二章:お兄ちゃんと周りの人たち その7

 僕は帰宅後、リビングで何をするでもなくぼーっと過ごしていた。

 リビングから庭に繋がる大きな窓から人みたいな名前をしている鶏が歩いているのを眺めながら、先ほど入れた紅茶を飲む。

 詳しいわけでもないし、こだわりがあるわけでもないが、紅茶を飲むときはいつも無糖なのがお決まりだ。

 なんというか、飲んだ後に口の中に残り続ける甘さがあまり好きじゃない。

 対して叉鬼は甘い紅茶が好きだ。

 ミルクと砂糖をたっぷり入れて飲む。

 彼女の好きな甘ったるいミルクティーは彼女の愛らしさによく似合っている。

 嗚呼、思えば彼女の存在は僕にとっての砂糖菓子かもしれない。

 彼女を見ると、声を聴くと、全身に溢れ出す高揚感と言う名の甘さ。

それが、彼女が目の前に居なくても意識の中に残留し続ける。

――こんな感情、間違っているって分かっているから僕は甘味類を好ましく思わないのかもしれない。

そんなことを考えると玄関のドアが開く音がした。

叉鬼が帰ってきたらしい。

しばらくして、リビングのドアが開く。

「ただいま~叉鬼のご期間ですぞ~」

 ふわりとツインテールを揺らしながら入ってきた叉鬼。

 そして――。

「お邪魔します」

 聞きなれない声と共に入ってきたのは叉鬼の友達であろう女の子だった。

 小柄で華奢な体躯。

 薄めの髪色の如何にも小動物的な少女だった。

 名前は確か――。

「先輩、いらっしゃったんですね♪ 園田そのだですっ、覚えてますかぁ?」 

 園田あみ。

 人懐っこい性格に小動物らしい小柄な見た目、ぱっちりした大きな瞳で男子人気が高かったのを覚えている。

 学校じゃあまり目立たない僕にも話しかけてくるレベルの女の子だそれはよくモテる。

「ああ、覚えてるよ。学園祭の時、写真部の展示に来てくれたよね」

「はわぁ、嬉しいですぅ」

 園田あみの存在自体は覚えているが、不思議なのは叉鬼と仲がいいことだ。

 一切、彼女と仲がいいなんて話は聞いたことがない。

「叉鬼、彼女は友達?」

「うん、最近仲良くなったのだ」

 なるほど道理で僕が知らないわけだ。

 この子は正直苦手だけれど、叉鬼の友達ならそうは言っていられない。

 僕はティーカップを持ちながらソファーから立ち上がった。

「リビング使う? それなら僕は部屋に行ってるけど」

「わたしの部屋で遊ぶからお構いなく」

「そうか、じゃあ後で飲み物とお菓子持ってくよ。何がいい?」

「う~ん、ミルクティー、甘い奴。お菓子は……お兄ちゃんお手製のホットケーキがいいにゃ~」

 叉鬼は後ろに手を組んで、背中を反らせながら上目遣いをしてくる。

 いたずらっぽい視線に僕の心臓が高鳴る。

「普通のホットケーキだぞ?」

「お兄ちゃんの愛が籠ってるでしょ?」

「ああ、そうだな……そうかもしれない」

 僕はいったんティーカップをテーブルに置いてキッチンの方へ向かう。

「じゃあ、ホットケーキ。持っていくよ、バターとメープルシロップたっぷりでいいよね」

「いいです」

 叉鬼は片手を上げながら高らかに宣言。上げた手を園田の肩に回してリビングから連れ出す。

「あんなに可愛くおねだりされたら仕方ないよな」

 僕は普段使わないエプロンを取り出して料理作りを始めるのだった。

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