度はオルエス自分でやってみなさい。あら寝ちゃってるし」


ミーナは眠っているオルエスを軽々と持ち上げると隣のベッドに運んでいき掛け布団をかけてあげる。


「あら、疲れて眠っちゃっても男の子なのね。体はまだ元気みたいね。夢の中でレミアちゃんとイチャイチャでもしているのかしら」


夜中にふとオルエスが目を覚ますとまだ明かりがついていた。あかりの先にはミーナが椅子に座って何やら呟いている。


「メルシアちゃんの課題はやはりパワー不足ね。私に勝つために蹴りや搦手をを使ったりと勝利への執念はすごいけど、もう少しパワーが欲しいわ。ボディブローをあえて受けてみたけれど重みがなさすぎるわ。

オルエスの剣は単純すぎなのが問題ね。もう少し頭を使った戦い方をしてほしいわ。どうしようかなぁ。明日ガイゼンにプランについて相談かなあ」


ミーナは今日の訓練の結果をノートにまとめ課題を見つけメニューを考えていた。

翌朝ミーナは早朝にガイゼンと相談をして新しいやり方を決めた。

朝食後、オルエスとメルシアは剣を使った様々な戦い方をミーナから

講義を受けていた。


「メルシアちゃん。ちょっと剣を合わせてみようか」


そういってミーナはメルシアの剣を合わせる。まずミーナが見本を見せる。ミーナが軽く剣を動かすとメルシアは思いっきりバランスを崩す。


「てこの原理って奴ね。小さな力で大きな効果を生むわ。じゃあやってみよう」


メルシアは何度か挑戦したのち、ミーナのバランスを崩すことに成功した。


「メルシアちゃん。いい感じよ。」


続いてオルエスに対して場面が移る。


「先ほど教えたとおりに砂煙を巻き上げてみて」


そういってミーナはオルエスに突進をする。オルエスは何回か失敗してミーナに一太刀を浴びるが、とうとうタイミングを見つけミーナの視界を奪うことに成功し、がら空きになったミーナの胴に突きを浴びせる。ミーナは一瞬、苦痛の表情をするがすぐに涼しい顔に戻り


「オルエス、今の感じよ覚えなさいね」


ミーナとの特訓はまだまだ続いていく。

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