ただの高校生だった俺に許嫁ができたので、溺愛してきていた姉と妹と幼馴染を振り払って恋愛します!【第1話】

瑠栄

嵐の前のやかましさ

"ゴッ"


「ってぇ!!!」


 突然走った後頭部の衝撃に、思わず頭を押さえて悶絶する。


"ガチャ"


「おーい、たっくん?だいじょぶそ??」


「っ許嫁は・・・?」


「???」


 俺の姉・白川柚珠しらかわゆず、通称柚珠姉ゆずねえは首を傾げた。


「当たり所、悪かったかな?」


「ぶつけたからじゃねーよ!!」


(なんだよ・・・、夢か)


 そうだよな、うん。


 俺に許嫁なんているわけないし、親父も頭おかしくてもそんな他人に頼る程借金もしてないし・・・。


「ホントに、だいじょぶ?」


「だいじょーぶ。夢の話」


「え、あんた夢で許嫁つくってたの!?いくら彼女出来ないからって・・・」


 柚珠姉が、めちゃくちゃ失礼な事を言っている気がする。


 途中から聞こえなかったから何を言っているのか聞こうとしたら、柚珠姉が部屋の中まで入って来た。


「はっ!?おい、勝手に・・・!!」


「もう学校でしょー?ほら、鞄見せな」


 この期に及んで中を全く整理していない鞄のチャックを開けそうになって、慌てて止める。


「勝手に開けるな!!勝手に入るなっ!!!」


「えー、でも遅れるよ?」


「自分でやる!!!勇斗ゆうとさんに、また言われるぞ!!!」


 柚珠姉はウッと喉を詰まらせてから、観念したように部屋から出て行った。


「ふぅ・・・」


(やっと嵐が去った・・・)


 そう思い、息をついたのも束の間。


"ドンガラガッシャーン"


 朝からとっても元気な音が聞こえた。


(・・・もしかして)


 いや、もしかしなくとも、あいつだな。


"ガチャ"


 部屋の扉を開けると同時に、思いっきり叫ぶ。


「おぉい、ナナ!!!」


「あっ、匠兄たくにい!!はよ~」


「あ、ああ、はよ。・・・じゃなくてだな!!」


 思わずこめかみを押さえると、柚珠姉を睨んだ。


「柚珠姉、何でナナが朝飯作ってんだよ!!」


「たっくんのご飯、作りたいんだってさー」


「あーのーなー!!!」


 『ナナの不器用さ知ってんだろーがぁぁ!!!』


 そう言いそうになって、慌てて口をつむぐ。


(またナナを泣かせるな、やめておこう)


「匠兄ー」


「あー、はいはい!!」


 ナナからのSOS信号をキャッチして、バタバタと階段を下りる。


「あのなぁ、ナナ!!何回も言ってるけど、朝食とかは柚珠姉に任せろ!!良いな」


「はぁい」


 少ししょんぼりしたナナを前に、息をついた。


「ふぅ・・・。で、だいじょぶか??」


「うんっ!!ナナは大丈夫、なんだけど・・・」


 そこまで言うと、ナナはガックリと肩を落とした。


 料理道具を落としたらしく、辺りはとんでもない・・・ホントにとんでもない事になっている。


「あー、やっちゃってんねー」


 後ろからヒョッコリ出て来た姉さんが、お皿の様子などを見ながら俺達に言った。


「うん、これくらいなら大丈夫。あとは私がやるから、2人は用意して来な~」


「ありがとぉぉ、柚珠姉!!!」


 ナナは、申し訳なさそうに手を合わせる。


 そんなナナに、「いーよいーよ」と笑って言える柚珠姉は面倒見が良いと通り越してお人好しな気もする。


 結局、今日は柚珠姉の作った朝食を食べた。


「あ、そろそろ行かないと」


 柚珠姉が椅子から立ち上がり、俺の腕を引っ張る。


「んだよ」


「えー、途中まで一緒に行こーよー」


「家出た瞬間から、真反対だろっ!?」


 呆れてため息をつく。


「ったく・・・。今日は、勇斗さんと行くんだろ。さっさと準備して行け」


「もー、何でそんなに詳しいのよー」


 頬を膨らませて、ブツクサ言いながら階段を上って行く。


「はぁ・・・」


 俺も学校に行こうと思い鞄を掴むと、今度はナナに腕を掴まれた。


「・・・なんだよ、ナナ」


「私、匠兄と一緒に学校行く!!」


 ナナには、残念ながら言い訳がない。


 ナナが通っている中学校は、駅まで通学路が一緒なのだ。


「あー、はいはい。さっさと準備しろー」


「わーい!!!」


「あと5分なー」


「えええ!?」


 突然焦り出し、パンを口に詰め込む。


(ハムスターか)


 吹き出しそうになるのを堪え、先に玄関に向かう。


「外で待ってんぞー」


「行かないでよー!?」


「へいへーい」


 適当に返事をしてドアを開けると、聞き慣れたソプラノボイスが聞こえた。


「たぁーくぅーみぃー!!!」


 そこには、幼馴染・榎並友理奈えなみゆりながいた。


 朝から、ホントに元気だ。


 さすがは、運動得意な体力バカだ。


「友理奈、どした」


「『どした』って、一緒に学校行こーよ!!」


「今日は、ナナと行く」


 ナナと約束をした覚えはないが、友理奈と一緒は色々と気まずい。


「うちも入れてよ!!」


「ナナに聞けよ」


 目を逸らすと、後ろでドアが開いた。


"ガチャ"


「あれ、友理ちゃん?」


「ナナちゃーん、今日一緒に登校しても良い?」


 友理奈が猫撫で声で言うと、ナナが拗ねたように頬を膨らませた。


「やだ!!」


「何でぇ~!?」


 友理奈は、顎が外れそうなくらい驚愕している。


 何というか、間抜け顔だ。


 完全に。


「今日は、ナナと匠兄の2人で行くの!!!」


「良いじゃーん、今日ぐらい~」


 友理奈まで、拗ねたように頬を膨らませた。


 すると、ナナはビシッと友理奈を指差した。


「一昨日も一緒だった!!」


「あれ、そうだっけ???」


 友理奈が、ついにとぼけ出した。


「もうっ!!!」


 俺は、言い合う2人を置いて先に歩き出した。


(朝っぱらから、面倒だなー)

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ただの高校生だった俺に許嫁ができたので、溺愛してきていた姉と妹と幼馴染を振り払って恋愛します!【第1話】 瑠栄 @kafecocoa

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