シャルル①
日本・某地
ビル街と、そこにこぢんまりとしているが頑丈なセキュリティの扉。そしてそこを開くと或る数十段はあろうかと言う階段の、薄暗い闇の回廊を下った先で、男女が会話している。男は立ち、女は玉座の様に立派な椅子に座りながら。
女は言う。
「と、まあ、そんな感じだ。要するにお前がすべき事は一つ、『偵察のついでに東京で暴れる』これだけだ」
それを聴くとその如何にも交戦的そうな表情の男は悦んだ。彼女は自分の癖を分かっているらしいと。
「良いじゃないか、俺はそう言う単純なのが好きなんでね。人生設計も単純に、思考回路も単純に…ね!!」
「嗚呼、好きに暴れてくれ。
「『東京の不幸事件』の調査と『警察の麻痺』だろう?、分かってんよ、どっちも破壊すればどうにかなるだろう」
太刀浜と呼ばれた男は答える。女は少々難儀そうな顔をしつつ太刀浜と話を続ける。
「全く、これだから戦闘好きは困る…だが一応協力してくれて嬉しいよ。正直私でもお前は手こずるかもしれん」
「ハハハ、何言ってんだか。こんな巨大犯罪組織のボスが」
太刀浜がそう言うと同時に二人の周囲の照明が灯る。部屋の奥に大量の人員が控えている。その誰もが太刀浜に敵意の目線を向けていた。
「費用対効果と言う奴だよ、お前と戦ったらこん中の何人が消し飛ぶか分かったもんじゃ無い。兎に角自由人は自由人らしく行ってくれ、後は私も知らん」
そう言って女は専用の携帯電話を取り出し、男に差し出す。
「了っ解」
太刀浜は電話を受け取ると、千鳥足を踏みながら階段を登って行った。
その様子を見ると、女の側にいた人物が話しかけてくる。
「…あんなのに任せて良いのですか?」
女は少し考えた後、笑いながら返す。
「アハハハハハ、良いんだよ。そのまま報告してくれれば『目があったら不幸になる少女』とやらに近づける。太刀浜が勝手にくたばってくれれば私達は更に自由に動ける。まあ兎に角、野望に一歩近づく訳なのだからな…」
翌日 東京
志村は豪奢な公園の前で一人の刑事と会っていた。刑事は二十代後半の男で、背は170後半くらい。そして独特の雰囲気をしている。なんと言うか、服装はちゃんとしているのに、雰囲気が結構ユルい。
「成る程ねえ、キミが志村君か。コヤちゃんから話は聴いているよん」
男は口調も何か軽かった。
「あっ、はい宜しくです(この人七星さんのことコヤちゃん呼びするんだ…)」
「ヨロシク、自己紹介するとコヤちゃんと同じ所所属の
そう言い蘭野は歩き出す。志村もそれについていく。
「成る程…(この人頼れるのかな)」
志村は内心ちょっと心配になっていた。その心配が顔に出ていたらしく、蘭野が話しかけてくる。
「志村クーン?、絶対今『この人頼れなさそうだな』とか思ってなーい?」
「…はい、正直…」
「グハッ、お兄さん傷つくよー?…ダイジョブダイジョブこう見えてコヤちゃん鍛えたの俺だから」
「へえ、蘭野さんが七星さんを…」
「…サブカル好きに」
「そっちかよ!!!」
「いやあ、ね?昔コヤちゃんは暗くてね。そんな彼女に趣味を普及したらサブカル好きになっていたんだなあこれが」
この時も蘭野は戯けていたが、少しばかり真面目な口調になっていた。成る程、七星の事は本当に気にかけているらしい。だから信頼されているのだろう。
「それはそうと、まだ俺の『六感』の話してなかったね」
「はい、どんなのですか?」
「まあ、大したこた無いよ、寧ろ偵察向きな気がするねえ」
そう言いながら蘭野は更に悠々と歩いて行き、気が付けば人通りも殆どない暗い通りに入っていた。
「あの、蘭野さん…何処に向かってるんですか?」
志村がそう言った瞬間、蘭野は目線を暗闇に合わせた。
「そろそろ良いだろ、出て来い」
蘭野は、電気で守られた鉄条網の様に鋭い声色で向こうを睨む、暗闇からそれに応えるように相手が出て来た。
「おうおうおうおう…、中々勘が鋭いヤツだなあ、刑事さん」
そう言って出てきた男は退廃的な風貌をしていた、今にも全てを破壊しそうな目つきをしている。そして、余裕そうにゆったりと接近してきた。
「全く…やっぱりお前か、太刀浜鋒」
「蘭野さん、知ってるんですか?」
「嗚呼、
蘭野のこの台詞を、太刀浜は嬉々として受け止めた。
「ソウソウ!!、今回も詳しい事は言えないんだがなあ、要するに『東京を破壊していい』って言われてねえ!!手始めに接敵したアンタらから天国だか浄土だかに送ってやる」
「志村クン、下がってて」
志村は二つ返事で頷き、道の後ろに後退した。太刀浜はそんな志村など気にも止めず、破壊活動を開始する。
「『
そう唱えると、太刀浜の周りを赤い線が幾何学的に交差し、そのまま赤色の気のようなモノになって太刀浜に纏われた。
手始めに彼は近くにあったビルに裏拳を叩き込む。拳がそのままビルにめり込み、炸裂音を響かせながらビルの半分をヒビで覆った。
「な…なんだあれ」
志村が半分震えながら慄いている向こうで、蘭野は至って冷静に分析していた。
「うんと、先程の破壊のエネルギー源は本人じゃなくてあのオーラの方だな…、原理は分からんがあれを纏うと破壊力が上がるらしー」
「成る程、それでどうやって闘うつもりですか?」
「ん?接近戦だけど」
「接近戦!!??」
「しゃーねーでしょ、俺銃とか以外で遠距離攻撃できないんだから」
そう言うと蘭野は何食わぬ顔で太刀浜へと走っていく。左ポケットに拳銃、右には短刀を携えていた
「中々大胆な奴だな…自分から挽肉にされに来るとは…『過剰積載』!!」
太刀浜が戦闘体制で沸き立つ中、反対に蘭野は自分の世界に入り込むかのように静かな雰囲気になっていく。
「…さて、やるか…『シャルル』」
一本の氷柱と雪景色のように、蘭野は飄々としていた。
その氷柱をへし折る為に、太刀浜は殴りかかる。攻撃の度に起きる衝撃音が、志村の頬まで痛め付けてきた。
しかし、そんな攻撃である筈なのに、蘭野の回避行動は的確だった。右に左に、まるで攻撃が始まる前から何処に当たるか分かっているかなように回避する。水平線を横切るボートの様に攻撃を避けると、返す刀で短刀で腕を切り付けた。
「…浅い、攻撃力程じゃないが防御力も上がっていると見て良さそうだ」
「成る程な、『攻撃の位置が見える』概ねそう言う能力だろう。今まで叩き潰して来た奴らに比べればちっとは楽しめそうだ」
渋い顔をする蘭野に対し、太刀浜は余裕そうに臨戦体制を継続するのだった。
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