三章:叉鬼とおともだち その1
昔、と言ってもそう昔じゃなかったはずだ。
二年とかそこらの前の話。
小さな、本当に小さな、人にいう程の事でもない人助けをしたことがあった。
あれは冬のこと、雪が降った寒い日だ。
その日は入試試験があって在校生は全面的に休み。
部活すらもなかった。
普段の僕なら外にすら出なかったであろうがちょうど叉鬼の入試があって外に出たのだ。
ちょうど雪の日で、叉鬼は来年から高校生で、だから彼女の中学の制服を写真に撮るいい機会だと思ったのだ。
今より少し幼い顔立ちの先が中学の制服を身にまとって校門をくぐる様子を写真に収めて僕は帰路についていた。
見慣れない制服を身にまとった少女があたりを見渡してきょろきょろしているのを見つけた。
小柄で華奢な体躯。
薄めの髪色の如何にも小動物的な少女だった。
僕は愚かなもので、彼女に声をかけた。
「何か困ってる?」
どうやら彼女は僕の高校を受験しにきた中学生だったらしく、制服を見たとたんに何か救われたような顔をしていた。
「あ、あの……道に迷ってしまって」
「行先は?」
僕が聞くと彼女は僕が通っている高校の名前を口にした。
まあ、予想通りだった。
「ああ、それなら案内するよ」
僕が言うと彼女はまぶしい笑顔を浮かべながら「ありがとうございますっ!」と頭をさげた。
それから僕は彼女を高校の正門の前まで案内した。
彼女とはそれっきり。
名前は聞かなかったし、顔も名前も覚えていない。
今思い返せばあの親切は無駄なことだって思う。
――だって僕は、叉鬼に〝自分は迷っている子を助けてあげる優しい人間なんだ〟って見せたかっただけなんだ。
普段からこういうことをしていれば、きっとどこかで叉鬼が見ていてくれるそんな気がしていただけなんだ。
なんて、愚かな人助けなのだろう。
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