第七巻 審判を招く者たち編⑦

 第七章 業火と氷結 ――野原アキトVS東条ハクヤ


 夏休みの前半が終わり中盤へと差し掛かる。

 蝉の鳴き声が遠く聞こえるのは俺んちが十階だからだろうか。雲一つ無い晴天、鼻歌を歌いながらベランダで洗濯物を干すミサキ。平和だなあ。少し前までギリギリの戦いをしていたとは思えない。俺は絶対に忘れない。俺のおごりがマリを危険に晒し、死に神に事実上負けた事も。その時の想いや気持ちも、忘れない。俺はテーブルに置かれているマグカップに手を伸ばし、アイスコーヒーを一口飲む。しかし、マリにはまだ課題が残されていた。死に神との戦い、奴の聖剣シャンティアは適合者と離れて攻撃を仕掛けてきた。木崎先生はマリも適合者から離れても氷結攻撃出来る様に訓練した。だがこの課題が中々の難問。

「むー……」

「って、さむっ!」

「あうーごめんなさい、どうしても範囲が広がっちゃって巧くいかなくてえ……」

 まあ、多分マリが単独で敵に攻撃なんて無理無理。そして、今日は――

「イエース! アイッラヴッマリつあーんっ! 今日は特訓忘れて楽しい勉強会だぜ!」

 そう、俺達は宿題のしの字もやっていなかった。

「あー、ヒロキ君、どうやってうちに入って来たのよ」

 どうやって「うちに」って、ミサキ完全に俺と同居状態だな。

「あ? つか鍵掛かってなかったしな、ってかやっぱ世話女房だな赤月」

「久しぶりに苗字で呼ばれたかも」

「で? 勢いよく入って来て勉強会って、どこから手をつけんだ……この宿題」

「アキト、お前さ……勉強会って言って勉強すると思ってんの?」

「は?」

「こ・の・俺・が・よっ!」

「しねえのかよ、帰れ」

「そんな事言うなよお~俺だってマリちゃんと居たいのっ!」

 むさ苦しい。

「正直、俺とマリは疲れてんだが、修行終わってまだそんなに経ってねえし」

 ミサキがベランダの窓を閉め、呆れた様に双眸を細める。

「勉強しないならアキトとマリちゃん休ませてあげてよ、ヒロキ君」

「あれ、俺もしかして空気読めない子?」

 読めてないっつか一度も空気を読めていないから。

「ごめんなさいですう、どうしても完成させときたい技があってですねえ」

「そうかそうかあ。しゃーねえ、赤月が掃除してて大分綺麗だけど姑目線で塵でも探すか」

 朝八時、相変わらずマリと出会ってから賑やかになったもんだ俺んちも。俺はベランダに出て外の景色を見渡した。そよ風が気持ちよく肩を撫でる。


 ――忘れるなかれ、選択の時は訪れる


 双眸を見開いて声の聞こえる方を探す、だが誰も居ない。確かこの声を聞いた事がある。マリと初めて出会って数学の授業の時、そうだ、廊下に立たされた時だ。選択の時?どういう意味なのかサッパリ解らない。

「アキト、どうしたの?」

「いや……変な声を聞いた気がしてね」

「大丈夫? 疲れてる?」

「かな?」

「そーいう時は、はい」

「うん?」

 ミサキは俺の手にはめてあるリングと自分のリングを合わせた。

「ほらっ、ハート型になる!」

 笑顔を見せるミサキ。そうだな、この笑顔をエンジェルスマイルとか思っていたっけな。

「うん、大丈夫だ。ありがとな」

「いいえっふふ」

「なんだよ」

「ううんっ! ただこうして居られる事が幸せなだけ!」

「色々あったもんな」

 ミサキは手すりに背中を預けて俺を見つめる。

「ここに居られる事、私絶対に忘れない。アキトで良かったって思う、それはきっとずっとこう言う気持ちで居れると思うから」

 本当に色々とあったよな。時に怒りを覚えて、時に涙流して、時に笑い合って。俺、少しは大人になれたのか? 成長出来てるのかな。マリ、聞こえるか。

「ほえ?」

 お前が俺達の手を繋いでくれたんだ。大した聖剣だよお前は。

「えへへ」

「あーっ、なになに? テレパシーってやつ? ずるいー内容はー?」

「誰にも教えてあげないですう」

 俺は今でも冥界の事なんてどうでもいいと思っている。しかし、少し前とは違う。逃げるんじゃないんだ、前を向いて歩き出しただけなんだ。人それぞれ歩く歩幅は違うと思う。時に自分の描いていた理想とはかけ離れた現実が襲ってくる事もある。それでも歩幅を合わせて歩いてくれる奴らは居るんだ。だから、俺が今、こうして前を向いて居られる事に、そう、幸せなのだと思える。


「さってと――」

 澄みきった空が淀み、急に暗くなる。

「来たか……」

「これは、裏の世界ってやつか!」

「マリちゃん、アキト」

「もう大丈夫、俺はもう間違わないから。行くぞマリ」

「はいっ! 新技もいけると思うですう」

 俺はベランダの手すりを飛び越え十階から飛び降りる。

「マリ解放、剣眼」

 落下を始めた俺の体は両手から溢れ吹き出る青い冷気によって宙を浮く。左目に青い炎を宿し、俺は背中にミサキとヒロキが居る事を確認した。

「すげえ、浮いてるのか、それにその片目の青い炎なんだよ、そんなのやってたか?」

「木崎先生がこっそり教えてくれたんだよ、まあ口だけだったし実際やるのは初めてだけどな」

「それが聖剣の、マリちゃんの本当の力?」

「いや、マリの力はこんなもんじゃ――」

 俺の周囲に舞い散るダイアモンドダストが乱反射して「何か」を弾いて凍らせた。小気味良い音と共にダイアモンドダストに反射され落ちていくのは「飛針」だ。そして遠く前方から真っ赤に燃え盛る火炎の渦が俺達に向かって進んで来る。

「東条ハクヤ……」

 俺の双眸が次第に青く染まり、左目の青い炎が揺れる。前方から向かって来た火炎に両手を前方に突き出し両掌で受け止めるが、その炎は凍らなかった。俺の掌に防がれて八方へと流れていく火炎。

「なるほど。野原アキト、てめえも剣眼してんのか……だがなんだその左目の青い炎は」

 火炎の渦を全て防ぎきると両手に炎を纏って宙に浮く東条ハクヤが姿を見せた。

「お前こそ、聖剣と仲良くなれたんだな」

「てめえの知れた事じゃねえさ」

「で、お前の剣眼して進化した武器はなんだよ?」

 俺は左目の炎に左手をかざし、一気に弧を描く様にして野太刀へと進化したフリーズソードを出現させる。

「既にてめえの『その目』には映ってんだろ」

 俺は上空を見上げた。俺の左目に宿る青い炎は聖剣の微弱な力に反応し、それを感知する。真っ赤な火炎を纏う数十本の槍が俺を中心に円状に展開されている。

「槍かあ」

「随分と余裕あんじゃねえか……それに前とはちょっと雰囲気が変わったか?」

 俺は片手を頭上に掲げ、東条に笑みを見せる。

「お前も大分変わったんじゃないか?」

 掲げた片手から上空の槍に向けて白く光を放つダイアモンドダストを飛ばす。

「お前も俺も、もういがみ合うのは終わりにしよう」

 数十本の槍の群れが凍り、俺が掲げた手を握ると槍達は粉砕された。

「ハンッ! 残念だが乗れない相談だな、俺はてめえを殺して俺の正しさを証明する!」

「お前が負けたら?」

「安心しろ万に一つも無い結果だ」

 やられた、今、俺の視界に映っている東条は陽炎の見せる幻影。本物に対して俺の左目の「サーチアイ」の炎が反応する。

「下か」

「その目は厄介だな、おい」

 炎の螺旋を纏いながら鋭い三又の槍を構え、下から突撃兵の如く迫る東条。

「てめえには最大火力を見舞ってやるよッ!」

 サーチアイが酷く揺れる。東条の姿が見えなくなる程の火炎が渦を巻き、加速した。

「あっちぃッ! なんつー火炎だよ、行けるかマリ?」

「はい!」

「よーしッ! 木崎流一の太刀、弧線斬ッ!」

「木崎流だと? ハンッ、この灼熱の突撃は簡単には凍結出来ねえぞッ!」

 俺は体をねじり、フリーズソードの切っ先は一度弧を描く。そして突撃してくる火炎へ向けて全力で振り下ろす。

「流石に……きついかッ!」

 次第に刃から溢れ出る冷気が強まってゆく。

「なんだ! 俺の火炎が拡散していくだと!」

「こうなりゃ……自己流一の型、シューティングスター」

 俺の周囲に散るダイアモンドダストがキラキラと光を放ち、弾丸の様に宙を弾いて火炎へ向けて次々と発射される。小気味いい音を立ててダイアモンドダストによって火炎の渦に穴が開く。

「自己流と木崎流……てめえにゃ師匠でも出来たのかよ」

「ああ、悪いなッ」

 フリーズソードが強い冷気を放ち、火炎を引き裂く、すると東条と槍の姿が見えた。だが瞬時に東条の姿が視界から消え、サーチアイの反応が上に変わった。

「速い」

 また陽炎の見せる幻影、本体は今度は頭上。

「おもしれえ、この力があれば死に神も焼き殺せるなッ ――フレイムブースト」

「まだ速くなんのか」

「おい、アキト大丈夫かよ! マリちゃんに怪我させんなよ!」

「心配すんなって、ちょっと二人共、隠れててくれ」

「ヒロキ君、こっち!」

 俺は左手を自宅のベランダへ向け、そこに氷の壁を張る。

「さて」

 またダイアモンドダストに乱反射し凍って落ちる飛針。

「東条、お前はまだ復讐の為に聖剣を持つのか?」

 その言葉と同時に俺より上空に居る東条へと顔を上げる。

「…………」

 俺は顔を下げ、広範囲にダイアモンドダストを展開させる。

「俺、死に神と戦ったんだ」

「それでどうした」

「殺されそうになった……だけどマリが、この聖剣が俺をかばって……」

「……ふん、お互い聖剣の感情って奴には迷惑するな」

「はは……お前、聖剣は人殺しの道具じゃなかったのかよ」

「ユリアは……あいつがそれを望まない」

 少し驚いたな。

「へぇ、お前も変わったな」

「知るか、だが変わったのかそれとも結局復讐したいのか、それを確認する為にてめえと戦ってる」

「それ、ちょっと違うんじゃねえかな」

「なに?」

 俺の言葉に顔を顰める。

「本当はもう答えが出てるんだろ? じゃなきゃ剣眼なんて出来てない」

「……もしもてめえが俺より強く、死に神と再度戦う事になったらてめえはどうする」

「お前と一緒に死に神と戦う」

「な……ッ」

「仮に俺とお前の決着がついて、一勝を得ても聖剣闘争での勝ちは決まらない、だってそうだろ、聖剣の優劣を決める戦いなんだ、言っちまえば一位と二位と三位を決めなくちゃならねえ。だったら最下位に死に神を落とす、それだけだろ」

「ふん……てめえまだ本気じゃねえな?」

「お前こそ。だからあのヌイグルミが出て来ねえんだろ」

 東条の両手から放出される炎が規模を増した。俺も最大限にダイアモンドダストを展開し終えた。そして俺と東条は同時に声を上げる。

「行くぞッ!」

「呼ばれて飛び出……のあッ!」

「すっこんでろヌイグルミッ! マリ、出番だぞ、特訓を思い出せ」

「解りましたあッ!」

「ユリアッ!」

「マリッ!」


 確かに東条の動きは速い、だけれどサーチアイで辿れる。空気中の水素を凍らせて四角い氷の壁を何枚も出現させて東条を囲む。

「この程度の氷で俺の熱は止まらねえぞおいッ!」

 東条を中心に突然爆発が引き起こった。

「ゲホッ、ったく、お前は爆弾魔かよ」

「連なる爆撃、行けユリアッ!」

 手にする槍を上空へと向け、思い切り投げて来る。そして槍は次々と爆発を引き起こし、煙幕で一度その姿を消す。

「来ますッ!」

「よっ、と」

 高速で煙幕を突き破って来た槍を若干横へと回避し、その柄を掴む。

「この反応……アキト様ッ! サーチアイを!」

 左目のサーチアイが掴んだ筈の槍には反応せず、もっと遠く、視界の遥か彼方を示す。

「いッ!」

 そしてダミーの槍は粉塵を散らせて大爆発する。

「ふぅ……」

 瞬時に氷の壁を作り出し、何とか爆発をしのぐ。サーチアイの炎が激しく揺れる。

「本命は」

 首を左に曲げ、次に飛んで来たその鋭い槍の矛先をギリで回避し、柄を掴む。

「こっちか、ってあいつあんな遠くから投げて――」

「遠くから、なんだって?」

「はい?」

 掴んだ槍が炎を巻き上げてその中に東条の姿が現れた。槍へと片手を伸ばしつつ、体を回転させて槍を掴んだと同時に踵落としを俺の後頭部へと叩き込んでくる。

「フウー、イキナリ激しいダナ、ジャッジのオレ様の開始合図待たないトカ」

「木崎流二の太刀、満月斬ッ」

 フリーズソードを頭上に構え、両手で柄を握り体をまるまる一回転させる。

「その木崎流ってのも大した事ねえな」

「その油断が戦いじゃ致命的って教わったわ」

 切っ先が描いた丸い軌跡を辿る様に鋭い棘を纏わせた氷が出現する。そして棘は伸びて東条の体、数か所に刺さる。

「ぐッ!」

「それだけなら良かったのにな」

「何……ッ?」

「お前、どんくらいダイアモンドダストを吸い込んじまった?」

「!」

 東条は突然吐血した。

「ハクヤ様ッ!」

「俺の周囲に展開するダイアモンドダストはただの飾りじゃねえ」

 破裂する様に出現していた氷が砕け、俺はフリーズソードのトリガーへと手を掛ける。

「ダイアモンドダストは吸い込めば体内の臓器官に流れてその体内で破裂する」

( この凍結野郎……湘南で戦った時とはまるで別人ッ!)

「見て見ろよ、お前の周り」

 東条は口元に片手を添えたまま周囲を見渡す。キラキラと光り輝くダイアモンドダストの夥しい数。

「てめえが強い事は認めてやる、だが同じだ」

「……うがッ!」

 なんだ、突然体の奥が熱くなり、俺は口から火炎を吐いた。

「アキト様ッ」

「まさか……」

「そうだ、ダミーの槍はただのダミーじゃねえ、爆発を引き起こす際に散る煙幕は塵も同然。その塵を吸い込めば体内で熱を持ち、次第に相手の体をオーバーヒートさせる」

「上等だろ……ならどっちが先に致死量を吸い込むかって話だッ!」

「俺の爆撃と火炎に着いてこれるのか――フレイムブースト」

 また加速したのか。瞬時に視界から消える。

「もう同じ手は通じねえ」

 サーチアイはまた遥か彼方の街並みへと流れる。流石にあの距離までダイアモンドダストは届かない。なら行くしかねえか。両手から溢れる冷気を放出させて、街のビルの群れへと体は宙を突っ切る。

「前方から反応が急速に近づいてますうッ!」

「わーってるッ!」

 街のビル群を突き抜けて来る槍は真っ赤なラインを残して俺の真横を通り過ぎる。

「やべっ」

 咄嗟に前方へと両手を向け、飛んでいた体にブレーキを掛け、そのままビルの窓ガラスを割って中へと逃げた。案の定ラインを軸に細かく爆発が起こる。

「手甲粉塵招」

「へ?」

 俺が隠れたビルが突然横へと傾き、遅れて轟然とした爆発音が響く。

「幾ら裏の世界とは言え派手にやり過ぎだろッ!」

 恐らく、ビルの根元を爆破したのだろう。俺は傾きを続けるビルの床に両手を押し当て、冷気を放出する。反応はこのビルの上、俺はビルから飛び出ると同時に空を見上げた。まだ朝なのに裏の世界は薄暗い。

「どうした? さっきまでの威勢は――手甲粉塵招ッ!」

 後ろ、ピタリと東条の片手が俺の背中を捉え、奴の手自体が火炎へと姿を変えて直に爆発した。軋む俺の背骨。

「マジか……ッ!」

 強い。こいつがもしちゃんと訓練していたらやばかったな。

「ぐッ! ゴポッ!」

 再度吐血する東条。舞い散る粉塵と煌くダイアモンドダスト。俺と東条は互いに集中力が切れ、一瞬浮力である両手の冷気と炎が消えた。交通道路のど真ん中に落下し、転がる。

「ハァハァッ……どうしても立ち塞がりやがる、てめえは……」

「ゼェハァッ、悪いな、諦めが悪くてよ」

「死に神を殺すのは俺だ、てめえには譲る気もねえし、共闘なんて御免だ」

「バーカ、死に神は殺せない、奴は」

「不死なんだろ。知っているさ、だが俺はッ!」

 先に起き上がる東条。俺も口元から流れる血を腕で拭い、立ち上がる。

「復讐の為にこの聖剣闘争に勝つ……ッ」

「お前には解らねえんだ。お前だけが苦しくてお前だけが悲しい想いを募らせてるとか、なんでも自分中心だ。もっと友達を増やせ、バーカ」

「裏切られるだけの友など俺には必要無いッ!」

「だったら俺達が友達になってやるよッ! てめえの痛みも悲しみも復讐心や憎しみもッ! 全部俺やミサキ、ヒロキ、そしてマリとユリアが引き受けてやるよッ! いい加減その曇った眸に――」

 俺は周囲のダイアモンドダストを凍結させる。マリ、ここからが本番だ。

「生を宿せつってんだ。このわからず屋のクソガキがッ! ア・ク・セ・ル・全・壊ッ」 横へとフリーズソードを薙ぎ払い凍結させた巨大なダイアモンドダスト達は大気を纏い空中で音を鳴らして回転を始める。

「自己流二の型、全弾掃射ッ!」

「綺麗事をぬかすなッ! てめえは死に神を殺す過程での通過点にしか過ぎねえんだよッ! ユリアッ焼き払えッ!」

 交差点のど真ん中で俺が発射した氷結の弾丸と東条の数十本の槍が衝突し、固いアスファルトに亀裂が入る。

「その通過点すらお前は越えられねえッ!」

「黙れッ! そんなもんは結果が答えになるッ!」


「「うおおおおおおおおおッッッ!」」


 アスファルトの亀裂は更に進み、青と赤の閃光が亀裂を駆け巡った。

「ハクヤ様、この勝負――」

 俺の放つ弾丸の嵐が一つ、また一つと東条の槍を貫いて破壊していく。

「私達の負けの様です」

「ふ、ふざけるなあああッッッ!」

 無数のダイアモンドダストが東条を襲った。


 氷付いたアスファルト。空へと舞い散る業火の炎。

「ハァッ……ハァッ……俺達の勝ちだ、言っただろ」

「勝負アリダナ! この闘争、野原アキトと聖剣マリの勝利とスルダナ」

「お前だけじゃ通過点すら越えられねえんだよ……」

「アキトっ!」

「かー、結構走ったぞこれ、てうおっ、七不思議野郎っ!」

 ミサキが俺の胸に飛び込んで来る。

「ハクヤ様、私には理解は出来ませんが『友達』と言うものになってみては如何でしょうか」

 ユリアの膝に頭を乗せて倒れている東条。

「ふっ、今更俺にそんな資格はねえだろう」

「おーい、七不思議野郎、聞こえるかー」

「黙れ、早くあっちへ行け」

「行くならお前もそっちの可愛い子も一緒に、だ」

「てめえも綺麗事か。てめえが何を言ってるのか解っているのか」

「あー、俺はバカだからよ、アキトがそうしたいと思う事、その支えになりてえだけだ」

「あいつのそうしたい事、だと」

「直接訊けよ。あーんマリつぁーんっ、無事でなによりぃぃ!」

「あっ……」

「よう、東条の嫁」

「嫁? 貴方は私の適合者であるハクヤ様を倒したのです、通過点だと思っていた筈が、貴方のせいでとんだ誤算がハクヤ様の中で生まれました。責任を取って下さい。それと、これで私が今回の聖剣闘争で一番になれなくなりました。この責任はフリーズソード、貴方が取って下さい」

「ほえ? 責任ですかあ~」

「勝者はてめえだ。とっととトドメを刺せ」

 俺に肩を貸してくれているミサキが小さく笑い、俺も失笑した。

「何がおかしい」

「じゃあお前の命は貰った。だから俺の言う事を聞け」

「ふっ、なんだ」

「俺達と一緒に死に神と戦おう」

「何を言い出すかと思えば、その話か」

 俺は倒れている東条に片手を伸ばす。

「俺達全員で超えるんだよ全ての苦しみを」

「てめえは綺麗事を……だが何故だ、負けたのに清々しい。てめえは一体何者なんだ」

「んーそうだな。先ずその『てめえ』って呼び方やめろ、苛々すっから。またダイアモンドダスト吸い込ませるぞ」

「ク、クク、クハハ、おい、女、お前の連れは随分と怖いんだな」

「私の事は『赤月』って呼ばないとすり潰すよ? 後、連れじゃなくて彼氏ね」

「ハクヤ様、どうやら私が思っていた以上にこの方々は怖い様です」

「俺は負けた、俺の目的は復讐だ。俺が目的を達成出来なかったら詫びて死ぬ覚悟だけはしとけよ、野原」

 東条は俺の伸ばした手を掴んだ。


 勝負は決した。

 そして俺達に新たな友達が加わった。

 東条ハクヤとユリアの二人が。




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