ロックンロールは突然に

 「疲れた...」


 夜遅く、志村は帰路に着いていた。


 志村は映画を観ると疲れるタイプの人間である。ましてやアクション映画は一番疲れる。


 「なんか一度観たら最後まで見たくなっちまうんだよな〜…もう深夜か」


 そんな事を言い、あのシーンはでも面白かったななんて思いつつふらふらと帰る。終電は過ぎてしまったが、そこまで遠いわけではないので徒歩で行ける。


 そうして暫く歩いていると、背中に独特の形のリュックの様なものを背負った髪を赤く染めている少女が現れた。年齢は16か17くらいに見える。中々パンキッシュな服装で、黒いtシャツに見覚えのある気がする黄色い丸に笑顔のヤツがプリントしている。


 「ガールズバンドやっている人かな?こんな時間まで大変だな」


 ボーッと感想を呟いていると、その少女がニヤニヤしながらこっちに接近してきた。


 「(このパターンは…まさか)」


 「六感使いの敵 そのパターン」は正直勘弁して欲しいと言う志村の願いも虚しく、彼女はノリノリで口を開いた。


 「ハーイ!、君〜!警察署の方から出てきたよねー?」


 少女はかなり馴れ馴れしく話しかけて来た。


「あっ、はい。そうですけど」


 志村は取り敢えず返答してみる。この距離感で話しかけてくる人があまり居ないので対応に困る...と思ったがそういえばそんな人とさっきまで一緒だった。

 

「そーかそーか~、おっと自己紹介がレイトだったねえ。アタイは雷々々凛みかづちりん。なんか察してると思うけどアタイらの仲間の太刀浜がKOされたって聴いて送られてきたのさ」


 「はあ..」


 今更「人違いです」と言っても恐らくこのミカヅチなる少女は逃がしてくれないだろう。志村はそう考え、取り敢えず蘭野達の為に情報収集だけした後に逃げてみることにした。


 「..えーっと、雷々々さん?、戦う前に少し話していいか?」


「呼び方は何でもええよ。しかし話したい、ねえ?まあアタイは太刀浜程戦闘好きでもないんで質問タイムは受け付けるよ」


 「(...良かった、少しは情報収集できそうだ)『アタイら』って言ったな?お前らは集団で動いてるのか?」


 そう志村が尋ねると、雷々々は少々返答するか悩んだ末、「まあいっか」と言う風な顔をし、背中からギターを取り出しつつ答えた。


 「正解、アタイらはある人に雇われてんのさ。警察サツの皆さんがどう思っているかは知らんがあの方はアタイにとっては良い人だよ。なんせ初めてアタイのギターを...あっ、質問タイム終了」 


 「終わるの早っ!!」


 志村がツッコミをしている間に、雷々々は持ち運びの音響機器アンプリファーとギターをカチャカチャと繋ぎ終わっていた。


 「質問されっぱなしなのもなんだし、戦闘前にアタイも一つ。アンタ、ロック好きかい?」


 雷々々は単純に仲間が欲しそうな口調で訪ねて来た。


 「(しめた、話題が合うバンドなら、意気投合して戦闘状態を避けれるかもしれない!...Tシャツからすると洋楽好きそうだし、洋楽のバンドで..いや、それ以前に音楽好きとして一番好きなバンドに嘘をつけない。素直に言おう)」


 暫く考えた後、志村は答えた。


 「ああ、好きだよ。個人的には『フジファブリック』とか好きだな」


 それを聴くと雷々々は明らかにテンションのギアを上げて、ピョンピョン跳ねそうになりながら返す。

 

 「おお!良いねえ!!、アタイは『電光石火』とか『陽炎』が好きかなあ。『若者のすべて』も勿論リッスン済みだし!!、ああ、そういえば『ハヌマーン』にも同名の曲があるんだけど、あっちもあっちで良い曲で....いかん、話すと長くなる。ちゃんと命令通りバトろう」


 「仕事に律儀だーー!!」


 志村の悲しき叫び声も虚しく、雷々々は六感を発動する。どんな能力なのかはすぐに分かった。ギターの音が鳴り響いた瞬間、雷撃の轟音が志村の目の前に響き渡った。


 「ロックンロールだぜえ!!『ロキ』‼‼」


 「チッ!(どうする…?逃げて八音さんや藤澤に加勢して貰うか?…いや、あの二人を巻き込む訳には行かないか…、俺一人でやるしかない)」


 蘭野は治療中、七星は出張中。志村は、ほぼ独力で逃げ切る必要に迫られるのだった。



 



 

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