ロキ

 「さってっと!『ロキ』‼」


 雷々々凛はそう唱えながら高速で速弾きをする、その速度に合わせて単発の雷が志村の方向に乱雑に襲い掛かってくる。


 「くっ!!」


 志村は紙一重で雷撃を回避した。不思議なのは此処まで激しい落雷が響き渡っているのにも関わらず、雷々々のギター音はしっかりと聴き取れる事だ。


 「待て待てーィ!!逃さねえぞ!!」


 雷々々は志村が距離をとったとみるや、15フレット辺りで弾いていたギターを、3フラット周辺で弾き始める。すると雷撃が奥の志村付近で暴れ始めた。


 「成る程な、フレットと雷撃の場所に相関関係があるのか…、アイツがハイポジションを弾けば手前側、ローポジションを弾けばこっち側に飛んでくる訳か」


 志村がボソリと考えていると、雷々々に聴こえていたらしく、やっぱり嬉々として、友達に話しかけて来た。


 「フフフアハハ、正解だよ。君、ギターやってる人?」


 「ああ、嗜む程度にはな」


 「良いねえ!こんな関係で合わなかったら是非ビカムフレンドしたい所だよ…。さて、と言うことはこう言うこともわかるよなあ!!『ピックスクラッチ』!!」


 ピックスクラッチと言うのは、ギターを弾くときに使うピックを、弦に押し当てて擦り、ギューンと言う音を鳴らす技術である。それに合わせるように、雷撃が直線に突っ込んできた。


 ガギャチャン!!と言う音と共に、志村の右肩あたりを雷撃が掠めた。


 「アガッッ!!、良かった。雷撃そのものは掠りで致命傷になるような威力では無いな。

(…そして一つ分かったことがある、先程の電撃とピックスクラッチを合わせて考えると、恐らく『ロキ』は、『縦100メートル、横6メートルほどの程の範囲に指板に見立てた効果の雷撃を発生させる』…様な感じか。と言うことは横向きに逃げれば縦より逃れやすいはず」


 志村は横に走り始める。


 「ふーん、もう気がついたか。察しが良いみたいだねえ。それならコレでどうだ!!」


 今度は雷撃が一気に六本現れる。


 「全部抑えセーハかよ!!」


 志村は急いで横方向に転がり込んだ。


 「このままスライドして、一気に!!」

 

 充電するかのようなギター音が響き渡り、そこに16ビートかのように「グァラガッシャァン!!」という後の雷撃が地面を滑走していく。夜も遅いこの通りを一瞬真昼にし、アスファルト一面を粉砕した。


 しかし、志村は寸手の所でコレを凌ぎ切っていた。幸い、先程の雷撃で粉砕されたアスファルトの中に丁度手で持ちやすい大きさのものがある。


 「ちょいと反撃させてもらうぜ!」


 志村はコンクリートを雷々々に投げつけた。

のだが。


 「ヅガッシャァァン!!」


 「なっ…」


 今度は弾いてすら居ないのにオートでアスファルトが撃墜された。


 「済まないねえ!アタイの『ロキ』は飛んで来た物体は全自動フルオートで撃墜するんだよねえ!!この迎撃を突破すんのはそれこそ、岩かアンカーでも降ってこないと無理さ!

本当、『テレキャス』以外のギターだと発動してくんない堅物さ以外は最高だよ」


 余裕シャクシャクで雷々々は語る、それを見て志村は思った。


 「(あっ、ダメだこれ、大人しく逃げよう)」

 

 反撃しようと言う意思もあった為戦闘していた志村だが、何処からどう考えても勝機がないなで撤収することとした。


 先程確立した回避のセオリー通り、横向きに走り、そのまま雷撃の追撃を振り切って逃げ去る事に成功した。


 志村の人影が見えなくなった後、取り残された雷々々は呟いた。


 「うんにゃ!取り逃したか。だがあの戦闘力の低さから鑑みるに、警察と付き合いが多い一般人と考えた方が近いね。倒してもあまり得にならないし、アタイ個人的にも倒したくない…それに」


 雷々々は、アンプリファーの裏側を覗く。『ロキ』の影響か、電池型の形をした本来無いはずの充電残量メーターがあり、黄色になっている。


 「電力自体はしっかりアンプの電池に依存しているせいで、ぶっ放しすぎると普通に充電切れを起こすんだよな…残量は53%か。ちょっと不安だから電池買い直さないとね」


 そう言いながら、彼女は紅い髪を櫛で存外丁寧に整えながら、上機嫌に千鳥足で何処かへと向かっていた。


 電話が鳴ったのはそんな時だった。雷々々は何故こんな時間にと、やや困惑しつつもその電話に出る。


 「…こんな時間になんだ?」


 そう言うと、声の先の人物は些細に話した。


 「…ふ〜ん、うんうん、成る程…つまりその『藤澤藍紗』って子を連れ去ればゴールって訳だ。ありがとね、…しっかし、アタイが言うのもなんだけど、アンタは警察の矜持とかないのかい?」


 声の先の人物は言った。


 「そんなの捨てた」と。


 雷々々は


 「ふ〜ん、そうかい…」


 と、つまらなそうに電話を切った後、


 「もしもし、鋒〜?」


 と、太刀浜に今聴いたことを連絡するのだった。


 

 




 

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