自閉探索
「...それで、最初に聴きたいんだけど。なんで夜飾区に集中豪雨を?」
七星と志村による事情聴取が始まった。ある意味、これが一番重要だ。
「脅されてたんです…」
八音は震えながら言った。それは、これまでの偽りとは違う、本当の恐怖心を湛えた目だった。
「…誰に、ですか?」
「………」
八音は答えに詰まっていた。どうやら、相当脅されているらしい。
暫くの沈黙の後、小さく頷いた後、漸く重い口を開き始めた。
「最近…こう言う噂、聴いたことありませんか?『不幸な事が続く』…そんな感じの」
「…ありますね、僕ら警察の中では、あくまで眉唾物の『噂』程度に止まっていますが」
「あれ…とある方の『六感』の仕業です、『彼女と目が合った人間をもれなく不幸にする』…そう言う能力です」
八音は吐き出す様に言った。七星は若干たじろぎながらも会話を続ける。そして志村は何か記憶の奥底がフラッシュバックを始めた。
「そうですか…しかしそれを知っていると言う事は…」
「はい…」
その不幸を呼び起こす者に脅されている。そう言う事なのだろう。続けて八音はその者の名前を言おうとする。そして志村はある光景を思い出し、冷や汗と共に息を荒らくする。
「(そう言えば…あの時カツアゲしようとした不良は…普通じゃ考えられない不運に遭遇していた……そして、『彼女』はあの時…確かに…俺と目を合わせようとしなかった…)…まさか!?」
志村の記憶が繋がり、そして八音がその名を言おうとしたその時、その『正体』は、後ろから突如現れ、無慈悲に八音を蹴飛ばした。
「八音ちゃん、よく役目を果たしてくれました。『私の六感を見たものをここに誘導する』って言う役目をね、そしてお役御免です」
「藤…澤…」
志村がかつてカツアゲから助けた少女、藤澤藍沙がその場に立っていたのだった。
「志村さん!、目線切って!!」
七星が叫ぶも、一足遅い。人間は理解していても習慣には逆らえない。もう二十秒程は、藤澤と志村は目線を合わせてしまっていた。
「志村総一、正直私も思うところが少しありますが…どうせこれから私は日本を絶望の底に叩き落としてやるんです、一人目の犠牲となれ。私の『モザイクロール』の」
藤澤の瞳孔からハイライトが消え、烏の羽根の様な黒色に輝く。
直後、先程の戦闘で瓦礫になっビルの破片が、志村の上に降り注いだ。
「『抜錨』!!」
七星が、なんとかアンカーを降り注ぐ瓦礫の上に被せ、志村への命中を防ぐ。その様子を藤澤は拍手しながら見ていた。
「良いね、良いですね。そうやって他人に頼れると言うのは…私には期待できないものだ…おっと」
七星は返す刀で藤澤目掛けてアンカーを振る。しかし目線を合わせながら振れないので、牽制に過ぎない。
「…中々面倒ですね、それ。私もまだやる事が残っているので、一旦帰るとしますか。そこの志村さんに、時間内で私が注げる最大の不幸を積んでおいたので、歩いているだけで致命傷になるでしょう」
その言葉通りに、二発目の瓦礫が志村に降り注ぐ。今度は軽く掠り、ヘッドフォンを破壊し、額と腹部を負傷させた。
「…またかよ…」
志村はそう言い、ガラス片の出血も相まって疲労と負傷で倒れた。
藤澤は甲高い
「…逃げたか…しかしどう言うつもりだろう…」
…成る程、雨を降らせていたのは六感について知っている。つまり志村さんが来ると踏んでの事らしい。しかし、「日本を絶望の底に突き落とす」…一体どうやって。
「…今は考えていても仕方がないか…八音さん、立てる?」
「はい…なんとか」
「それじゃあ、一緒に志村さん運ぶよ」
そうして負傷した志村を運送する
…七星の自宅に。
三時間後
「はあ…ぜえ…!!…ぜえ…!!な、何回かあの世が見えた」
想像の数倍難事業だった。途中で車に何回か轢かれかけ、上から瓦礫やらゴミやらが降り注ぎ、消化器の誤作動で粉まみれになり、球場からの場外ホームランが頭上に飛んでくるその他多数。さらに志村の元の性質が相まって途中で8回ほど道を訊かれたりコンタクトレンズを一緒に探したりした。
「全部…アンカー一本で凌ぎ切りましたね」
「僕だけは目を合わせていませんからね…これで『抜錨』が不幸で起動停止したりしてたら一巻の終わりだった…」
幸い、これで不幸を吐き出し切ったらしい。志村を家で寝かせた後、二人も倒れ込む様に寝込んだ。
翌朝
目を覚ます、全く知らない光景が広がっていた。天井にはシャンデリラ。気がついたらフカフカで寝心地のとても良いベッドに寝ており、毛布には可愛らしい船の刺繍。
寝室を構成するベッド以外の要素はと言うと、白色の机と若干散らばった書類。船関連の本と攻略本が詰まった棚とその上に横一列に並べられた壮観なボトルシップ。そして戦艦のプラモデル。艦名は「ウォースパイト」、「
そんな艦隊を折りたたみ式のドレッサーと化粧品が見守っている。
志村は起きあがろうとするが、全身に激痛が走る。見れば、足、腹、そして感触的には頭に包帯が貼られている。その感覚で昨日のことを思い出した
「そうだった、昨日怪我して」
志村がやや掠れた声で漏らすと、この部屋の主がドアを開けて現れる。
「…良かった、起きましたね。ようこそ我が家へ」
七星は嬉しそうに、しかし目にクマを浮かべながら呟く。
「七星さん…そうか、俺が無事と言うことは『不幸』から守り切ってくれたって事か…ありがとうございます」
「…それが僕の仕事というだけですから」
ぶっきらぼうに言ったが、七星は少しだけ照れていた。
「あの…ところで」
「どうしました?」
志村はふと思った。ドレッサーと丁寧に置いてある化粧品、そしてこの毛布の可愛らしい刺繍…偏見は良くないが…。
「もしかして七星さんって…女性ですか?」
「…うん、僕…乙女だけど…それが何か」
「お邪魔しました」
志村は音速で帰宅しようとする。彼の価値観的には、乙女の部屋というのは簡単に入れるものではなく、ましては好きも何でもない男が無駄なスペースを使うと言うのは、迷惑極まりない行為(だと思い込んでいる)なのだった。
彼は急いで回転し、ベッドから出ようとする。しかし、身体が上手く動かなかった。
「いや待って…なんで急に逃げ出そうとするんですか…何処ぞの経験値稼ぎ用のモンスターですか」
「いや、いやだって。此処って…こんなバグ技みたいな方法で入って良い場所じゃない!!」
「僕の家はラストダンジョンかなんかですか」
と。当分志村は困惑し、七星も困惑していたが、暫く話し合い、漸く落ち着いた。
「ええっと…つまり…要約すると、全く縁がなかったので…こう言う場所だとフリーズしてしまう…と」
「そういう…ことです」
「…いつも通りで良いんですよ…」
雑談を終えると、リビングに案内される。其処で、先に起きたらしい八音が待っていた。
「お願いです、彼女を、藤澤さんを…止めてくれませんか?」
二人が集まるのを見ると、八音は自分も藤澤について、話を始めるのだった…
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