不幸も第六感に入るんですか…?
七星はこの世界の能力の話をすることにした。
「世間一般でも…何か特殊な感性のことを第六感って言うでしょ?…それを拡大解釈して、僕のこう言うのも…『六感』って呼ばれている」
「六感ですか…いや、感覚と言うか物理現象な気が…」
志村が困惑するが、七星は淡々と易しく解説を続ける。
「人間と言うのは…意外と新しい言葉を作りたがらない。既存の単語で表せそうなら…なるべくそうする…例えば日本語なら…movieを映画と訳したり、gramophoneを蓄音機と訳したり。新しい道具を既存の漢字に押し込んでいる…どんな荒唐無稽な力でも、『六感』と言う言葉で押し込めそうだったから『六感』になった…多分そう言うこと」
「成る程?、それで『六感』って…どれくらいの人が持っているんですか?」
「う〜ん…数万人に一人…つまり日本だけでもそれなりに居るは居るね。戦闘に使える様なのは貴重だし…お兄さん。いや、志村さんか。志村さんみたいなのも中々見かけないけど…」
七星は続けて。
「志村さん、今フリーターなんでしたっけ?」
そう言った。志村が首を縦に振ったのを見て、七星は真顔で口にする。
「警察…興味ないですか?」
そう言われて志村はキョドった。有意義な仕事だとは思うが、戦闘経験もろくに無い人間がなんの役に立つというのだろう。そう言う事を七星に伝えるが、それも織り込み済みだと言う風に。
「志村さんの『ソレ』が『六感』だとすると…その性質は追い込まれている犯罪者や困っている人を引き寄せる事。つまり警察なら、とても役に立つんです…六感特課に入る事になるだろうけどそこでも多分…」
「あの、そんなこと言われても…七星さん、俺、学もお金もそんなに無いので、まず採用試験に通らないですが」
「…それは困る…非常に困る…」
七星はそう言う。戦闘前にも言っていたので、どうやら口癖らしい。暫く考え込むと、何か思いついた様で、こちらに目線を合わせ直す。何故か動きが可愛らしかった。
「分かった…じゃあ当分私的に手伝ってもらう…まあ危ない目に遭うかもだけど…僕がなんとかする…これでどう?」
彼は返答に非常に悩んだ。きっとハイと言うことは、曲がりなりにも平穏に過ごせていた日常を放棄し、より危険な場所に行くことだろうから。それでも、人生で初めて、自分の能力が邪魔扱いされなかった事が嬉しかった。そして七星も待っていてくれたので、彼は折れかけていた正義感と、消えかけていた存在証明をやり直すことにした。
「…分かりました、お願いします!」
ここ十年で一番くらいの勇気を振り絞って言った。七星はその勢いに少々笑いながら、喜んで返した。
「フフ…これから忙しくなると思うけど、よろしくね。これ、連絡先」
渡された連絡先を携帯に打ち込む、余りにも交換が久しぶりすぎて慣れておらず、手伝って貰った。そんなこんなで、今日はお互い帰ることにした。
志村はと言うと、爆発してしまったヘッドフォンの代わりを探すべく、駅前の大型家電屋に居た。どれも高いが、背に腹は変えられない様に、金に音楽は変えられない。しかし50,000円も持っていないので、有る程度安くて良い奴は無いものか。そう思って大量にぶら下がっているヘッドフォンを観ていると、同じ様に真剣な眼差しでヘッドフォンを観ている少女がいた。
「この型はサラウンドが…でもマイク性能が良くて、これは両方良いよね、ハイレゾも良好…」
志村はこの綺麗な声に聞き覚えがあった。
「あの、もしかして、藤澤さん?」
「ひゃえっ!?、あっ、志村さん?この間はありがとうございました」
余程の人見知りなのだろうか、相変わらず藤澤は目線を合わせようとしなかった。
「ああ、いやいやアレは全然。それはそうと、藤澤さん、そう言うの好きなんですか?」
「はい!、と言うかゲーム実況者的なモノをやっておりまして…ヘッドフォンが命というか」
「ゲーム実況者ですか」
「ええ、ええ、それなりに人気あるんですよ?」
そんな会話をした後、安めかつオススメのヘッドファンを教えてもらった。ヘッドフォンやゲーム実況の話をしている時の藤澤は、本当に目が輝いており(目線は合わせてくれないが光が漏れ出ていた)、自分もそれくらい熱中できるものがあれば…などと思いながら列に並び、オススメされた品を買って早速曲を聴いてみることにする、
記念すべき一曲目は『モザイクロール』にしてみた。往年のギターが良く響いていて、以前と遜色のない音質だった。
藤澤に感謝しつつ、取り敢えず志村は帰宅したのだった。
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