第7話~ルーシア邸に到着~

「ただいま戻りました、ルーシア卿」

「お父様、帰りが遅くなりごめんなさい」


ガイゼンとメルシアがそれぞれ挨拶をする。


「こうやって無事に帰ってきてくれて何よりだよ、ガイゼン殿とカイン。」

カイン?オルエスが疑問が浮かんだが会話は続けられる。

「ところでガイゼン殿、後ろの方々はどなたかな?」


ルーシア卿に促されてあわててガイゼンがオルエスたちの紹介を始める。


「紹介が遅くなり申し訳ありません。女性の方はミーナ、少年の方はオルエスと申します。ミーナとは旧知の仲でありまして今回の件について協力してくれる頼もしい方です」

「挨拶が遅れました、初めしてルーシア卿。ミーナと申します。この度は古い友人であるガイゼンの助太刀に参りました。以後お見知りおきを。」

とさらりとカーテシーをする。


「オルエスです。ウライン村から来ました。よろしくお願いいたします。あのところで先ほどカインと呼んだ方は?」


思わずミーナは吹き出す。


「こら、カイン、そしてメルシア!お前たちはまた入れ替わっていたのか!」


ルーシア卿がオルエスが先ほどまでメルシアと思っていた方を𠮟りつける。

その声を聴いて今度は本物のメルシアが登場する。瓜二つの二人にオルエスの頭の中は混乱する。


「オルエス君、申し訳ない。カインとメルシアは双子でありまして、時々服を取り換えて入れ替わってしまうんです。」


ルーシア卿は申し訳なさそうにオルエスに説明する。


「でも、ミーナさんにはすぐにバレてしまった様な気がしました」

「最初に違和感を感じたのはルーアの酒場で出会ったときね。その時は何かちぐはぐな感じがしたぐらいだったわ。だから宿で部屋割りするときに相部屋にしたの。そこでようやく分かったの。この子、女の子の格好しているんだって。まさか双子だったとは思わなかったけど」

「ん、待てよ。じゃあ俺だけが何も知らなかったのか?」


ミーナはオルエスの肩をポンと叩き


「そういうことになるわ、少年」

「あ~カイン、お帰り。生きて帰ってこれのね。急に外に行きたいなんて言うからびっくりしちゃったわよ」


オルエスの目の前にカインと瓜二つの少女が現れた。


「ちなみにこちらが本物のメルシアです。オルエス君」


ルーシア卿がメルシアを紹介する。


「はじめましてメルシアです。以後お見知りおき」


メルシアは明るくはきはきとした声で挨拶をする。


「なるほど、ガイゼンさんのお知り合いなのですね、それは心強いです。でも今日は夜も遅いですし、ごゆるりとお過ごしください。部屋に案内いたしますわ」


オルエスとミーナはメルシアに客室に案内される。


「あなたが本物のメルシアちゃんね。」

「カインがまた私の洋服着ていたんでしょう。まあ私もよくカインの洋服着ているんで何も言えないですけど」


メルシアが苦笑いをする。食事の用意が整うまでオルエス達は客間で談笑をした。

食事にしろお皿にしろオルエスは見たこともないような豪華できれいだった。

食事が始めるとオルエスは怒涛の如く食べ始める。


「はぁ、オルエスにはテーブルマナーも教えなきゃならないわね」


ミーナがあきれるようにオルエスを見つめる。


「オルエスさん、カトラリーは外側から使うものなんですよ」


メルシアがオルエスの食事の様子を見ながらテーブルマナーのアドバイスをする。


「カトラリー?」


頭に疑問符がついたオルエスに


「カトラリーって言うのはフォークやナイフのことよ。いい、こういうのは外側から使うのよ。料理の順番もそれに合わせてくるのよ。覚えておきなさい。のちのち役に立つわよ。まあ、でも今回はしょうがないわ。

でもルーシア邸にいる間に一つでも覚えておきなさい。」


ミーナにたしなめられてオルエスは少し恥ずかしそうに、「はい」と返事をする。


「ところでメルシアちゃんだっけ。どうしてカイン君と入れ替わったりするの。無理して言わなくてもいいけど、もしよかったら教えてくれない?」


ミーナがメルシアにド直球の質問をする。


「別にいいですよ。隠す必要な理由でもないですし。」


メルシアがあっけらかんと話を始める。


「ルーシア家では代々、最初に生まれた子が領主になる決まりです。私たちは双子だけど、私の方がちょっと早かったからお姉ちゃん。だから将来、領主になるのは私です。」


世間一般のしきたりとルーシア家は異なるようだ。


「ただ、やっぱり世間は慣習的に長男が継ぐので、男女による見られ方の違いを知っておきたいんです。それだけです。カインには無茶をやらせてますけど、お姉ちゃん特権ということで」


真剣なまなざしで話すメルシアをうんうんとうなずきながらしっかりとミーナは見つめる。


歓談がしばらく進む。


「ルーシア卿、一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」

食事の終盤、ミーナがかしこまってルーシア卿に願い出る。

「何ですかな?お願いとは?」

「北の森への出発を、ひと月ほど遅らせていただきたく存じます」

「なぜすぐに立たぬのだ?ひと月もの猶予を求めるとは、どういうわけだ?」

「はっ、北の森へは強力な敵が待ち構えております。必要な戦力の規模は、ガイゼンからお聞きしておりますが、オルエスとメルシアがそのレベルに達しておりません。今の状態で二人を連れていけば死ぬかもしれません。」

「オルエスは帝国にさらわれた幼馴染を助けたいという話だったな。メルシアも実戦経験はまだないのが現実。よし分かった。そなたの願いを聞き入れよう。ただし、メルシアをビシビシとしごくように」

「はっ、ありがとうございます」


再び談笑が始まった。

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