第三巻 審判を招く者たち編③

第三章 夏休み突入!


 俺とミサキさんは見事付き合う事になった。そして、長い夏休みが始まり、二日経つ。

 ここはマンションの十階、割れた窓も直り、暑い日差しが睡眠を妨げた。

「ん、朝か」

「おはようございますう」

「おはよーアキト君、ちゃんとベランダで寝てたね、偉い偉い」

「ああ……ってうあっ!」

 ミサキさんに家の合い鍵を渡していた事を忘れていた。

「まったく、可愛い寝顔だったよ? マリちゃんね」

 おい、そっちか。

「ふぁ~……」

「オスっメスっキッスっ! アキト、赤月、そして、マアリイちゃーんっ!」

「ふあっ!」

 ミサキさん、ドアの鍵は開けたら閉めようね。朝から変なのが沸くから。

「なんだアキト、寝起きかよ、早く着替えろよなあ」

「あ? なんで」

「あのなあ、お前ら夏休み直前に恋愛成就したからって平和ボケし過ぎなんだよ。今日は皆でモールに買い物行く約束だったろ、って、アキトには昨日メールしたよな?」

 悪い、速攻でメール消去していた。確か件名が「マリちゃんのスリーサイズ」だった。そりゃ開く前に消すだろ。

「って、え、俺が到着した時にはドアの鍵は開いてて、でもアキトは完全に寝起き? まさか……合い鍵かっ! おいおい、赤月、いきなり世話女房か?」

 ミサキさんが頬を赤らめて朝食のパンをテーブルに置いた。

「べ、別に世話って訳じゃなくて、その、もういいからアキト君もパン食べてっ」

 そう言うのを世話と言うのですがミサキさん。まあいいや、兎に角、最高だっ!

「んで、なにを買いに行くんだっけか」

「アキト様っ! ミズギってやつですよおっ!」

 洗面所でパジャマからジーンズと赤いTシャツに着替えて、テーブルに置かれるパンを齧る。ああ、そういやマジで湘南に行くってヒロキは言っていたな。

「はい、コーヒー、マリちゃんのもね」

「わーい、ありがとうございますうミサキ様」

「アキト、アキト、ちょっと耳貸せって、俺に提案があるっ」

 出たよ、ヒロキの迷提案。

「ウンタンシネマはモールから近い、そこで、だ。今度こそ映画を観ようっ」

「で?」

 耳元で囁くヒロキは一度髪を掻く。

「もうっ、分かるだろ。恋人同士になったお前達は別の席でチケットを買うから、俺はマリちゃんと隣の同士の席っ! 赤月とお前にとっても結構嬉しい条件だろ?」

 なるほど、どうやらヒロキは天然聖剣にゾッコンらしい。しかしまあ、先に幸運を掴んだ事だし、この提案に乗るか。

「よし、映画作戦パート二だ、ミスは許されないぞ、ヒロキ軍曹」

「イエッサー」

「はい、出来上がり。うんうん、マリちゃんはやっぱツインテールも似合うね」

 ベッドに天然聖剣を座らせて髪を弄っていたミサキさん。どうやら天然聖剣の髪型をポニーからツインテールにしてみたらしい。

「おおん、マリちゃん、可愛い……萌えっ」

 考えてみれば今は唯一、ミサキさんと二人きりになる映画チャンス。これを逃す手は無いだろ。やっぱデートって響きは最高ですから、はい。冷静になれ、落ち着け俺。あくまでもポーカーフェイスだ。

「おし、そろそろ行くぞ」

 こうして俺達は真夏の街へと飛び出した。


 が、しかし。なんだこの暑さは、蒸すぞ。田舎暮らしでは感じなかった蒸す暑さ。アスファルトのせいか。田舎みたいに砂利道やら土ばかりじゃないもんな。

「暑い……しかも、なんだこの駅前の混雑具合は」

 バスから降りて直ぐにギブアップしそうになった。

「そっかあ、アキト君とマリちゃんは初めての都会の夏なんだよね」

「俺はね。あいつにとっちゃ都会が初どころか、人間界での夏自体初めて……なのに」

「わはー見てください、この間よりも人間が沢山居ますよおっ!」

「元気過ぎじゃねえか」

「でもあれぐらいが健気だよね、なんか初々しいよ」

 その時、ミサキさんと一瞬手が触れ、俺達は目線を反らして、手を繋いだ。

「私にとっては好きな人と一緒に過ごす初めての夏、だよ?」

 胸キュンです。とても胸キュンです。

「お、俺もだし、胸キュンです」

「胸キュン?」

 はうあっ、つい心の声が零れてしまった。以後気をつけます。

「いやあ、暑いねっ、それに赤月、アキト、魅せつけてくれんじゃないか」

 ヒロキは頭部を片手で撫でながらようやくバスから降りて来た。

「なにしてんだお前」

「なあに、バスの運転手といつものコミュニケーションだよ、気にしない気にしない」

「お前、又運賃を払わなかったのか」

「節約と言いたまえよ?」

 バカだこいつ。しかし、小さな手だなあ、ミサキさん。柔らかい手、思わず変な汗をかきそうです。

「ぶーんっ」

 おい、やめろバカ聖剣。

「おっ、なにそれ新しいスキンシップ! ぶーんっ」

「違いますよ、ヒロキ様、もっと両手を広げて、ぶーんっ」

 痛い。なんか知らないけれど、こいつら痛いぞ。

「ねね、今のうちに二人でモールに行っちゃおうか……嘘だけど」

 おい、また嘘かい。

「って言うのも嘘っ! 行こっアキト君っ」

「お、おう」

 なんて事だ。まさか突然二人っきりになれるなんて。楽しそうな笑みを浮かべて俺の手を引くミサキさん。やばい、心がトキメク。まさに天使笑顔、英語で言うならエンジェルスマイル。あはん、その笑顔、一眼レフで撮りたい。

 モールの入り口にミサキさんに引っ張られる感じで到着したけれど、妙な奴らが俺達の進路を妨げた。いかにもって奴らが三人ガム噛みながら俺へと視線を流し、筋肉質な男をセンターに置いて話掛けて来た。

「可愛いじゃん君、そんな男とより俺達とカラオケに行こうぜ?」

「えっ、なにあんたら、悪いけど私、彼とデート中なんだけど」

 するとガムを噛む男の背後に立っていた金髪ロンゲの二人も会話に混じる。

「はあ? そいつが彼氏? 頼り無さそうな彼氏だなあ、おい」

「カラオケ代は出してやるから、まあもっとも、帰れるのは明日かなあ」

 どこにでも居るんだよなあ。おっしゃ、ここは男を魅せますか。

「あっ、御巡りさんっ! この人達に絡まれてるんです、助けて下さいっ!」

 ガクーン。おい、警官空気読めよ。ここはヒーローの番だろ。それに先ずバス停前でぶんぶん言っているあいつらもなんとかしろっての。

「なにしてんだ君達」

 警官が言うその一言の威圧は凄いもので。俺達に絡んでいた奴らは舌打ちしてその場を去った。


 今、彼女の居ない者に告ぐ。自分の好きな子が少し高嶺の花だと感じても、諦めるなっ! そして二次元に嫁が居るとか抜かす奴、バカめっ! 目を覚まして現実に帰れっ! フハハ、まったく、自分でもなにを言っているか分からねーよ。

「大丈夫? アキト君」

「ハッ! えっとなんだっけか」

「はあ、これだから放っておけないんだよ?」

 確かにそうですね。こんな俺を野放しにしたら大変だと思います、はい。って、そうそう、カキ氷だ。今俺とミサキさんはカキ氷を食う為にモール内のフードコートに立っている。色々な店があるが、中でもクレープ屋は人気があるよな。

「あっ、見て見てアキト君っ! ウンタンシネマのマスコットっ!」

 うわ、このくそ暑い中、幾らモール内に冷房が効いているからって着グルミかよ。

「可愛いなあ……うんたぬき君、あのフサフサの尻尾、いいよねえ」

 どこもかわいい要素なんてないタヌキの姿を見て眸を潤すミサキさん。

「いや……あれ中身は死んでるだろ、暑さで」

 ぐはあっ! 俺とした事がまたミサキさんに対してツッコミを。

「あーあー言っちゃった。中身とか。それよりね、はいこれ」

 俺の右手に手渡された物は妙な形をしたシルバーの指輪だった。いやいやいやいや、もももも、もう結婚の相談ですか?

「あれ、えと、これは?」

「もう、本当に鈍感。ほら、ペアなんだよ? そっちのハートは右側でこっちのは、ほらハートの左側の形をしてるの! って、ここまで言わせるとか、罪だよ?」

 なああんだああとおおお! 夢、いやもとい、妄想でしか登場しなかったペアリングか!

「ほ、本当はもっと、ね。ムードとか、色々あるんだけど、ちょっと、恥ずかしいしさ」

「た、大切にするよ。てか普通、こういうのって男がプレゼントするもんだよな」

 大切にすると言うか家宝にします、むしろ墓まで持って逝きます。いっそ死ね俺。手渡されたハートの欠片を模したリングをミサキさんと同じ左手の薬指に着けた。

「そ、それよりね、こういうの訊くのってちょっと怖いんだけど」

「ん?」

「アキト君は、どうして私と付き合ってくれたの?」

 今なら即答出来る。それは非日常的な戦いを前にしたから思える。

「聖剣の事、一緒に背負いたい」

「え?」

 俺はミサキさんの左手を握る。

「俺にとって聖剣闘争は理解出来ない戦いだし、あんな戦いで人の優劣を決める冥界の王も理解出来ない。だけど考えてても答えは出ないと思った。それに一緒に背負ってくれる人がそこに居たから。そりゃアイドル級だの、天使だの、色々と勝手に盛り上がってた。だけど……聖剣の事、一緒に背負ってくれる、その言葉は確かに俺の心に響いたんだ」

 握った手、ミサキさんの左手に少し力がこもった。

「ず、ズルいなあ、そんな事を真顔で言うのは……」

「だからさ、これからもよろしくな、ミサキ」

「う、うん……よろしくね、ア、アキト」

 なんだろう。俺達は自然と笑顔になっていた。ああ、これか。妄想でも無くなんでも無い、本当に「好き」なんだって気持ち。

「てめえら……ナニ盛り上がってんだアアアアン!」

 ああ、誰かと思えばヒロキ様と天然聖剣か。

「御二人からはなんか心が温かくなる様な感じがするですう」

「ちょ、二人共いつから居たの! って、いつから聞いてたのっ!」

「ふむ『それよりね、こういうの訊くのって』――」

「まんま訊いてんじゃん! こっのっバカ!」

 ミサキの右足が見事にヒロキの、いや、男にとって大事なモノを蹴り上げた。漫画でしか見た事無かったけれど強烈だな、うん。

「オゴッ……ゴゴ、オウ……ゴゴッ!」

「骨は拾ってやるからな」

「わあ、ダイレクトな音がしましたよお?」

 そりゃダイレクトな部分を蹴り上げられたのだ、同情はするけれどな。

「ヒロキ君。私は木苺味、アキトには焼き芋味、マリちゃんには好きな味、以上っ! さっ、放っておいてフードコートの席確保しておこ」

「はあ~い、あっ、ヒロキ様、私はモッツァレラ味が好きですよお」

「オゴ……俺のオゴ……り?」

「お前、ほんとなにやってんだ」


 こうして、ヒロキの奢りでカキ氷を食べ、俺達は目的の水着売り場に到着する。

「よーし、マリちゃんの可愛い水着選んであげるっ」

「ほえー了解ですう」

 二人が売り場へと向かうと、俺とヒロキだけ残った。楽しそうに水着を選ぶ二人を眺めながら、俺達はぼーっと立ちつくしている。

「なあ」

 俺はふと疑問に思っていた事を口にする。

「お前。天然聖剣の事をマジで好きなのか?」

 するとヒロキは俺の肩に片手を添える。

「当たり前じゃん、俺ってホラ、軽薄だとか言われてるけど。本気で女子を好きになったのは初めてなんだ。だからこの気持ちには素直で居たいと思うし、それにたとえマリちゃんが聖剣でも、人間界の人じゃなくても、愛は異空間すら越えるんだぜっ!」

 これ以上訊くのも野暮か。ヒロキもヒロキなりに考えているのだろうし。

「へいへい、異空間でも亜空間でも勝手に越えてくれ」

 俺達はそこからは他愛も無い話をしていた。勉強会の事、海に行く事。……聖剣闘争の事。

「ふう。お待たせ、取りあえず、目的は済んだし、どうする?」

 天然聖剣には金を渡していない、って事はミサキが買ってあげたのか。

「あー暑いなあ、涼しい所でゆっくりと映画でも観たいなーマリちゃんと」

 おい、映画計画立案者ヒロキ。素直過ぎるだろ。

「なんかヒロキ君から嫌なオーラを感じるんだけど」

「うるさいうるさい、いいから映画観るのっ! 観るったら観るのっ!」

 まさにドン引きである。俺達は華麗に計画を成功に導く事は出来ず、ヒロキのワガママで映画計画は成功する。広いドーム状のウンタンシネマは、この前より混雑していた。意気揚々とチケットを買いに行くヒロキの背中は輝いている。だが俺の予想では初めて映画を観る天然聖剣の反応が痛い程分かる。

「えっとね、映画って凄く大きなスクリーンで観るテレビみたいなモノだよ」

「ほえーテレビですかあ、アキト様、テレビってなんです?」

「うーん、まあ観れば分かるから、ただし騒ぐなよ? 絶対だからな?」

「あ、あはは……騒いじゃいそう」

「わくわくですねえっ!」

 足早にこちらへと戻って来るヒロキ、その手には四枚のチケット。あーそうか、ヒロキの奢りかここ。独り暮らしにとっちゃありがたいと思った。

「ほら、お前らのチケットな、んじゃ行こうっ!」

 俺はチケットのタイトルへと即座に視線が運ばれた。

「オイコラ待て。なんだこの『恐怖の館』とか、あからさまな映画は」

「え、二つの赤い糸じゃないの? ええっ! これってホラー映画でしょ!」

「奢ってんだ、文句は聞かん」

 いや待てよ。今の反応、ミサキはホラーが苦手なのか? 横から「きゃー」とか言いながら抱きついてくるのか! たまんねぇなオイ。流石ヒロキ軍曹だ、ホラー映画万歳。

「よし、観るぞ!」

「はあ~い」


 そして……映画は終わった。怖いシーン満載のホラー映画。

「あー楽しかったかも、ねっ、アキトっ!」

 チーン。怖がるどころか楽しみまくっていたよ、うん。そして案の定。

「すごいですうっ! 聖剣闘争とかじゃなくても人間って血飛沫を上げるんですねえっ」

 このバカは他の客から罵声が飛ぶ程、騒ぎはしゃいでいた。

「アキト将軍……」

「どうしたヒロキ軍曹」

「怖くてちょっと漏らした」

「本当にお前……なにしてんの」

 いやしかし、こんなに幸福で良いのだろうか。天然聖剣と出会った日がやっぱ厄日だったのか。それよりも白髪野郎との出会いが厄だったのだろうか。今のところは白髪野郎から襲撃される気配は無い。あいつの聖剣は確か炎を纏っていた。フリーズソードとの相性の悪さを痛感したか? まだ後一人の適合者とは出会ってい無いな、どんな奴なのだろう。そいつもなにかしらの「属性」みたいなもんがあるのか? 考えていても仕方無いな。

 つーか、俺はいつまでベランダで寝ていりゃいいのだろうか。今は夏だし、十階だからあまり害は無く寝れているけれど。流石に冬場は無理だろ。

「あっ」

 モールのエスカレーターを降りているとキャンプ用品売り場に目がいった。

「どうかした?」

「いや、寝袋があればベランダで寝てても平気かな、とね」

 んー、俺は吸い寄せられる様にキャンプ用品売り場へと足が向く。中々の値段だな。

「そうだなあ、マリちゃんに変な事しないなら部屋で雑魚寝も許してあげるよ?」

 ミサキからの許可が下りた訳だが、どうする俺。

「うーん、じゃあ今日から雑魚寝でもいいか?」

「仕方無いから許してあげよう」

「マテ、マテマテ、マテ、アキトよ、間違え起こしたら、分かってるよな?」

 真顔で迫って来るなバカ。

「おおーアキト様もやっとお部屋で寝れるのですねえ、良かったですねえ」

 元々誰のせいだと思っているのだか。


 突然、俺のスマホが鳴り出した。ああ、スリープモードにしていなかったんか。ん? 誰だ。

「鳴ってるよ? 出ないの?」

「いや、非通知なんだよ」

「出てみりゃいいんだよ、どうせ誰かのドッキリか悪戯だろ」

 俺は通話の応答ボタンをタップする。

「んーグッドアフタヌーン、生徒名簿にスマホの携帯番号はダ・メ・ダ・ゾ」

 うっ、気持ち悪いな。

「誰だお前」

「そこに居るお友達は~聖剣闘争の事を知らないわよねえ? 当然」

 明らかに男の声、しかも野太い。って、こちらの状況を把握しているのか?

「お前が三人目の適合者か、どこで俺達を見てやがる」

「アキトっ! スピーカーにしてっ!」

 俺は掌にスマホを持ち、通話をスピーカーに切り替える。

「ふふん~その様子だと、そこに居る殿方とお姫様は聖剣闘争の事を知ってるのね」

 おい、天然聖剣、聞こえるか。近くに聖剣の気配はないか?

「こう人間が多いとちょっとサーチ出来ないですう」

「貴方、勘違いしてるわねえ、私が三人目じゃなくて」

 スピーカーからノイズ音が聞こえる。

「貴方が三人目よおん、私は他の適合者の登場をずっと待ってただけよ」

「そりゃ親切丁寧に説明ありがとさん、で、まさか、こんな人だかりの中、聖剣闘争を始めるとか言うつもりか」

「あらあら、私がそんな無粋な真似をする訳がないじゃな~い。そうね、自己紹介がまだよねえ、私の名は――」

 俺達はそれぞれ別の方角を向き、こいつを探してみた。

「し・に・が・み」

「は? ふざけてんのかお前」

「勿論、偽名よ。ただ、私の存在を一言で例えるなら死に神がもっとも適切。そして私の聖剣の名はシャンティア、この子の事は次に会う時までのお楽しみよお?」

「へえ、で、その死に神様が、わざわざ生徒名簿まで見てなんの用だ」

「あらあら、今日はただのご挨拶。そしてこれだけは告げとかないとね」

「なんだよ」

 また通話音にノイズが走った。

「確実に」

 更にノイズが酷くなる。

「オマエをコロス」

 瞬間、通話が切れた。

「ちょっ、な、なんなの今の。東条君より危ないって今の人っ!」

 死に神と名乗った奴の声は冷徹な声だった。俺の手は震えている。そんな手をミサキは両手で強く握ってくれた。

「け、警察、警察に言おうぜっなっ! 穏やかじゃねえだろ、どう考えても!」

「これが……聖剣闘争、なのか」

「アキト様……」

「バカを言うなよ! 今の奴も歩く七不思議も狂った奴らだぞ! だから警察――」

「警察が取り扱うと思うか? 冥界だの人間の姿をした聖剣だの」

「そ、そりゃそうだけど、お、おい、なんだよ、お前ら……」

 ミサキも天然聖剣も、そして俺も……。

「なんでそんな『覚悟出来てる』みたいな顔してんだよっ!」

「私はっ、私はね……支える。一緒に背負うって決めてたから」

「大丈夫ですよお、私が絶対にアキト様をお守りしますからあ」

 覚悟は決めていたのだ。ここまで来たらもう引き返せない、そんなの理解出来た。

「誰も……こんなくだらない闘争で、誰も死なせねえ……勿論俺も死ぬ気はねえ。ヒロキお前が想う天然聖剣への想いは、警察がちゃっちゃと片付けてくれるもんだったか?」

 ヒロキは一歩後退し、固唾を飲んだ。

「ハハ……まったく……お前も赤月もすげえよ……忘れんな、俺も……お前らを支える」

「ぷっ、あはは、バカ、ビビるなよ。人なんて簡単に殺せる訳ねーだろ」

 死に神とか名乗ったオネエキャラな野郎。そして灼熱を纏う白髪野郎。ったく、どいつもこいつも、死ねだの殺すだの、頭が沸いているのだろ。この現実のどこを探せばそんな簡単な処刑場が見つかるんですかっての。まあヤクザ絡みなら分かるけれど、俺も白髪野郎も高校生だぜ?死に神は知らねーけど、人間の血が通っているのだ。人なんてそんなホイホイと殺せる様な物ではない。


 ―― そこにはもう無い現実だ


 白髪、お前にとっちゃそうかも知れない。だけれど。

「あっ、赤月、お前は俺の事をビビリ君だと思ったろっ!」

「いい? マリちゃん。男の子は大事に選ぶんだからね?」

「それはつまりい、軽薄でビビリなヒロキ様は男の子では無いと言う事ですねえ」

「ひっでぇ」


 俺には守りたい現実が。


 守りたいと思える人が。


 ―― ここにある。


 第三巻 完 第四巻へ続く。

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