シャルル②
その後も戦闘は一進一退だった。一撃が入れば確実に仕留められる太刀浜と、その一撃を回避する方に特化している蘭野。膠着しない訳がなかった。
しかし、正面で待ち構えていればいい方と、際限なく避け続かなければならない方では、どちらが疲労するのかもまた自明だった。
「ちっ…、拉致があかん」
蘭野は苛立っている様に見えた。志村から見ても、成る程先程から攻撃が命中してきるはずなのにまるで太刀浜にダメージが無い。
「なんだ何だ?一発目以降避けてばっかりじゃねえか」
「?」
太刀浜が余裕そうに言うが、志村は後ろから見つつ困惑する。攻撃自体は間違いなく命中しているのだが。
「(まさか、アイツからすると破壊力が微弱すぎて攻撃の内に入ってないのか?)」
だとすると余計にマズい。蘭野もよく闘い抜けてはいるが、ジリジリと貧なのは間違いない。
「蘭野さん、この場では勝てません!!一旦撤退して応援を呼ぶなりしましょう!!」
志村はそう叫んだが、蘭野は静かに静かに返答する。
「…大丈夫、勝算がなきゃとうに撤退してるよ」
そう言いつつ再び
しかしその間にもう一発太刀浜が放ち、そしてえげつない音をゆっくり立てながら、蘭野の身体を掠めていった。太刀浜にも一撃が命中するが、そちらは相変わらず効いていない。
「…痛いな…、全く、そろそろ終わりか」
蘭野は頭上に影がかかった様な表情で、そう言いながら嘆息する。掠りとはいえ爆破の様な威力が直撃したので、立つのがやっとと言う有様だった。一方の太刀浜は少々期待外れだと言うような顔をしながらも、言動は嬉々としていた。
「ああ、そろそろ終わりだなあ?、チョコマカと良く良く良く良く逃げてくれたけれども、もう限界だろう。礼儀を持ってこの『
そう言い太刀浜がノソノソと近づこうとした瞬間、蘭野は笑みを浮かべて返した。
「違えーよ、『準備』が終わったんだ」
「は?」
「『シャルル』…』
蘭野はよろけたままの姿勢から、指でパチンと音を立てる。蘭野の茶色気味の目が濃い青色に変色し、辺りが突然しんと静まり帰った。
「まだ能力を隠し持っていたのか、ヒヒヒ!!」
太刀浜が雨天中止になりかけた運動会が再開した小学生の様に機嫌を取り戻す。
「隠し持ってたんじゃねえよ、さっきから『シャルル』使って無い。…いんや、『発動して無い』の方があってるか」
「ほう…じゃあ、本当の能力は?」
そう愉しそうに尋ねる太刀浜に対し、蘭野はそっけなく返した。
「お前が知る必要はねえよ」
そう言いもう一回指を鳴らす。今度はバチン!と言う激しい音だった。
そして、突如一斉射撃を喰らった要塞の様な、『ズガン!!!』と言う轟音が太刀浜を覆う。
「グワァァァアア!!!」
と言う叫び声と共に、太刀浜はこの爆音で起きた濁った煙の中へと消えていった。
「…逃げたな。まあ当分追って来ないだろ。ほんじゃ志村君とフレンチでも食うとするかな」
そう言い、何とか体制を立て直しながら蘭野は歩き始めた。
「あの、結局『シャルル』って、どんな
志村が尋ねる。蘭野は少々謙遜しながらも自慢げに答えた。
「『必ず攻撃を回避してからでないと発動出来ない』代わりに『相手に自分の攻撃を認識させない』ざっとこんな感じね。そして認識させていない間はダメージも入らないんだが、解除すると蓄積ダメージを一撃で叩き込める。…恋愛と一緒だな、お互い傷つきあっていた事を知るのはいつも最後なんだよ」
蘭野は最後を神妙な顔で述べた。
「ああ…蘭野さん、昔にそう言う経験が?」
「二次元以外で恋愛したことないから分からん」
蘭野はカラッと何事も無かったかのようにいった。
「じゃあさっきの妄想かい!!」
「…なんかそれっぽい事が言いたかったんよ、ナンカカッコイイジャン…」
と言いつつ、蘭野は今度は本当に哀しそうな表情を浮かべていた。しかし気を取り直して続ける。
「チナミニ、最初に『回避能力』って言ったじゃん」
「はい」
「あれは嘘」
「じゃあアレ素の身体能力だけで回避してたんですか!?」
「『シャルル』をひたすら使っている都合で回避能力が妙に磨かれてねえ、なんか素で出来るようになってた」
「成る程」
(自分の特性に振り回されている人って、意外といるんだな…)きっと彼はこれまでも、真正面から自分の六感をぶつけ続けて来たのだろう。自分が不運に巻き込まれ続けてきたのと少々似ているように。
「…ウップス」
蘭野は暫く歩いていたものの、先程のダメージが抜けきっておらず、膝をついて倒れた。
「蘭野さん!?」
隣を歩いていたら志村が慌てて近寄るり、膝を折って目線を合わせる。
「やれやれ、一撃でこのザマか…運動不足かね」
「いや運動不足は関係ないでしょう…」
「確かに。ともかく、ちょっと『運んで貰う』としますか」
そう言うと蘭野は徐に携帯電話を取り出し、丁寧な口調の男声の電話先に場所の詳細を説明した。
「…ああ、うん、ありがとう。取り敢えずアレ三つ用意しといて。じゃ」
蘭野は電話を切る。一瞬電話先から何かを齧る音が聞こえた。
その瞬間、声の主は目の前に現れたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます