抜錨
そうして志村が観念していた時、また足音が聴こえた。一瞬この黒フードの男の応援が駆けつけてしまったのかと思ったが、違った。
「チッ…サツか」
男がそう言ったので、志村も細めていた眼を急いで元に戻す。どうやらまるで運が向いていない訳でも無いらしい。確かに目の前には見慣れた服装の見慣れない人物が立っていた。
「……危ないんで、やめてくれませんかね…」
警官はそう言う、上背はそこまでなくて160後半くらい。薄く白色にも見える様な綺麗な茶色の髪の毛と、それと同様に綺麗な瞳。若干着崩した警察制服がよく似合っていた。
何故か帽子は海軍の物の様になっており、そして声は男声としては普通なのだが、寧ろ女声の低音の方に似ている。某二人組文学バンドのボーカルと例えると結構近い。
「言われてやめるかよ!!それに見ろよ、コイツがどうなっても良いのか!?建物みたいに爆破してやるぜ?」
フードの男は志村の頬を人差し指でグイグイ押しながら言う。
「良くない…それは非常に困る…
この
七星と名乗った警官は、眉を顰めながらその瞳を左右させて言った。志村は、そんな事より早く助けてほしいと思っていた。
「だろう!!じゃあ大人しくしてることだなサツさんよお!!」
「そういう訳にもいかない…貴方を完膚なきまでボコボコにして、そこのお兄さんを助けるのが仕事…それにそれが出来るくらいには僕は強い…お兄さんを返して大人しく捕まるの…推奨」
「ヘッ、言ってろ。俺は今までもそんな事を言ってきたサツを何人か吹き飛ばしてやったんだ」
「前例だけで何とかなると思うのは良くない…警告、捕まるか酷い目に合うか選んで」
七星は徐々に眼光の強度を強めて言う。しかしそんな事はこのフードの男には何処吹く風だった。
「だから人質がいるんだって何度も…」
男がそう言うのを遮り、七星が語気を高速道路に入った車のように強めて言う。
「分かった…それが答えか…良いぜ…コンクリートの藻屑にしてやるぜぇ!!!『
七星は突然、何か入ってはいけないスイッチが入ってしまった声で言う。声も低回転から高速回転に入ったDVDの様に上向いた。
そして頭上から、空が割れたような音がしたと思うと、全長3メートルは有ろうかという巨大アンカーが現れた。そして空中で高速回転している。
「いや…物理法則、物理法則どうなってんの」
志村は頭の処理を超えた現象に、この日何回目かの処理落ちをしていた。そしてフードの男の方もその無茶苦茶さに震えていた。
「オラァ!!沈めてやるぜえええ!!!」
七星が叫ぶ、その掛け声と共にアンカーが志村と男の方向に鈍い風切り音を立てながら突っ込んでくる。
フードの男は逃げ出し、志村だけが放り出された。
そしてアンカーは志村の目の前の地面に突っ込み、映画でしか聴いたことのないような轟音を立てて道路にめり込んだ。
「ほら!それに捕まってろ!!」
「あっ、はい!!」
志村が捕まると、UFOキャッチャーの様に徐行したアンカーは、七星の手前で一旦何処かへ消えた。パタっと着地音が響いた後志村は
「えっと、ありがとうございます」
そう言い、一方の七星は。
「いいよいいよ、それより野郎カルマンラインの彼方までぶっ飛ばしてやるわ!!!」
と相変わらず叫んでいた…勢いの高低差で風邪を引きそうである。
「畜生、人質が…が、問題ない。あいつを爆破して仕舞えば」
「へえ、まだやるつもりなのか。良いね良いねぇ『抜錨』!!」
そう言いもう一度亜空間からアンカーを取り出す。そして容赦なくそれをもう一度路地裏に撃ち込んだ。
しかしフードの男はそれを横に回避すると、ポケットから野球ボールを取り出し、投げつけてきた。即興の割には軸のある回転をしたそれは、志村達の前で大爆発を起こした。音というか鉄板で後頭部を殴られた様なという表現の方が近い爆発は、辺り一面を煙まみれにし、ビルにヒビを入れた。そして避けた先のアンカーが刺さりっぱなしだった。
「勝った…勝ったぜ!!」
フードの男がそう言うも、煙が晴れてくると徐々に事実が浮き彫りになる。目の前には、巨大なアンカーがもう一本直立で刺さっており、爆風を完全に防いでいた。
「いつ一本しか出せないって言った?」
「あ…」
万策尽きたとばかりに逃げ出そうとする男だったが。
「轟沈しろやぁああ!!」
と、後ろからハイテンションでアンカーが突き刺さり、悲鳴と爆炎と共に吹き飛ばされて動けなくなっていた。
「一隻撃沈…と、え〜っと…災難でしたね、大丈夫でした?」
戦闘が終わってアンカーをしまった途端、元のテンションに戻る。どうやらアンカーを握ると人が変わってしまうタイプらしい。
「あっ、全然…俺、歩くだけで災難に遭遇する体質なので…それよりあの人無事なんですか?」
「峰打ちだから…大丈夫…」
「(アンカーに峰打ちとか有るんだ…)」
「それより…何その体質…気になる…非常に気になる…」
「…あんまり面白い話はできませんけどね」
志村は名前を名乗った後、自分の『体質』や、これまでの人生の話を軽くしてみた、七星は真面目かつ、何処か哀しそうな表情で聴いていた。そして聴き終わると彼(彼女かもしれないが)は言った。
「成る程ね…可哀想に…。ところでそれ、僕と同じ『六感』かも…」
「『六感』?」
七星は話を続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます