第6話~騎士による検問~
「そこの馬車止まれ!」
「これより検問を開始する!」
パルスター帝国の騎士たちである。中には女性騎士もいる。
そのうちの一人にオルエスは見覚えがあった。
いや、はっきりと覚えている。
レミアを連れ去りに来た騎士の一人、デルミアだ。オルエスの怒りがふつふつと湧き出てくる。さりげなくミーナはオルエスの手の上に手を重ねる。
「検問とは珍しいね。失礼を承知で聞くが何があったか教えてもらえないだろうか?」
ガイゼンが一人の騎士に聞く。
「我々は人探しをしている。先日、我々に対して刃を向け逃げた男の行方を追っている。」
騎士はそう言いガイゼンに行方を追っている男の顔の絵が描かれた手配書見せる。オルエスに似ているような似ていないような絵がそこには書かれていた。
「それはそれはご苦労様です。」
ガイゼンが仰々しく頭を下げる。先ほど以上に強くオルエスの手が震えているのをミーナは感じ取っていた。騎士の検問が始まった。騎士は馬車の外から中の様子を見て手配書と見比べていく。しばらくして騎士は宣言する。
「問題なし!いってよ~し!」
御者が馬を走らせようとしたとき馬車の扉が勢いよく開いた。ミーナの制止を振り切って我慢の限界を超えたオルエスが馬車から飛び出る。慌ててミーナも飛び出す。
「てめえ、レミアを返せ!母さんと父さんを返せ!村を返せ!」
オルエスは先ほどミーナから受け取った短刀を引き抜く。
「馬鹿!やめなさい!」
ミーナがオルエスを押さえつける。急な騒ぎにデルミアが近づいてくる。
「ほお、あの時のガキか!ようやく見つけたぞ。あの時はさんざん手こずらせやがってくれたな」
「見つかったのか、反逆者が?」
女性騎士がデルミアに聞く。
「はい、マリー団長。反逆者が見つかりました。残りの連中は反逆者の一味と思われます。」
「よくやった、デルミア小隊長。お尋ね者だけでなく一味まで確保できるとは素晴らしい」
「お褒めにあずかり光栄であります」
デルミアが敬礼をする。そして
「この場で全員切り捨てましょうか?」
デルミアが剣を鞘から抜く。
「ごめんね」
とミーナは呟くとオルエスの首の後ろを手刀でトンと叩く。と同時にオルエスは気を失い崩れ落ちる。ミーナは馬車にオルエスを放り投げた後、剣を抜き一触即発の状態になる。
剣を抜いたミーナを見た他の騎士たちも一斉に剣を抜く。
「全く、もうちょっとだったのに。本当に馬鹿なんだから」
「帝国に刃を向けるとは、子守をしているあんたもなかなかの馬鹿だな。」
「あんたさ、馬鹿っていう方が馬鹿っていうこと知らないの?」
ミーナが子供じみた挑発をする。再び馬車が開きメルシアが勢いよく出てくる。追いかけるようにガイゼンも出る。
「騎士様、お許しください。せめてお話だけでも聞いていただけないでしょうか?」
メルシアはミーナの前に立ち騎士たちに向かって土下座をする。
「うるさい!どけ!」
騎士がメルシアを蹴り飛ばす。
「あうっ!」
と悲鳴を上げメルシアは馬車に叩きつけられて気を失ってしまう。
「いたいけな子に何てことすんのよ!この人でなし!」
ミーナが騎士たちに切りかかる。二人の騎士が応戦するが、一瞬のうちに騎士たちの剣を弾き飛ばされてしまった。
「まだ、殺さないわ。次はどなた?団長さん?相手してあげようか?」
マリーを挑発するミーナにガイゼンが肩を叩く。
「何よ、ガイゼン。いいところなのに~」
「ちょっとマリーとは顔見知りでね。少し話をさせてくれないか?」
ガイゼンはそう言ってマリーの下に近づく。
「正直、失望しました。まさかガイゼン殿が反逆者の一味だったとは!」
「それは申し訳ないことしたね、マリー。あの小僧と出会ったのはつい最近で今はちょいと俺たちの問題を解決するのに力を貸してもらってんだよ」
「どんな問題ですか?」
マリーがガイゼンに質問をする。
「この先にあるルーシア邸には私有地の森があってね。最近森が騒がしいんだ。晴れなのに森の中だけ雨が降ったり、木の枝を鞭のように振り回してきたりしてね。」
マリーはガイゼンの話を腕を組み、自分の左頬に人差し指を当て思案をする。
「その森にいる精霊の仕業でしょうか?フレイヤル魔法騎士団と違って魔法がらみのことは我々は疎い想像ですが。」
「少なくても俺はそう見ている。そもそも、その現象が発生したのは帝国が森の調査をしてからなんだが、マリーは何か聞いていないか?」
とガイゼンが事件前夜について説明をする。
「デルミア隊長!この先にあるルーシア邸の私有地の調査はしましたか?」
マリーに質問にデルミアは直立不動で答える。
「マリー団長、我々は私有地の調査はしておりません。我々の目的は魔女の捜索であります。よってルーシア邸に調査に入ったのはフレイヤル魔法騎士団によるものかと思われます。」
デルミアの報告を受けたマリーは
「フレイヤル魔法騎士団か。全く不愉快な連中だ。しかしアステール騎士団として困っている民を見捨てるわけにはいかない。ガイゼン殿。アステール騎士団団長マリー・エスペランサの名においてガイゼン殿一行の通行を許可いたします。そして内輪の恥で申し訳ありませんがルーシア邸の森の問題の解決をお願いいたします。」
「よろしいのですか、団長」
デルミアが少し驚いたようにマリーに聞く。
「魔法騎士団がやったことに口を出したら色々と面倒くさい。それをガイゼン殿たちが対応してくだされば我々としても助かる。情けないけどな」
マリーはやれやれと感じでため息をつく。
「ふ~ん。じゃあ通してくれるのね?」
とミーナがマリーに質問をする。
「もちろんだ。」
「よかった、よかった。これで安心して通れるわ」
ミーナは大きく腕をあげて伸びをする。
「ミーナといったな」
マリーがミーナに声をかける。
「何かしら?」
「貴公の剣捌きはかなりの腕前と見受けられる。貴公と一度、剣を交えてみたい」
「いいわよ。でももう夕暮れだし、今度会った時にしましょう」
「ああ、約束だぞ」
「ええ、負けて泣いても知らないからね」
とミーナはべぇと舌を出す。
馬車がようやく前に進む。太陽が地平線にかかり、今にも沈むとこだった。
ルーシア邸の近くについたころ、日は完全に暮れていた。
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